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思い出  作者: 広瀬修一
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第1話 「かけっこ」

僕は小学校の6年間を通じて運動会の

「かけっこ」はいつも5着だった。


田舎の小学校で男子は24人、ちょうど6人づつになり、

そして6着も決まっていて松山君だった。

そんな松山君だが1度だけ「かけっこ」で僕が負けたことがあった。


松山君には「玉拾いのタツ」というアダ名があった。


どうしてそんなアダ名がついたのかというと、

町の海岸沿いにゴルフ場があり、

1番から9番までは平坦なコースなのだが10番から18番は

山あり谷ありで、茂みや木立がたくさんあったりして、

打ち込まれたゴルフボールがわからなくなってしまい、

お客さんも探すのを、すぐあきらめてしまう。


それを探し出すのが松山君はすごくうまい。

タツとは達人のことで、僕たちはどんなことでも

うまければ、メンコなら「メンコのタツ」、

ゴムのパチンコなら「パチンコのタツ」というふうに、

よんでいた。


ある日学校が終わると松山君にさそわれて、

2人で玉拾いにでかけた。


その日は松山君も僕も、ゴルフボールをみつけることができず

僕は諦めかけていた。


そのとき松山君が「あそこに行こう」と言い出した。

あそこというのは17番ホールのことで、コースのど真ん中に

田んぼがある。


いくら田舎のゴルフ場とはいえ、あんまりな話で

ふつうはクリーク(水たまり・池)だとおもう、


田んぼのまわりには、ネットが少し高めに張ってあるのだが

なにせコースの真ん中にあるのでどうしても

ゴルフボールが飛びこんでしまう。


飛びこんだら最後、ネットの内側にはごていねいにも

鉄条網が張ってあるのでゴルフボールは諦めるしかない。


だけどそこに行けば確実にゴルフボールが拾える、

しかしそこは地主のじいさんが、ときどき見回りに来るので

つかまったら最後、棒でたたかれるのでよっぽどの事が

なければ、だれもよりつかない。


田んぼは、すりばちのようになっていて、

あぜ道の突き当りは壁で、そこだけ鉄条網がとぎれている。


松山君はそのことをよく知っていて、ネットの下のほうを

くぐりぬけて、2人で田んぼに入るとゴルフボールを

探し始めた。


さすが「玉拾いのタツ」の松山君はすぐに2個のゴルフボールを

みつけだした。


田んぼには素足で入いる、なにか硬いものがかかとに

当たって僕もようやく見つけることができた。


そのとき突然松山君がバシャバシャと田んぼのなかを

かけだした。


それと同時に「コラァー”」と怒鳴り声がひびき田んぼに向かって

黒いかたまりのようなものが走って来るのが見えた。


僕はとっさに拾ったゴルフボールを投げ捨て、田んぼの畦に

ぬいであった草履をつかむと松山君の後につづいて田んぼの

壁をよじ登った。


すぐ近くまで爺さんが迫っていた来ていたので

2人は必死になって走った。


前を走る松山君に追いつこうとしたが差が縮まらない、

それどころか引き離されていく。


うしろをふりむくともう爺さんは追ってはこなかったが

松山君はうしろも振り向かずに18番ホールまで駆け抜けていった。


松山君に負けたのはこれ1度きりで、

中学校になると4クラスになり、

松山君とはいっしょに走ることはなかった。


高校は1学年、7クラス、300人のマンモス校で、

またもや松山君とは同じクラスにはならなかった。

運動会ではクラス対抗なので足の遅い僕はとうぜん

選ばれることはないと思っていた。


ところが3年生の運動会の時に「高校生活最後だから全員参加」

ということになり、

僕は初めてクラス代表の200m走に出場することになった。


どうせビリだろうから、最初だけ勢いよく飛び出して、

目立ってやろうと考えた。


そのもくろみはみごとに成功して100mまではトップ集団にいた、

カーブに差しかかると応援の声がきこえてきて、

クラスの女の子が僕の名前をよんでいる、

はじめての経験で「なんかいいもんだ」と思いながら、

ここで1着になったらマンガの世界だが、

現実はカーブで足が止まり、直線になると次々と抜かれて

ビリになることを覚悟した。


ゴールしてから後ろをふりかえると誰かが走ってくる、

よく見ると松山君だった。


僕は心の中でつぶやいた「わが心の友よ がんばれ!」


第1話 おわり

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