ペットボトルボウリング 2
日焼けは確実だろうな。
そう思いながら俺は、堤防沿いの道を進んでいた。
しかし、海がすぐそこなのに、海が見えないとはどういう拷問だろうか。海は入るか眺めるかするものではないのだろうか?
俺は海へ降りていける入口を見つけると、自転車を停め、そこの階段を降りた。
だが、海はそこになかった。どうやら干潮の時間らしかった。海は遠くの方にあって、いつもは海水のせいで隠れている灰色の泥底がそこにはあった。
そうだった。この海はこういう海だった。海という言葉から想像する綺麗さはここにはないのだった。あー、沖縄に行きたい。沖縄の青い海で泳ぎたい。いや、それは想像だ。沖縄の海が青いのかどうか俺は知らない。
この地元の海を見ても、特に際立った感情がこみ上げてくるわけじゃあない。でも、やはり地元というのは強い力を持っている。この海が何事もなく、ここにあればいいなと俺は思った。
俺は階段に座り、しばらくの間、ぼーっと海を見ていた。果たして、この泥の海を海と呼んでいいものだろうか、そんな事を考え始めた時にペットボトルのことを思い出した。ご主人様のためにも探さなきゃなぁ、そう思い立ち上がると、堤防沿いを歩きながらペットボトルを探し始めた。
しばらく歩いていると、堤防の向こうからエンジン音が聞こえてきた。車は停まったらしく、俺の横からエンジン音が移動しなくなった。するとその音が止まり、バタンとドアが閉まる音がした。俺はなんとなく、堤防を背にしてその場に屈んだ。上を見上げると手が見えた。どうやら堤防に登ろうとしているらしかった。
「いやぁ、悩むことじゃあないと思うよ」と男が言って、海を背にして堤防に座った。
「そうかなぁ?」と今度は女の声が聞こえた。
「そうだよ。好みだよ」
「うーん。でも、嫌いじゃん」
「俺? 俺は嫌いじゃないよ。好きでもないけど」
「うーん」
何を悩んでいるんだろうか? その前に彼らはアベックか? いや、その前にアベックという言い方は古いか。じゃあ、あれか、恋人同士か。
彼らはそこで会話を止めた。
なんとなくその場から動きづらくなった俺には、夏の日差しが襲いかかった。帽子を被ってくればよかったかなぁと思い、何気に持っていたビニール袋を被ってみた。だが、ビニールの感触は、肌にまとわりつき、余計に俺を暑くした。俺は彼らと同じく、じっとしていることにした。
しばらくすると、車のドアが閉まる音がし、続けてエンジンのかかる音がした。俺は立ち上がり、背伸びをした。車はエンジン音とともに、遠くへ行った。
すると、何かが上から落ちてきた。驚いて、横に体をずらすと、落ちてきたそれはペットボトルだった。
「地元の海を」
俺はペットボトルを拾いながら、そう言った。しかし、言うほど怒りはこみ上げてこなかった。
せっかくだから、貰っておこう。上から落ちてくるなんて、天の恵みかな……。いや、待て、人が捨てたものを天の恵みだとしたら、あまりにも情けない気がするんだが。……でも、まぁ、いいか。
俺はペットボトルを、弟から手渡されたビニール袋に入れた。