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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

廃品 ~テキトー世紀末絶望小説

作者: 塹壕の中の貴族
掲載日:2025/12/27

気に入っていただけたら光栄です。

 蜜の香りがする気味の悪い空気だ。死体のある空間に似た、酸素が少ないような、息苦しさを感じる。私はここで生まれて数十年。こんなことで恐れるのか?


 信号は途切れずに続く。宇宙服、または放射線防護服を着ていれば心強いのだが。遠い昔の血痕と昔の落としたアイスクリームを吸ったこの地面に今は有限の安全があるだけ。私の目に留まるのは青すぎるほどの空でも鉄筋コンクリートでもなければ泣いていた人であったはずの物体でもなかった。世紀末はいつから世紀末だろうか?そもそも、世紀の末なのだから、21世紀と22世紀の間だろうか?いいや、そんなことを考えている余裕があるならば、AKを持て。


 普通が飽和していたあの頃は今では夢で、今は餓死寸前で普通を少しずつ食っている。これが減ってしまえば私はどんな死に方をするだろうか。餓死であったならばまだ良いものだ。あぁ、ウイスキーが懐かしい。


 引き金は今では軽く、音も報告に過ぎない。あの頃の畏怖は今の銃にはなく、これもあれも過去のせい。時が過ぎても消えることがない。責めて責めて責める。他責に尽きる。


 私が今、ここでこの化け物と対峙しているのは何故なのだろうか。何故、戦わなければ?生きなければ?死んでも良いだろう。だが、本能的に生きることを優先してしまう。こんな状況でも。


 目の前には人型で顔がない白いもの。

 私たちはこの者たちを失敗と称した。実際には、失敗ではなく、もっと深いものであったが、それを言語化するにはまだ時間が足りなすぎる。この生物に授けた名前は新人類であった。


 地球に都会はなく、かといって田園もない。私たちにはもう、被災地しか居場所がなかった。


 ⸻


 もう既に恐れることに慣れた私たちは恐れることの定義を見直す必要がある。サイエンス・フィクションにフィクションが省かれてしまった。何故、問いを繰り返しながら生物を殺すことができる?何故こんなにも銃声がBGMと成り果てている?どれもこれも新人類のせいであり、旧人類の責任である。


 あまりに強すぎる兵器とあまりに人間すぎる新人類の間にはクッションがあった。何よりも、私たちの死生観は放棄されてしまった。平和が極度に抽象化され、血の解像度が上がってしまったせいで、いつの間にか死を偶然や必然ではなく、死を見続けてしまった。死と仲良くなりすぎた。いつからだろうか、昨日もそう自問した。


 基地に帰ると、仲間たちがいつも通りの顔で座っている。常に装備しているそのライフルは気のせいかこちらに銃口を向けているかのようだ。涙が溢れ、手には汗。痙攣する身体を抑えるほどの力は残っていない。


 生きれたのだ。そう思うと複雑だ。どんな死に方を?どんな生き様を?そう考えると一概に死ななかったことが幸せとは限らない。


 恨む対象が自分自身しか残っていない現状ではみんな仲良く、戦争なんてなかった。


 レポートを今日も書こう。内容は……そうだな。人体実験が終わってから数年……を書き出しにしよう。やっと気づけた、と。やっと問いが戻った、と。そんな事を書こう。


 死ぬことと生きることを交互に考えていた。やっと、そこまで戻れた。右手の動かし方を忘れかけていた昨日に泣きながら死んだ子供を見た事で思い出してしまった放心の仕方。放心できたことで生まれた心の穴とあったはずの充実感。


 私たちは何を考えながら生きていたのだろう?もう考えることをしてしまった私には絶望を感じながら生きることしか出来ない。この先に残るのは、劣等遺伝子である旧人類のゴミ処分なのだから。


 ⸻


 布団と呼んでいたものを今さら見てみると、これは何なのであろうか。靴を履いたまま年中過ごしているせいで、裸足のような感覚と痛みを感じる。

 眠りが深く短い。


 目を開けると、銃口が見えた。怯えた表情の仲間。


「同志よ、何故こちらにそれを向ける。貴方に引き金を引く権利はあるか。そして、今の貴方は人間なのか。」


「隊長、僕たちの生きる意味は何なのでしょうか。いっその事、脳を撃ってみましょう。かの神もそれを推奨しています。」


 彼の頭には血が付いている。金髪が赤く染っており、ポタリと私のでこに黒い血が落ちる。目でその銃口の向こう側を見てみる。暗闇だが、何よりも怖いその正体に目眩がするようだ。


 ドンドン!と嫌なノック音。ライフルはドアに照準が向いている。腐った木のドアはひび割れていた。木目のかかれた茶の奥には白色があった。


 懐かしい軍服を脱ぎ、彼は言う。


「隊長。私は死にます。今、新人類と共に死にます。隊長、出来るだけ早く、他の同志たちも楽園に送ってあげてください。」


 彼はドア越しにライフルを発砲する。赤い火花の温度を感じた。ドアも赤く染まり、彼の顔も赤かった。彼の土産は新人類の死体1人だけであり、それを残して彼は出ていってしまった。


 私は疲れたので、彼の帰還を待つことにした。待つだけで一日が終わり、彼を思うばかりで寝付けなかった。久しぶりの徹夜なのに、線香がないのは惜しいところであった。


 ⸻


 彼のせいだ。彼を責めるべきだ。

 彼は何日経っても帰って来ない。そして、ドアには弾痕がある。帰ってきた暁には罰を執行しなければ。


 ……罰と言っても、何をすればいいのやら。私は孤独に考える。あんなに嫌がっていた外の探索を急に皆、積極的にし始めた。いつまで経っても帰ってこない。私はお腹が空いた。早く帰ってきておくれ。私にはまだ生きる意味がある。今思いつかないだけで、あるはずなのだ。


 ドアの隙間から見えたのは迷彩。ドアを開けると迷彩服を着た人であった。あげるものをあげると逃げるようにして、目の前から消えた。


 そろそろここから出なければ。同志が帰ってきたら、基地を移転しよう。


 私は今さっきに無くした左腕に違和感を感じる。紙を固定しながら文章を書けなくなってしまい、不便さを感じた。


 餓死寸前まで待つ私は阿呆のようであり、それを理解できるほどの脳があることを恨んだ。


 ⸻


 私は最低だ。しかし、最低と思うには逃避が多すぎた。

 同志を捨て、数キロ先の大型基地へと移った。


 私には頭は足りているのに、脳は充分賢いのに、感情がその思考を妨げていた。感情なんて言葉を使ったのはいつぶりだろうか。そんな哲学はどうでもいい。私たちが求めるのは真実ではなく、酒や娯楽なのだ。


 拳銃2丁とライフル単品。合計残弾数9。それが全て消耗してしまい、挙句の果てには私に右耳は残っていない。それなのに、それなのに生きている。それは素晴らしいことだ。


「ザベル同志。生きていたのですね。」


 昔の同志に顔を合わせる。何故この人はここまでニコニコできるのだ?絶望に慣れたのか?この世界に準じたのか?戸惑いが隠せない。


「貴方はやけに冷静ですね。狂ったかのようです。」


「ザベル同志、どうです?私の名前、死んだ仲間の名前を覚えていますか?貴方は覚えることのできない人間でしたっけ。」


 哲学は苦手であり、頭もそれなりに悪い私は彼の言動を理解できなかった。それは自分を守るための防衛反応でもあった。


 私は彼を殺し、牢屋に入れてもらった。有難い……こんなにも安全な基地を手に入れることができるとは……。


 私は安堵で過呼吸を起こし、冷たい床に倒れる。髪をクシャクシャと手で乱し、頭の中の嫌な記憶を紛らわした。まだ残るトラウマの残像は私の逃げ癖の証拠であった。


 靴を脱ぐと、異臭と血の匂いが一気に周りを占領する。私は仲間を見捨て、安全を確保した最低だ。しかし、旧人類であることを誇りに思っている。


 私は血反吐を吐き、生きている実感を得た。痛みは飽和して、もう気にならない。


 ⸻


 眠れない夜を過ごした鉄格子の中。私は精神を専門としている先生と話す義務が課せられた。大きくて高性能で安全な基地には医者がいるのかと驚く。


 先生の第一印象は死体であり、それが動いていて、まるでアンデットと遭遇したかのような例えることの出来ない恐怖が私を襲う。その貫禄のような圧に押される。


「ザベル。貴方は自分の名前を覚えていますか。」


 先生が問うことはとても簡単だった。私はそれに答えることができなかったが、答えれないことは普通のことであろうと思った。平均的に見ると、私はマジョリティであろう。


「ザベル。貴方は新人類ですか。」


 私は目に光が無くなるほど、細目で今までを振り返る。


「私は旧人類です。私にそんなゲノム編集はされておらず、ウイルスも体内にはいないと考えられます。」


 先生はヤケクソになったかのように、ダルそうな声で宣告する。


「貴方は死にます。これは予言できることです。では、もう自由に行動して良いですよ。牢屋に入る必要はありません。」


 私はその言葉を聞き、恐怖と驚きを隠すことができなかった。


 私は残弾数0のはずの拳銃を自分の頭に突き立てる。もちろん空発。


 私は先生の元に戻り、その拳銃を突き立てる。何故だろうか、なぜそんなに無意味なことを実行しているのか。自問した結果が、自分が狂っているからという結論に収まった。


 私は拳銃の引き金を何度も引く。全て空発。泣き叫び喉が痛い。安全なこの基地は居心地が悪く、吐き気もしてくる。


 私は喉の乾きを覚え、腹痛もしてきた。眠たくなってきたので、仕方なく牢屋へと戻った。


 朦朧とし、飛んだり、飛ばなかったりしている意識は今までの疲れであろうか。明日には、新人類と戦う戦闘兵として志願しよう。


 私は寝た。

読んで頂きありがとうございました。

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