ペットボトルボウリング 3
「先輩、こんにちわ」
声のした方を振り向くと、そこにはタカシがいた。
「おう、タカシ。久しぶりだな」と言いながらも俺は公園の休憩所でまどろんでいた。
「先輩こそ、元気そうで……。相変わらず暇そうですね」
「ああ、暇だ。俺はいつでも暇なんだ」と俺はあくびをしながら言った。
タカシは、俺が通っていた中学の制服を着ていた。つまり、タカシは俺の中学時代の後輩だ。
「受験勉強はしなくていいの?」
「推薦で行くから大丈夫です」
「お前まだ卓球やってたのか」
「これからもやります」
「素人の俺より弱いのにか」
「もう僕の方が強いですよ」とタカシは言って笑った。
「部活終わりか?」と俺はタカシの持っていたスポーツバッグを見て言った。
「はい。今日は自主練でした」
「そうか。じゃあ、元気なんだな」
「ええ、至って健康ですよ」
「いいことだな」
「先輩はここ何しているんですか?」
どこかにいる蝉の声が、響いてきた。それに応えるように、違う蝉が鳴いた。
「俺はペットボトルを集めてんの」と俺はタカシにペットボトルの入ったビニール袋を見せた。
「なんでですか?」
「さぁ、なんでかね? 強いて言うなら暇だし、弟が妹じゃないからかな」
タカシは合点がいかないといった顔をした。眉間には薄く皺ができていた。
「そういえば、お前妹がいたよな?」
「ええ、いますよ。五年生の」
「お前、『お兄ちゃん』って言われてるの?」
「言われてますけど……?」
「いいなぁ、お前は。それだけで兄に生まれた甲斐があるなぁ」
「そうですか?」
「そうだよ。俺は弟に、『お兄ちゃん』なんて呼ばれたくないよ」
「じゃあ、なんて呼ばれたいんですか?」
「うーん……」と俺は前にあった、妙な隙間が空いている木のテーブルに突っ伏した。
「兄上とかどうですか?」
「……。違うな。色々と違うよ」
「そうですか」
「そうだよ」
蝉が一瞬鳴きやんだ。だが、すぐにまた鳴き始めた。
蝉ってどのくらいの命だっけ?
「じゃあ、先輩、僕はそろそろ行きますけど」
「そう? 行ってらっしゃい」と俺はタカシを見ずに言った。
「ペットボトル要ります?」
「ん?」と俺が顔をあげてタカシを見ると、タカシは手に空のペットボトルを持っていた。バッグの口が開いているのを見ると、そこから取りだしたようだ。「いる。欲しいです」
「じゃあ、あげます」とタカシは言って、テーブルにペットボトルを置いた。スポーツドリンクのペットボトルだ。
「ありがとうな」と俺はタカシに言った。「妹を大切にしろよ。嫁に行ったときに泣いてあげるのがお前の使命かもしれないぞ」
「それは親父にまかせますよ」とタカシは言って、歩いてどこかへ消えた。
タカシがいなくなると、蝉はさらにうるさく、わんわんと鳴いた。
生きているなぁ、と俺は心の中で呟いた。