二章四節 - 宵口と不穏な報告
大斗の拗ねたような声に、絡柳は肩をすくめつつも彼の希望通り話しはじめた。
「薬師夫婦は華金山脈の南部、中州と華金と黒羽の国境付近を回っていたそうだ。黒羽から中州にもどる道すがら華金の村に寄ると、そこには老人と女性、子どもが多く男が心なしか少ない。
話を聞いてみると、男たちは王都近郊の街道整備と言って連れて行かれたが、そんなこと村人は誰も信じていない。また戦に連れて行かれたのだ。帰ってこないかもしれないと皆嘆いていたんだと。
試しにもう少し華金の村や町を回ってみたが、どこからも数人から十数人、力のある若い男たちが王都へと連れて行かれていたそうだ。
そこで、華金の王都付近に潜伏している中州の隠密の一人に連絡を取ってみたが、街道整備なんてされていない。他の人出が多くいるような工事も行われていないと言う。それで、これはやはり戦のために人員を集めているのだろうと言うことになり、急いで中州へと駆けもどったと言うわけだ」
「『華金の王都に潜伏している隠密に連絡』って、何をやったわけ? 華金は広いだろう?」
「さぁ? そこは隠密たちの秘密なんじゃないか? 薬師夫婦も旅回りの医者と言いつつも、他の国の情勢を見て回る隠密のようなものだし」
「……野火竜月」
「は、はいっ!」
大斗に低い声で名を呼ばれ、竜月は返事をしつつも体の大きい雷乱の後ろに隠れた。
「おい」と雷乱が不快げにするが、大斗にすごまれるよりはましなので、そこから動かない。
「お前の兄は華金王の動向を探る隠密でしょ? 知ってるんじゃないの?」
「しっ、知りません! たとえ知ってても、教えませんっ! お兄ちゃんに誰にも言っちゃダメだって――。あ……」
「竜月ちゃん」
与羽が呆れたように言うと、絡柳も「和むな」と少しだけ温かい目で竜月を見た。
「大斗先輩、言いたくないみたいなので、あまり聞かないであげてください」
この場は与羽が何とかとりなす。
「ふふん? まぁ、いいけどね」
大斗は意外なほどあっさり折れた。
「絡柳、戻るよ」
「全く……。お前は本当に自分勝手だな」
口ではそういいつつも絡柳は素直に従う。
与羽は動かない。
「あぁ、この話は他言無用で。不確かな情報で民を不安にさせたくない」
「同感です」
「はい」
「わかりましたぁ」
絡柳の言葉に雷乱以外の三人が返事をし、雷乱は軽くうなずく。
絡柳もその反応に満足したように一度うなずいてみせて、やや前方で待っている大斗を追い掛けた。




