五章六節 - 枯花の記憶
「雷乱……」
「黙れって言ってんだろ」
雷乱の声は低く、怒っているようにさえ聞こえた。
「そのうち、下の姉が死んで手に入った金も尽きた。オレはまた戦があるってんで、志願した。今でもあの時行ってなけりゃあと思うぜ。
戦は長引いた。何とか生き残ったオレは、妹が気がかりで、もらった金でみかんを一つ買って家に駆け戻った。そうしたら――」
雷乱がきつく歯を噛みしめるのがわかった。
「妹は風邪をこじらせて、すげぇ弱っててよぉ」
その時を思い出したのか、雷乱の声は震えている。
「看病したぜ。付きっきりで。家中から金かき集めて、売れるものは親父の刀でもおふくろや姉の着物でも髪飾りでも何でも売って金にした。妹は形見なんだからやめろと言ったが、関係ねぇ。最後には自分の刀まで売りとばした。
妹の奉公先や知り合いを片っ端からあたって、金を借りもした。返せるあてはねぇ。だが、そうするしかなかった。華金の奴らにしたら、オレは大罪人さ。
だが、最後の、大事な、家族。だったからな」
雷乱は噛みしめるように言う。
与羽は無意識に自分の胸に硬く握ったこぶしをあてた。
「あの日は忘れねぇ。春だったな」
雷乱は話し続ける。
「妹は少しだけ回復してくれた。何とか立って歩ける程度には。だが、妹にはそれが一時的なもので、助からないってわかってたのかもな。
妹は花をねだった。昔、親父も弟も生きていたころみんなで行った川原に植えられた藤の花。歩いて一刻かそこらか。オレは早く行って帰りたくて全力で駆けてったぜ。
まだ藤の時期には早かったがそれでも少しだけ咲いてる花を見つけて大事に散らさないように、走って帰った。
帰ったら妹はいなかった。
床には、オレたちにとっては少なくねぇ金が置いてあった。
オレは妹を探して、町中を駆け回ったな。妹は、……すぐに見つかったぜ」
雷乱の口元が苦々しい笑みでゆがむ。
「人だかりができてたからな。池に、身投げしてやがった。真っ青なやつれた顔で、冷たくなってやがった」
「雷乱……」
「黙ってろって言ったろ。もう少しで終わる」
今度の声は弱々しい。
「そのあとは、家も捨て家族のわずかな形見と親父に昔頼まれた手紙だけを持ってさまよった。どうやって生きてたのか、オレ自身覚えてねぇ。
だが、そうだな。オレは中州に行きたかったんだろうな。その時は北にある小国としか知らなかった、親父が前城主を殺した国。親父の残した手紙を持ってかなくちゃならなかったから。
風のうわさに華金が中州と戦をすると聞き、志願した。今までは一応武官の扱いだったが、今回は農民の歩兵と変わらねぇ。貧相な武器を与えられて――。
あとはお前の知る通りさ。戦の最中に華金を裏切り、お前に会った」
雷乱の父が残した手紙は与羽が受け取り、先代城主――翔舞の死の詳細とわずかな形見の髪を手に入れた。




