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龍神の詩5 - 七色の羽根  作者: 白楠 月玻
六章 銀白の羽根
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六章七節 - 五月雨と乳兄弟

 

  * * *


 中州城の敷地に間借りして建つ古狐(ふるぎつね)の屋敷の一室。母屋から離れた西の離れに辰海(たつみ)の私室はあった。

 十二畳の部屋は半分が畳敷きで、もう半分が板敷き。畳敷きの方は私生活を行うための空間になっており、板敷きの方には書棚が並べられている。そのさらに奥、ふすまで仕切られた別室は書斎だ。

 家族も使用人も母屋や北の離れで過ごしているため、この西にあるの離れはひっそりとしている。


 辰海は筆を止めて、斜め前に座る青年を見た。


「どうした?」


 それにすぐさま気づいて、青年は首を傾げつつ尋ねる。吊り上り気味のぱっちりした目が特徴的な顔に浮かべた笑みは、とても人懐っこい。


「なんだか、僕の部屋に太一(たいち)がいるのって、すごく久しぶりだなって」


 辰海の乳兄弟である太一は、中州の隠密。普段は中州を離れて暮らし、帰ってくるのは城主に指示されたときと、今回のように何か問題が起きた時くらいだ。


「俺はそんなに久しぶりな気はしてないんだけどなぁ。辰海が変わってないからかな。顔がよくて、頭も良くて、器用で、器量も要領もいいはずなのに、与羽(よう)が絡むと途端にダメダメになる残念さ」


 太一はこれ見よがしにため息をついて見せた。


「引け目があるのは分かってるけどさぁ。与羽はそんなに根に持つ子じゃないと思うな」


「わかってるよ。それでもね……」


 辰海は自分が書いていた紙に視線を落とした。


「そういうことも含めて――」


 つぶやくように言って、そこに筆をはしらせる。走り書きのようでありながら、きれいに整っていて読みやすい。


「小説かよ、って長さだよなぁ」


 太一がそれを見て笑う。


「与羽には伝えたいことがいっぱいあるから」


 辰海が浮かべた笑みは、(うれ)いと熱い想いがないまぜになってどきりとするほど美しい。


 ――そういう顔は与羽の前でしろよなぁ。


 思わず目が離せなくなりながらも、太一は内心あきれ返った。


「太一は前線には立たないよね?」


「もちろん。隠密が華金兵に顔を見られるわけにはいかないから。俺は明日か明後日かくらいには、城下町の民を護衛して北に逃げさせてもらうかなぁ」


「じゃあ、その時にはこれも一緒に持って行ってくれる? 僕に何かあった時は与羽に――」


 辰海は書きかけの遺書を目線で指した。


「お安い御用だけど、できる限り自分の言葉で伝えなよ?」


 ――どうせこいつに何かある時は、与羽に何かあった時ときなんだから。

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