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龍神の詩5 - 七色の羽根  作者: 白楠 月玻
七章 黄金の旗
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七章一節 - 霧雨と演説

 普段の中州(なかす)城下町の人口は二万人ほど。

 城下周辺に住む農民や官吏などを含めても三万に少し足りない。小国中州最南端にして最大級の町だ。


 しかし、現在の城下町にいるのはその半分ほどの人数だった。もしかすると、さらに少ないかもしれない。老人子どもをはじめとし、多くの町民農民はより北にある町村に避難してしまった。

 体が不自由な人、身寄りのない人々も城下町の北にある月日(つきひ)の丘、南にある紫陽(しよう)家の地下などに避難している。


 そして、中州城下町を陸から切り離している中州川の土手には屈強な男たちが集まった。いや、長刀(なぎなた)姫の異名をとる華奈(かな)をはじめとして女も十数人混ざっている。

 一番若いのは九鬼(くき)家次男――九鬼千斗(せんと)だろうか。それよりも若い者は、町の中や北の村などの警護にあてられ、前線には立たない。


 中州城主――乱舞(らんぶ)(さや)に収まった刀を地につき、真っ直ぐ彼らを見ている。

 その横には白髪が特徴的な中州最上位の大臣――古狐(ふるぎつね)卯龍(うりゅう)と、武官二位――九鬼大斗(くき だいと)が乱舞を挟んで立っていた。


 乱舞が皆を見回して悲しそうにほほえんだ。


「怖い人、戦いたくない人は逃げても良い。

 命は大事な物だ。この町のためなら(おびや)かされても良いという人だけ残れ」


 乱舞がそう言っても身動きする人はいない。


 誰かが、「私の命、この町のためなら捨てられます」と言った。それに何人かうなずく。


「いや、死ぬつもりの人は帰ってよ」


 乱舞ははっきりした口調で言った。


「いい? 町は家並みがあってこその町。だから、君たちはこの町を守らないといけん。そして、町は住む人がいて、活気があってこその町。だから、君たちの誰か一人でも死んじゃいけん」


「そして町は治める人がいてこその町です。城主、あなたが死ぬことも許しません」


 誰かが言った言葉に乱舞は「揚げ足を取らないでよ」と困ったように笑んだ。


「まぁ、そういうことだね」


 乱舞はきまり悪そうにぼそりとそう締めた。

 しかし、本当に自分たちを気遣ってくれている若城主の言葉に、人々の士気は高まっている。みな硬い表情をしつつも、まっすぐ顔をあげていた。


 その先には、小雨にぼやけながらも異常なまでの存在感を示す重々しい軍団――。


 その様子を与羽(よう)は天守閣の最上階から眺めていた。普段は庭の片隅に追いやられ、飾りにしかならない天守閣も戦の時にはその役割を果たす。


 与羽の隣には老年の武官が立っていた。

 武官二十位―― 一鬼氷輪(かずき ひょうりん)。華奈の祖父だ。かつてはさらに上位の官位を賜っていたが、若く力のある人々に順位を譲り今は二十位まで下がっている。

 しかし、順位を持つ上級武官の中では、最も高齢で経験もある。最上位の武官――九鬼北斗(くき ほくと)からも尊敬される優秀な人物だ。


 彼は、右手で槌状のバチを握り、まっすぐ下を見下ろしていた。

 すぐそばには(かね)。これを用いて、中州の軍に戦況や指示を伝えるのだ。経験があり信頼があるからこそ託された役。

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