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14 リオン、懐かれる

あけましておめでとうございます。今年最初の投稿です。

 バジリスクを倒したからと言って今回の定期討伐が完了したわけではない。むしろこれからが本番である。

 串焼きを堪能した討伐団一行は、陽が傾く中で当初の予定通り拠点づくりを行い、翌朝から分隊に分かれて周囲の魔物を討伐する本来の任務に戻った。


 リオンはシャロン監視の下、天幕からあまり離れることを許されていない。これでは定期討伐に同行した意味がないのではとケイランに柔らかく意見したが「勝手に行動されるよりマシだよね?」と返されればぐうの音も出なかった。

 天幕に閉じ込められなかっただけ良かったと言えるだろう。リオンを天幕に閉じ込めるとグリフォンのアスワドが「きゅうきゅう」と切なそうな鳴き声を上げながら天幕の周りをぐるぐる回るのだ。何とも懐かれてしまったようである。

 アスワドが寂しさのあまり暴れ出したらかなわない、ということで、リオンが天幕の外に出ることを許された次第だ。


「…………暇だ」


 天幕の外、草地に椅子を置き、そこに座ってアスワドを無意識に撫でながら独り言ちるリオン。まぁ、暇なのは自業自得である。


「リオン様?」

「うん?」


 シャロンには、昨日のうちに『バジリスクの件はルーシアには内緒でお願いします』と頼んでおいた。自分ではそう思っていないのだが、客観的に見ると相当な無茶をしたらしい。『無茶はしない』と約束したのにそれを守らなかったのだから、ルーシアに対して不義理を働いた……ことになるかもしれない。彼女に失望されるのは絶対に避けたいのだ。


「<コンプレックス・シールド>を最初から五重にしていらっしゃいましたね? あれは何故ですか?」

「……一枚じゃ不安だったから?」


 リオンにも明確な理由はなかった。ただ、あれだけ巨体なのだから五重くらいにしないと無理だろうと思っただけだ。実際、バジリスクの攻撃は五枚目の<コンプレックス・シールド>で止まっていたので、五重にして正解だった。


「あと、今の僕では五重が限界だから。結果的に五重で防げたから良かったよね」


 そう補足するリオンに、シャロンがジトっとした目を向けた。もし五重でも防げなかったら、リオンは今頃ここにいないのである。


「ギリギリだった、ということですね?」

「う~ん……一度に張れるのは五重までだけど、壊されたらその分増やせるよ? だから大丈夫だと思ったんだ」


 これは決して強がっているわけではない。リオンだって死ぬのは絶対に嫌なのだ。だから五重のうち一枚でも壊れたら、即座にその分を補っていた。つまり四枚突破された時点でも、リオンはしっかり五重の<コンプレックス・シールド>で守られていたということだ。


「なるほど。安全策は講じていた、と」

「うん。バジリスクが諦めて帰ってくれたら一番良かったんだけど」


 リオンが目指すのは、絶対的な防御を見せて敵を諦めさせることだ。戦わずして勝つことが目標である。

 だが、滅多に市場に出回らないバジリスクの素材が、ほぼ無傷で入手できたのはデルード領にとってかなりの収入になる。素材を売却したお金は、七割が領主、と言うか領の予算に入る。残り三割は討伐団員に一時金として支給される。平たく言えば危険手当、ボーナスだ。バジリスク一体だけで、団員一人頭ひと月分の給金に相当する一時金となる。故に、彼らの士気はいつも以上に高い。これから討伐する魔物の素材も売れば、結構良い稼ぎになるのだから。


 なお、リオンは無報酬である。未成年であるし、生活の一切をシルバーフェン伯爵家が見ているのだから当然だ。伯爵家が面倒を見るというのはつまり、領民が納める税金で生活しているということである。リオンはそれを十分理解しているので、無報酬でも「理不尽」とか「世知辛い」とは思わない。


「リオン様、それならばもっと攻撃魔法を新たに生み出されたらいかがですか?」


 魔法に長けたエルフであるシャロンから見ても、リオンの魔法は異質である。これまで見たことがないし、考えたことすらない魔法を彼は使う。それならば、敵の攻撃を受けるという危険を冒さず、先制攻撃で倒した方が良いと思うのだ。リオンならそんな魔法も簡単に生み出しそうであるから。


「それは僕も考えたことがあるんだ」

「左様ですか」

「だけど、そうすると相手を傷付けるし、下手すると殺してしまう。それが必要な時だってあるのは僕も分かっているつもりだ。それでも、甘いかもしれないけれど、僕は防御にこだわりたい」


 シャロンは知っている。リオンは優しいけれど、決して気が弱いわけではないことを。現にバジリスクだって最後には殺した。実際にはもっと早い段階で殺すことができたはずだ。でもリオンは、バジリスクという魔物相手ですら、撤退の機会を与えたのである。リオンたちを執拗に攻撃するのではなく、すぐに森へ逃げ帰っていれば、今でも森の強者として生きていただろう。


 それは甘さだろうか?

 確かに甘いのかもしれない。それでもシャロンは、そんなリオンを愛おしく思う。優しくて、それでいて強者の余裕を持っているリオンを誇りに思う。


「それなら、あの『ゆーでぃーむ』? をもっと活用するべきかもしれませんね」

「<UDM>ね。シャロンもそう思う? あれはね、物凄く大きな可能性を秘めているんだよ! 今は重力しか生み出せないけど、いずれは空間を歪めて攻撃を全て逸らせると思うんだ!」


 重力とは何かについて、少し前にリオンが教えてくれた。「ぶつりほうそく」なるものはこの世界に存在する全てが抗えないらしい。それを魔法に組み込むリオンは、やはり天才の類なのだろうと感心したものである。

 目をキラキラとさせて、右手でアスワドをわしゃわしゃ撫でながら語るリオンの姿は、あの夜初めて会った幼い男の子を彷彿とさせ、シャロンの胸をじんわり温かくする。


 <UDM>を攻撃に転用できる可能性は、リオンもとっくに気付いているに違いない。それを自分が指摘するのは無粋だろう、とシャロンは考えた。

 とにかく、このリオン・シルバーフェンという少年は面白い。きっとこれからも、驚くような魔法を生み出してくれるに違いない。そう思って、シャロンの口角がほんの少しだけ上がった。









 翌日。前日大人しくしていたのが功を奏したのか、リオンは討伐に同行することを許された。


 元々、この定期討伐は往復を含めて二週間の期間が予定されている。この、ウルシア大森林手前に広がる草原地帯に作った拠点に八日間陣取り、周辺の魔物を討伐するわけだ。そして今日はその二日目である。


 リオンはシャロンと、ついでにグリフォンのアスワドを伴い、兄のクオン・シルバーフェンが率いる分隊に同行することになった。


「えーと、リオン? グリフォンも連れて行くの?」

「はい、クオン兄さま。アスワドは僕の姿が見えていないと不安なようですので」


 昨夜も、リオンが寝るために天幕に入ろうとしたところ、アスワドも続いて入ろうとして危うく天幕が壊れそうになった。かと言ってアスワドと一緒に外で寝るというのも、危険だし外聞が悪い。ということで、急遽天幕を二つ連結して広げ、アスワドが中に入れるようにしたのである。まぁ前日はそんな余裕がなかったので外で一緒に寝たのだけれど。

 しかし、これにはシャロンのご機嫌が斜めを通り越して垂直になった。『私がどこかに捨てて参りましょう』と、腰の短剣をすらりと抜くものだから、アスワドが『きゅーきゅー!』と騒いでリオンの背に隠れようとした。もちろん全く隠れられないわけだが。そんなわけで、リオンが真ん中に、シャロンがその右隣に、アスワドはリオンの左隣の地面で寝ることを提案して事なきを得た。


「随分懐かれたんだなぁ……」

「ええ、そうみたいです……」


 分隊は一台の二頭引き馬車で移動する。アスワドが近付くと、最初は怖がっていた馬たちだが、アスワドに敵意がないことが分かったのかすぐに落ち着いた。


 分隊は騎士団員がクオンを含めて五人、魔法士団員が一人。馭者を務める従士が一人。計七人が馬車に乗る。ちなみに魔法士団員はカイネンだ。リオンに<ストーンランス>をへろへろになるまで実演させられ、最初に<コンプレックス・シールド>もどきの発現を成功させた団員である。

 リオンはシャロンと一緒の馬に乗せてもらうつもりだったが――


「きゅっ」


 服の裾をアスワドが嘴で挟み、くいくいと引っ張る。


「え、なに? 乗るなって? でも馬に乗らないと……え? アスワドに乗れってこと?」

「きゅう!」

「乗っていいの!?」

「きゅっ!」


 これだけ懐いているのだから、そのうち乗せてもらえたらいいなぁとリオンは思っていたのだが、まさかこんなに早く乗せてくれるとは!

 脚を折ってお腹を地面に着け、リオンが乗りやすい体勢を作るアスワドと、嬉々としてアスワドの背によじ登るリオン、それを苦虫を嚙み潰したような顔で見るシャロン、呆然とした顔のクオンたち。


「……リオン、絶対に落ちないよう気を付けるんだよ?」

「はい、クオン兄さま! さすがに飛びはしないと思いますし、馬より安定している気がします」


 クオンは、七歳のリオンが落馬した時の記憶がまだ生々しく残っている。それ故に心配しているのだが、リオン本人は全く怖気づく様子がない。


 アスワドがゆっくり立ち上がると、目線は馬に乗った時よりだいぶ高い。足の裏をちょうど翼の付け根に置けるので思ったより安定している。胴体は獅子であるはずだが、長毛種の猫のように毛がふかふかしていて、お尻が少し埋まるほどだ。手綱は当然ないが、アスワドが少し立ててくれた首に抱き着いていれば、容易に振り落とされることはないだろう。


「では行きましょう!」


 リオンが溌溂と宣言すると、大人たちは呆れた表情で首を振るも、分隊は割り当てられた地域に向けて出発した。









 リオンはアスワドに跨り、クオンやカイネンたちの乗った馬車の後ろを付いていく。隣には馬に乗ったシャロン。いつも低い位置から見上げているので、シャロンを上から見下ろすのは初めての経験である。


「どんな魔物がいるんだろう?」

「弱い魔物でしたらソードラビット、ファングウィーゼル、フレイムラクーンなどでしょうか。強い魔物ですと、ワーウルフ、ソリッドベア、ダークパンサーなど。変わり種でクレイゴーレムなどもいるかもしれません」


 ずらずらと魔物の名前を列挙されるが、とても一度では覚えられない、と思うリオンである。

 ただ「ゴーレム」という単語には非常に心惹かれた。

 ゴーレム、いるんだ! 見てみたい! リオンは浮かれた。クレイゴーレムというからには粘土なのだろう。きっと見上げるくらい大きなゴーレムに違いない!


 そんな妄想をしていると、いつの間にか割り当て地域に到着していた。ちなみに、道中では魔物の一体も見かけていない。クオンの指示で隊列を作り、団員たちが森へと入っていく。馭者役の従士とリオンたちはその場で待機だ。

 やがて聞こえてくる戦闘らしき音。それも長続きせず、すぐに静かになる。そしてしばらくしてまた戦闘音。どうやら魔物の数が少ないようだ。戦闘は散発的にしか発生していない。


「リオン様、何か来ます」


 クオンたちが森へ入って一時間ほど経過した頃、シャロンが短く警告を発する。

 クレイゴーレムでありますように! リオンは相変わらず危機感に乏しかった。

 わくわくしながら、それでいていつでも<コンプレックス・シールド>を張れるように準備しながら待っていると、がさがさと葉擦れの音が近付いてきて、いくつかの影が森からまろび出た。


「えぇ……」


 それはどう見ても「人」。クレイゴーレムではなかったので、リオンが落胆の声を出した。

 そしてその直後にもっと大きな音がして、二足歩行の狼が五体、森から飛び出してきた!


 森から逃げて来たらしい人たちは四人。男性が三人と女性が一人で、革製の軽鎧を身に着け、剣や槍、弓を手にしている。リオンも偶に街の内外で見かける「冒険者」のようだ。


「くっ……え、グ、グリフォン?」

「ああ、この子は大丈夫ですよ。攻撃しない限り人を襲ったりしませんから」


 冒険者たちの一人がアスワドを見て絶望した顔になったので、リオンは安心させるように告げた。状況から見て、この人たちは二足歩行の狼から逃げてきたのだろう。逃げた先にグリフォンがいたらそんな顔になるのも頷ける。リオンは出来る限り人畜無害に見えるよう笑みを作った。


「リオン様、終わりました」

「ありがとう。さすがシャロン」

「その、大きいだけで役に立たない黒いのとは違いますので」

「そ、そう……」


 冒険者たちを安心させようとしている間に、シャロンが魔物を片付けていた。早業である。ついでに、アスワドに対して妙な対抗心を燃やしているらしい。


「あ、あんたたちは一体――」

「控えなさい。こちらはリオナード・シルバーフェン様。領主様の御令息でいらっしゃいます」


 シャロンが、道端に落ちているゴミでも見るような目を冒険者たちに向けた。偶にリオンもそんな目で見られるので、多分あれはシャロンなりにちょっと怒っているのだろう。決してゴミだと思われていないと信じたいリオンである。


 シャロンの言葉を聞いて、冒険者たちはその場に片膝を突いて頭を下げた。リオンはまだアスワドに乗っているものだから、ずっと高い場所から彼らを見下ろしているようで居心地が悪い。


「あの、頭を上げてください。ただの四男ですから……」


 彼らはちらっとシャロンを見て、彼女が鷹揚に頷くのを確認して立ち上がった。


「今は定期討伐の最中ですから、森への立ち入りが制限されている筈ですが?」


 シャロンが彼らを咎める口調で尋ねる。


「俺たちは、バスートを拠点とする冒険者だ……です。バスートのギルドから依頼が入って……森に入っていく集団を見かけたと農村から通報があって。そいつらを探して連れ戻すのが依頼だった……でした」


 顎鬚を蓄えた、一番年嵩に見える男性がたどたどしく述べる。


「普段通りの喋り方で構いませんよ? それで、その集団は見つかったんですか?」

「助かる。一度見かけたが見失ったんだ」

「見失った?」

「ああ。痕跡があったからそれを追ったんだが、迂闊なことにワーウルフの群れに囲まれちまって。二体は倒したんだが形勢が不利だったんで逃げることにしたんだ」


 リオンがシャロンに確認の視線を送ると、彼女は小さく頷く。嘘はついていない、という意味だ。


「なるほど……一度、詳しい状況を討伐団の責任者に話してもらえますか?」

「あ、ああ、分かった」

「……ところで、クレイゴーレムはいませんでした?」

「クレイゴーレム? いや、見なかったな。お前らはどうだった?」


 他の三人にも確認してくれたが、三人とも首を振る。


「そうですか……」


 リオンはしょんぼりした。クレイゴーレム、見たかった……。

 その後、冒険者たちに討伐団の拠点がある場所を教え、そちらへ行くようにお願いした。『リオンから報告を頼まれた』とそこにいる誰かに言えば、拠点で指揮を執っているケイランに繋いでくれるだろう。


 その後さらに一時間ほど経ってからクオンたちも無事戻ってきたので、全員で拠点へ戻ることになった。

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