9.唇に
遅れましたが、9話です。
ついに、メインに入っていくかという感じです。
今回と次回で第3章となります。
それでは、お楽しみ下さい!
story,3
何故か背後からぎゅぅっと締め付けられているような気がする。これはもしや金縛りか、とゆっくり目を開けた、ある日の朝方。
ぱちっと目を開けると、後ろから安らかな寝息。腰に回された腕。そして私の鼓動が高鳴る。犯人は100%、あの人しかいないと感づきながらも、私は後ろを盗み見た。
「(やっぱり…)」
私を抱き枕替わりにして、ぐっすりと眠るキトさんがそこにはいた。100%、私の予想は的中したのだった。
ドクン、ドクン、ドクン、
「…(体もたないっ//)」
キトさんの息が顔にかかる。腰に触れている、キトさんの体温。それにこの状況に耐えられない私。このままこうしていれば、私の心臓がもたない。
スースーと、顔にかかる息があったかくて、少しくすぐったい。
「…(スースー)」
キトさんの吐息とか、寝息とか、もう全てが私のものなんじゃないのかっていうくらいに、恥ずかしい気持ちと同様に、キトさんを自分のものにしてしまいたくなる。
「…(このまま、キスしてしまいたい)」
全部、キトさんが無防備だからいけないんだ。
ドクン、ドクン、私の鼓動が速い。はっきりと、わかるくらいに。
私はキトさんの方を向いた。目の前にキトさんの、唇。ああ、どうしよう。本当に、私は。
今しても、キトさんはきっと気付いてはくれないでしょう?全部、キトさんが無防備だからいけないんだ。
ならしても、かわらないでしょう?
「…キトさん…」
小さい声で呼んだ名前はこの静かな部屋に、大きく響いた。
キトさんからはなんの反応もない。
私のこの気持ちがキトさんに、ほんの少しでも伝わってくれるといい。
「キトさん…」
唇をそっと近づけた。もう少しで届く距離なのに、触れそうで触れないこの距離が、近くて遠い私たちの関係をはっきりと示していたように、思えた。
キトさん、キトさん、と繰り返し名前を呼ぶ。繰り返し、繰り返し。とても愛おしくてたまらない、私の先生。
「…んっ……」
ほんの2秒くらいだったけれど、私はキトさんにきつく唇を重ねた。すごく体が熱くて、もう死ぬんじゃないかっていうくらいに。
私は、今抱いているこの気持ちがキトさんに伝わって欲しいと、強く思った。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます!
今回はどうでしたでしょうか?
アリヤが頑張った回となりましたが、楽しめましたでしょうか?
次はキトさん視点です。
楽しみにしていただけると、嬉しいです。