表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍神の詩5 - 七色の羽根  作者: 白楠 月玻
八章 黒の旗
51/69

八章五節 - 嵐雨と城下拠点

 中州兵が減ったために多くの華金兵に囲まれ、未だに川の中ほどで戦う彼らは大丈夫なのだろうか。水位が増すにつれ、足場も悪くなる。

 一人の華金兵が流れに足を取られ、周りにいた仲間数人を巻きこんで転倒する。たまたま浅いところだったのか、少し流されて再び立ち上がったが、これからさらに水位が増していけばどうなるか、想像は容易についてしまう。


乱舞(らんぶ)、先にあがりな」


 川の中ほどで戦う大斗(だいと)が、息をつく合間に命じた。


「いやだ」


 しかし乱舞は即座に拒否する。


 目の前の相手と切り結びながら、大斗は目を細めた。与羽(よう)がこの顔を見たら、あっという間もなく逃げ出すだろう。

 急に増した大斗の殺気にひるんだ華金兵の腹に蹴りを叩き込み、大斗は乱舞の襟首を乱暴につかんだ。


千斗(せんと)


 少し後ろで戦う弟の名を呼びながら、乱舞を背後に押しやる。


「お前も先にあがってな」


 そして大斗は再び戦いはじめた。


 乱舞を無言で受け取った千斗は、細い体からは想像もつかないような怪力で抵抗する乱舞を引きずっていく。

 彼らを守るために、土手のすぐ下で戦っていた華奈(かな)が数名の中州兵とともに川に踏み込んだ。


 その気配を感じながら、大斗は前方に目を向けた。

 彼自身かなり前のほうで戦っているつもりだったが、さらに先で卯龍(うりゅう)北斗(ほくと)が刀や槍で応戦している。膝まで水に浸かっているにもかかわらず、その動きに無駄はない。

 お互いに助け合いながら武器を振るう二人の顔はどこか寂しげで、しかし固い決意が感じられた。


 そして彼らとやや離れたところに雷乱(らいらん)


「あいつ……」


 大斗は舌打ちした。


「与羽は中州川で戦う危険を話さなかったのか?」


 話していないわけがない。与羽の賢さ、慎重さは知っている。

 必要なこと、気をつけるべきことはすべて伝えてあるはずだ。

 雷乱が忘れているのか、大したことないとたかをくくっているのか。どちらにしても、彼を城下町まで連れ戻す必要があるようだ。そして、その役目は大斗が負うべきだろう。


 そこまでほとんど瞬時に思考して、大斗はさらに川の中央へと踏み出した。


九鬼(くき)大斗!」


 それを制止しようと叫んだのは華奈(かな)か。

 大斗は振り返らなかった。目の前の敵と切り結び、さらに先へ――。


 雷乱はずっとひとりの相手と戦っているようだった。彼らの周りにはほかの華金兵もいたが、二人の気迫と増えてきた中州川の水で手が出せずにいる。

 雷乱と戦う華金兵は、大柄な雷乱とは頭一つ分以上の身長差があったが、それをものともせずに対等に戦っている。

 まとった鎧の質からして、それなりに地位と能力のある武士なのだろう。

 わずかに見えた横顔は若そうだ。まだ三十を超えていないように見える。


 大斗は彼の剣筋を見てわずかに顔をしかめた。最初に浮かんだのは、比呼(ひこ)の剣。もっと言えば暗鬼(あんき)の剣だ。

 正確に相手の急所を狙い、手間と労力を最小に抑えて相手を(ほふ)る殺しの剣。

 首筋、脇、眉間。鎧の隙間を狙って鋭く出される突きを雷乱が紙一重で受け流す。

 攻撃を大太刀でさばく雷乱の隙をついて、相手が左手をひらめかせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ