表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/38

25 また新たな魔法(そして魔力枯渇)

 王立学院入学まで、あとひと月と一週間。王都までは馬車で十日ほどかかるので、入学式の二十日前には出発する予定だ。つまり出発まであと二週間と少ししかない。


 ミガント領から帰還してこの方、リオンは魔法士団の指導の傍らでまた新たな魔法について考えていた。言うまでもなく「防御」についてである。防御馬鹿の愛称は伊達ではない。


(イデアール砦ではたまたま上手くいったけど、次もそうとは限らない)


 家族が呆れるほど衝動的に行動したリオンと同一人物とは思えない慎重さである。

 考えに考え抜くことはリオンの癖だが、実はこの癖のおかげで窮地でも自然と体が動くのだ。事前にあらゆる状況をシミュレーションし、その対応策を考える。考えた後は騎士団や魔法士団で実際に体を動かし、体が覚えるまで繰り返す。

 <コンプレックス・シールド>は、息をするように発動することが可能になっている。<ストーンライフル>は、ようやく立ったままで発動できるようになった。いつも地面に伏せていては咄嗟の時に間に合わないので。


 そして本人も薄々感じていることだが、これらの魔法を毎日多用することによって、魔力量が徐々に増加している。

 この世界において魔力量の増加については諸説あり、最も有力な説は「体の成長に伴って増加する」である。そして増加のピークは二十歳前後であり、それ以降は増加しても緩やかというのが半ば常識であった。


 もう一つ有力な説は、「魔法の使用に応じて増加する」である。筋トレで筋肉が増大するのと同じだ。


 実は、どちらの説も正しい。肉体の成長に伴って魔力量は増加するし、魔法を使用することでも増加する。十一歳のリオンはこれから本格的な成長期を迎えるわけだが、その魔力量は既に成人を遥かに上回っている。

 これは魔法が得意な母カレンの遺伝が根本であるが、記憶を取り戻した七歳くらいから魔法を多用しているのが一番の理由だ。


 魔力量が増えたことにより<UDM>の検証が捗った。何度も生成したり消したり、大きさを変えて生成したりできたので。

 なお検証に協力してくれたのは騎士団員たちである。少々の怪我は慣れっこだし、物怖じしない彼らは快く手伝ってくれた。


『何だこれ!?』

『おもしれー! 引っ張られるぅー!』

『くそ、負けん!』

『ぎゃははは! 体が勝手に下がる!』


 ……非常に楽しそうであった。

 おかげで、直径三センチメートルの<UDM>の効果範囲が半径十五メートルであることが分かった。これは上空にも及ぶが、効果は半球状で、地表より下に影響を及ぼすには直接地中に生成する必要があった。

 リオンにも理解できないことだったが、十五メートルを超えると重力の影響が全く及ばないことも検証できた。物理的には距離が離れても多少の影響がある筈なのだが。


 現在生成できる最大の<UDM>は直径五センチメートル。効果範囲は半径五十メートル。試しに作ってみた時、まさかそこまで効果が及ぶとは考えておらず、離れた所にいた騎士たちまで有無を言わさず引き寄せられてちょっとした騒動になった。


 そして<UDM>はリオンの魔法に影響を及ぼさない。<UDM>を生成し、リオンの<ストーンライフル>とライカ魔法士団副団長の<ストーンライフル>もどきで二百メートル先の的を狙ったところ、ライカの魔法は<UDM>に吸い寄せられ、全く的に届かなかった。一方リオンの方はしっかり的の中心を貫いていた。


 こうして気になることの検証を終えたリオンはまた新たな「防御」について考えているというわけである。


(防御は最大の攻撃なり、なんて天邪鬼なことを標榜していたけれど、やっぱり攻撃こそ最大の防御、なのかなぁ……)


 ライカ副団長が少し前に言っていた「一撃で数千の敵を屠る魔法」。リオンは即時却下したが、イデアール砦のことがあって、武威を示して戦意を喪失させるのは有効な手段の一つであると強く認識した。


 相手の攻撃を防ぐのが防御なら、相手に攻撃を()()()()のもまた防御と言える。到底敵わない、戦っても無駄死にするだけだ、そう思わせることは、戦わずして勝つというリオンの理想に沿っている。


 大量破壊兵器には心当たりがあった。核爆弾である。

 原理は知っているし、魔法で再現できる気もしている。しかし、それは絶対にやりたくない、とリオンは思っている。

 「一撃で数千」どころではない。人口密集地なら数万、数十万の命を奪う兵器だ。それだけではない。核分裂によって発生した放射線が環境を破壊する。非常に長い期間、生物が住めなくなるのだ。そうなると分かっていて核爆弾を使うことは、リオンにはとてもできそうになかった。


(もっと穏便な魔法がいいよなぁ……)


 イデアール砦戦にてリオンが使った<ストーンガトリング>の斉射では、横四百メートル、幅八メートル、深さ二・五メートルの「堀」ができたと後から聞かされた。それを再び埋める工事をアライオスにしてもらうのが非常に心苦しいリオンである。


(堀、か。グリフォン・ライダー以外の飛行戦力がないこの世界では、物理的に進軍を妨げる手段は有効だよな。でもあれは両側に崖がある地形だからできたことだし……)


 対個人、対少数ならば十分対抗できる手段を確立しているため、リオンの思考は対多数に向いている。それは少なくとも十一歳の伯爵家四男が考えなくてはならないことではない。大軍を率いる指揮官が考えることである。


(地形……アライオス様は『地形が変わるくらいやってくれ』とおっしゃった。地形を変えたら地上の進軍は止められる。例えば、用意には超えられない高さの壁とか、深い堀とか。そんなもの、魔法で作れるのかな?)


 <ストーンガトリング>で抉るのではなく、魔法で壁や堀を直接作る。魔法の出てくるファンタジー作品では、「ストーンウォール」など比較的メジャーではなかろうか。


(壁ならほぼ毎日見てる。無から壁を生み出すのではなく、元からある土や石で壁を作ればいいんじゃないか?)


 毎朝の走り込み。デンの街を囲む防壁を横目に走るので、石を積んで造られた壁は見慣れた物だ。

 幸いというか何というか、この世界には舗装路が大変少ない。あったとしても石畳である。前世の記憶にあるようなアスファルト舗装は今のところ見たことがない。つまり地面はほとんど土が剥き出しだ。その土を掘って積み上げれば、堀と壁を同時に拵えることができる。


(今ある物の形を変える……魔法でそんなことが出来るのかな? いや、やってみれば済むことか)


「きゅう?」

「ああ、新しい魔法について考えていたんだよ」


 遠目に訓練中の魔法士団員を見ながら、リオンは無意識で傍らのアスワドを撫でていた。その手が止まったため、アスワドが鳴き声を出したのだ。


「リオン様。それはどんな魔法ですか?」

「シャロンは聞いたことない? ストーンウォール……土だからアースウォールとか」

「ございますよ?」

「あるんだ!?」


 一番身近にいるシャロンが知っている魔法のようだ。


「土や石で壁を作る魔法ですよね?」

「そうそう! やっぱりそういうのあるんだねぇ。でも見たことないな」

「防御に足る強度を出すのは、人族には難しいかと」

「なるほど」


 リオンは、シャロンがエルフであることを知っている。初めて出会った時に耳が特徴的な形をしていたから。ただ、その後は何かしらの魔法を使って人間と同じに見えるようにしているため、敢えてリオンは指摘しない。

 なお、シャロンは自分がエルフだと知っているのはリオンの母カレンだけだと思っている。リオンは四歳と幼かったから憶えていないだろうし、憶えていてもエルフという種族を知らなかった筈だと。

 確かにその時のリオンは知らなかったのだが、七歳で前世の記憶を取り戻した際に、シャロン=エルフだと気付いている。


「誰か実際に見せてくれないかな……あ、カイネンさーん!!」


 こういう時、気兼ねなく頼めるのはカイネンだとリオンの中で決まっていた。リオンの声に振り向いたカイネンがこちらに走ってくる。


「どうされましたか、リオン様?」

「カイネンさん、アースウォールって使えますか?」

「ああ、土魔法の基本だから一応は使えますが……<コンプレックス・シールド>の足元にも及びませんよ?」

「いや、それでもいいんです。見せてもらえませんか?」

「いいですよ。我が魔力を糧に土壁を成し敵を退けよ。<アースウォール>!」

「おおっ!」


 カイネンの足元から土がせり上がり、縦一・五メートル、横七十センチ、厚さ三センチの土壁ができた。リオンが指先でそれを突くと、突いた所からボロボロ崩れていく。


「ね? 物凄く脆いんですよ」

「これ、足元の土を使っているわけじゃないんですか?」

「足元? いいえ。そういえば、この土ってどこから出てくるんでしょうね?」


 カイネンはこれまで疑問に思ったことがないのか、頻りに首を傾げている。

 これも恐らく、この世界の魔法あるあるだろう。<アースウォール>とはこういうものだ、と見せられ、それがイメージとして固定化され、その通りに発現する。


「なるほど……無から土を作っているのか。五十口径の石弾と同じだな。じゃあ、今そこにある土を使えばどうなるのか……ああ、カイネンさんありがとうございました」

「いえいえ! お役に立って良かったです!」


 失礼します、と言って、ホッとした顔のカイネンが去っていく。いつぞやのように魔力枯渇寸前まで<アースウォール>を作らされたら堪らない。


「ここにある土の形を変えるのは念動力になっちゃうのか? それとも土に働きかけるのか……」


 ブツブツと独り言が零れるのは、考え事をするときのリオンの癖である。シャロンはそれを知っているので何も言わない。余計な知識を与えるとリオンの独創性が損なわれる気がするからだ。


 そもそも「土」とは何だろう? それは、岩石が風化した鉱物などの無機物と植物や動物の遺体が分解された有機物(固相)、それに空気(気相)や水(液相)などの三相から成る。大雑把に言えば、だが。


 岩石の風化物で最も多い成分はケイ素(Si)だ。自然界では二酸化ケイシリカとして存在することが多い。ガラスの主成分と言った方が馴染み深いかもしれない。


「鉱物だけを取り出して壁にすれば強度は出るだろうけれど……量が足りないだろうな。それよりも土全体を使って固めたほうが良さそうだ」


 ケイ素だけで壁を作ろうかと思ったが、そもそも土に含まれるケイ素はそれほど多くない。それよりも土全体を使い、圧縮した方が工程も簡単な気がする。


 リオンは「堤防」を思い浮かべた。最初は「ダム」にしようかと思ったのだが、ダムは大抵コンクリートだ。それなら、盛土で造られる堤防の方が相応しく思えた。


(魔法はイメージだ。発現したい現象と魔力量が釣り合えば発現する筈なんだ)


 リオンの知識は「具体的なイメージ」を補完するものに過ぎない。堤防作りの工程を実際に見たことはないが、前世の重機やその動きは見たことがある。

 向こう側の土を掬いこちら側に積み上げて固める。簡単に言えばそういうことだ。


「<エンバンクメント>!」


 堤防=Embankment。英単語をカタカナ読みしただけの魔法名だ。リオンに名付けのセンスはあまりない。


 リオン、シャロン、アスワドの眼前に高さ五メートルはある土の壁が出現した。幅は五十メートルくらいある。奥行きは底辺が三メートル、上辺が一メートル。

 直後、リオンがその場に倒れる。


「リオン様!?」

「きゅう!?」


 また魔力枯渇であった。最初からこんなに巨大なものを作るなんて、主は加減というものを知らないのだろうか。シャロンは頭を抱えたくなった。アスワドが「きゅう! きゅう!」と心配そうにリオンの周りを走り、時折嘴で体を揺する。


「大丈夫ですよ。ただの魔力枯渇ですから」

「きゅう……」


 シャロンの言葉に、アスワドが「何だ、いつものやつか」とでも言っているかのように聞こえた。


 騎士団員の手を借りてリオンは屋敷に運ばれた。目を覚ました後、ケイランから詰問される。あれは一体何だ、と。訓練所の一部が使えなくなったのだが、と。


 後で確認したところ、<エンバンクメント>の向こう側はしっかりと約五メートル掘られ、堀のようになっていた。なお、このリオンが生み出した堤防だが、今後は魔法士団の新しい「的」として活用することになった。









 二日後。シルバーフェン伯爵家に王城から使者がやってきた。使者の隣には、ニヤニヤ笑いを浮かべたアライオス・レッドランがいた。


「うちの娘が世話になっている」

「いや、構わないとも。それでどうしたのだ?」


 応接室には、ベルン、ケイラン、アライオス、王城の使者、そして何故かリオンも呼ばれていた。


「こちらを」


 使者がベルンに書状を渡す。赤い封蝋に捺された封印は、上部に二羽の鷲が翼を広げ、下部に大樹が描かれた図案。ユードレイシス王家の紋章である。つまりそれは、ここユードレシア王国国王からの書状であった。


「確認させていただく」


 ベルンは使者に断りを入れ、ヘイロンから受け取ったナイフで慎重に封蝋を切った。中から出てきたのは、これまた王家の紋章が入った手紙。


「なんと……」

「私が陛下に奏上した。リオン君はそれだけのことをしてくれたと思ったからだ」


 どうやらリオンに関わることが書いてあるようだが、本人そっちのけで話が進む。


「畏れ多いことだ」

「いいや、陛下も甚く感心されていたぞ? 是非直接会って労いたいともおっしゃっておいでだ」


 使者の男性がコクコクと頷く。ベルンはその書状を隣に座るケイランに渡す。一読したケイランは目を丸くし、それから優しい目をリオンに向けた。


「リオン。陛下から叙勲されるそうだよ」

「じょくん? …………ってあの叙勲ですか!?」

「他の叙勲は知らないけれど、たぶんその叙勲だよ」

「えぇぇ…………」


 リオンは想像を絶する事態に固まってしまった。使者を含めた四人は、それを微笑ましそうに見つめている。


「リオン。明日には王都に出発するぞ」

「えーと、はい」

「何度も往復できんからルーシア嬢も連れて行く。アライオス殿、それでよろしいか?」

「そのように頼む。私も叙勲式に出るから、一度領に戻ってすぐに王都へ向かうつもりだ」


 王立学院の入学式より二週間前に王城で叙勲式が行われるという。急遽、リオンたちの王都行きが決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ