第3話 「屋根裏部屋」
僕が生まれた育った家の二階には二つの部屋があって、
そこは木の枠組みがむき出しの屋根裏部屋で、
窓からは海がよく見え波の音や潮の香りがして
僕はたいそう気に入っていた。
兄と姉が中学校を卒業すると神奈川県の叔母のところに
いってしまったので僕だけの部屋になった。
その部屋の本棚には世界文学全集が全巻そろっていて
むさぼるようによんだものだ。
2階に上る階段はみかん箱を少し小さくしたくらいの頑丈な箱で
ふたを開けるとたくさんの道具が一つ一つていねいに油紙に
包まれていてその箱が重ねられて階段はできていた
その階段を上りきった所に部屋があるのだがとなりに
もう一つ物置部屋があってそっちのほうは入り口には
戸がないので部屋を仕切っている真ん中の柱に捕まりながら
足をかけて勢いをつけないと中に入ることができなかった。
そこは窓もなく電気もきていなくて昼間でも薄暗い部屋には
いろんなものが雑然とおかれていた。
僕の父は東京生まれなのだが、たまたま軍隊でこの地に
やってきていて終戦をむかえると何を思ったのか
この町に住み着いてしまった。
祖父は東京で工場を経営していたのだが空襲で焼け出され
僕の叔母に当たる娘の嫁ぎ先に疎開していた。
いっぽう父は地主だった僕の母方の祖父にとても気に入られて
田畑のほかに家一軒までも建ててもらい東京の祖父と祖母を
こちらに呼び寄せた。
祖父は東京での再建を考えていたそうだが跡取り息子が田舎に
家をかまえてしまったのでしかたなく引っ越してきたのだった。
その2階の荷物は祖父が持ってきたものだが
子供のころの僕にとってはドラえもんのポケットに
入り込んだみたいでワクワクしながらいろんなものを
持ち出してはよくしかられたものだ。
小学校のときなどは理科の実験で、
先生から必要なものを家から持ってきてと
いわれると何でも持っていったので
友達から「なんでも屋」というあだ名までつけられてしまった。
今でも僕はこの宝箱のような部屋を心の中に持っているので
いつでも取り出すことができる。
第3話 おわり