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沈黙の引き金

掲載日:2026/02/14

俺は殺し屋。 命の終わりを演出する死神だ。

事務所は高層ビルの二十二階。名前のないドアの向こうだ。

白い壁、小さなテーブル、椅子が二脚。

それだけで十分だった。

ドアがノックされた。男が入ってきた。

灰色のスーツに整いすぎた髪。金の匂いがした。

机の上に封筒を置く。重い音が響いた。

「いつでもいい、何日後でも何十年後でも。ただ俺に知らせず、痛みも苦しみもなく、俺自身を殺してくれ。」

俺はテーブルの下から黒いケースを引きずり出す。

男の瞳が一瞬、大きくなる。

「こいつのもたらす死がいつ来るかは誰にもわからない。俺自身にすら。」

「……それが望みだ。」

男の肩が緩む。安堵の形だった。

書類にサインをもらい、指先で紙の端を折った。

ケースを閉じ、元通り。

時計の秒針が空気を削る。

それで契約は終わった。

男は立ち上がる。背中に軽さがあった。

俺は封筒を数えず、引き出しにしまった。


ドアが閉まる。

静寂が戻る。より重く、より冷たく。


俺は殺し屋。 殺し屋、そう呼ばれてはいるが、俺は一度も殺したことがない。

金持ちから苦痛のない最期を請け負う専門だ。

俺は黒いケースを開けた。

中身は空だった。銃なんて最初からない。

ただの黒塗りの箱。重さだけは本物に似せた。

依頼人は知らない。

知る必要もない。

彼らが金を払うのは、箱の中身じゃない。

「いつか来る」という約束のためにだ。

約束は守られる。

ただし俺は手出しはしない。したこともない。

窓の外、街が光る。

何百、何千もの命が蠢いている。

みんなくそくらえの死に方を恐れている。

俺はその恐怖を、預かってやる。

引き出しから次の書類を出す。

今日も誰かが、安堵のために金を置いていく。

俺はレンタルした高層の事務所を抜け出し家路についた。

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