7.約束
7話です!楽しんで下さい!
それでは、どうぞ!
キトさんと、ある約束をしたのは去年の夏だった。マロニアル家で働き始めてから、約半年後のこと。私とキトさんが出会ってから、1年が過ぎた頃だった。
『アリヤ、もう帰るの?』
とある日の夜。マロニアル家を出る時に、イルナ様に呼び止められた。イルナ様は、私と同い年なのである。
『はい、もう夜遅いですので。イルナ様、また明日お話しましょう』
そう笑って言った私は、明日もイルナ様に会えることを楽しみにしていた。
『そうね、また明日ね』
イルナ様も笑ってくれたので、嬉しかった。
『おい、アリヤ。早くしろ』
前を歩くキトさんがそう言う。私はキトさんに逆らえない。助手なのだから。
『それでは、おやすみなさい。イルナ様』
軽く会釈をし、マロニアル家を後にした。何度見ても、大きい家。
『おやすみ、アリヤ。絶対ね』
イルナ様の声がはっきりと聞こえたとき、私はとても嬉しかった。
ずんずんと前に進んでしまうキトさんを、私は必死で追いかけた。
ー帰り道。
『ふん、ふん、ふーん♪』
明日もイルナ様と会えることが、楽しみで仕方がない。
『どーした、そんな歩き方で』
鼻歌を歌いながら、るんるん気分でスキップをしていると、キトさんに呼び止められた。
『明日も、イルナ様と会えると思ったら、嬉しくて、つい』
すいませんと軽く会釈をして、また前を向いた。
『おまえ、深入りしすぎ』
急に左腕を、強い力で掴まれた。キトさんだ。
『なっ、何がですか』
うつむきがちに合わされた目から、視線を逸らした。キトさんは私の目を、追いかけてきた。
『あと、2年もないだろ』
私の腕を離して、キトさんは呟いた。そして私から、目を逸らした。そうだったと、思い出した。しばらく忘れていた。
『あ、忘れてました』
へらっ、と笑った。
『馬鹿だ、大事なこと忘れて 』
と言った後、キトさんは続けた。
『でも、あと2年もないんだ。2年後には研修も終わって、おまえもここから出て行くだろう。距離を保て、少し近すぎる』
再び、私と目を合わせて、キトさんはそう言った。
『…そうですか』
これからのことも、2年後のことも何も考えていなかった私は、今初めて自覚したのだった。昔の自分のままならば、先のことだけを考えて、ただ勉強しているだけだっただろう。医者になりたいと思い、特に目標もないまま医大に入学した。史上最年少だったらしい。
でも今の私には、目標があるのだ。キトさんの役に立つのだという、目標が。もしかしたら私は、医者になりたいわけではないのかもしれない。今は寧ろ、ずっとキトさんの助手でいたいと、そう思っている。
『約束しろ、これからはこの先のことも考えて生活しろ。別れというものは、深入りした関係こそ辛いものなのだからな』
これが私とキトさんの、約束。
『…はい』
あの時のキトさんの言葉に、とても重みを感じたことを、覚えている。
そして今。
私はキトさんに、深入りしようとしている。
キトさんとした約束を、破るわけにはいかないのに。
「ほら、終わったぞ。早く服着ろ」
背中の火傷の治療は、私がキトさんのことを考えている間に、終わっていたらしい。
「…はい」
ただでさえ、キトさんのことを考えてもやもやしているのに、気を取り戻してもキトさんがいる。
四六時中、私の頭の中はキトさんでいっぱいになっている。もうキトさんしか、見えないみたいだ。
ここ数日、私の世界にはキトさんと私しかいないみたいに。私の目には、もうずっとキトさんしか映らないかのように。
ドキドキして熱くなる、息をするのを忘れてしまうような、この想いを何と呼ぶのか。私には、わからない。
7話目、どうでしたでしょうか?
今回は、キトさんとアリヤの約束がメインでした!
次は、キトさん視点の話を予定しています。
楽しみにして下さると、嬉しいです!