24話「街へ」
僕「……朝か」
今日は、休日。
今までの休日は基本的に寝て過ごすか、特訓をしていたが、不思議と今日の僕はそんな気になれなかった。
僕「少し、外に出るか」
そういえば、入学初日にこの島には多くの施設があると言う話を聞いたが、今まで一度も使ってこなかったな。
確かクラスによって受けられるサービスも変わってくるのだった。強くなるためにはリラックスが必要だ。今日は娯楽を楽しむことにしよう。
僕「……こりゃ、すごいな」
山を一つ越えた先にある場所は、施設というよりもはや街だった。
見渡せば、飲食店や本屋、広場、ジム、ゲームセンターと、数多くの施設が用意されていた。
試しに近くの飲食店に入ってみる。学園では栄養さえ取れればいいという考えが主流らしく、今まであの学園ではよくわからない物体と肉程度しか食べるものがなかった。
故に、僕は少しワクワクしながらそこに入ってみた。
ここでは和食、というものが食べられるらしい。和食が何なのかは知らないが、食欲がそそられる匂いだ。
店員「学生証の提示をお願いします」
僕「……はい」
店員「ふむ……確認しました、1名様ですね、席に案内させていただきます」
その店員についていき、店の二階への階段を登ってゆく。
店員「それにしても、お客様はSクラスなのですね」
僕「はい、そうですね」
店員「実はこの店、お客様の他にもう一人Sクラスの方がいらっしゃっていまして、お知り合いでしたら近くの席にしたほうがよろしいでしょうか?」
僕「もう一人……はい、お願いします」
誰であろうと、Sクラスの人と顔を合わせ、話せるようになることは大事だ。
Sクラスともなると、戦う相手も強敵が多くなる。そして、強敵として筆頭に挙げられるのはあの魔物。
あの魔物の情報はなんとしてでも掴んでおきたい。だからこそ接敵する確率が一番高いSクラスと情報を共有できるように、親密度を上げていくことが大切なのだ。
店員「こちらです」
僕「…………何だ、君か…」
愛華「あれっ!?どうしてここに!?」
僕「いやまぁ……少し気になって」
愛華「奇遇ですね!私もかなり前、そうやってここに来店して、以降ここの常連なんですよー」
愛華は、ぽんぽんと隣の席を叩いて、促されるまま僕も隣の席に座る。
愛華「ここの、お味噌汁というのが美味しいんですよ!」
店員「この店のお味噌汁は絶品ですよ、一般に一切普及してませんし、この世界の9割は食べたこともない貴重な食べ物です」
僕「え?何を言っているんですか、味噌汁なんて普通の……………」
と、そこまで言って言葉が詰まる。
おかしいぞ?味噌汁……僕はそんなもの知らない。食べたこともない。なのにそれを知っている。
これも、記憶を失う前の断片的な記憶、ということか。
店員「注文はいかがなされますか?」
僕「ああ、すみません…ええっと……これと、これをお願いします」
店員「かしこまりました」
店員に和食というものを注文し、再び愛華と向き合う。
愛華「そういえば、この店の和食というのは、どこで生まれたのかわからないもので、何故か昔から存在していたものらしいですよ」
僕「へぇ……別の国からやってきた…んでもないんだろうな」
愛華「はい、それはないと思います、別の国からやってきたのだとしたら『どこで生まれたのかわからない』なんて表現はしませんからね」
僕「僕、どこかで味噌汁というのを食べている気がするんだよなぁ……」
愛華「新しい記憶のヒントですか!」
僕「ああ、それも日常的に、当たり前に」
愛華「でも店員さんは一般に普及していない貴重品だって言っていましたよ?」
僕「ああ、不思議だなぁ……」
そういえば、すっかり忘れていた。
愛華について、気になっていることがあったんだ。先日の試験について。
愛華はマラソンで息一つ切らさず一位を取ったという。それについて聞く必要がある。
僕「なあ、愛華」
愛華「あっ!!来ましたよ!」
店員「大変お待たせいたしました」
その瞬間、目の前に運ばれてきた飯に意識を持っていかれてしまう。
ご飯、味噌汁、鮭。黄金のトリオがやってきた。愛華への質問なんてそっちのけで僕の手は進んだ。
ご飯を口に含んだ瞬間、僕は感動した。美味い。うますぎる。
僕「美味い……美味い……」
僕が勢いよく食べていると、店員が驚いたような視線を送ってくる。
店員「随分と箸の使い方に慣れているようですね?」
僕「えっ?皆箸使ってないんですか?」
店員「和食好きの皆様は数日練習してやっと使えるようになりましたが……初回でそんなに巧みに箸を使いこなしているなんて……」
愛華「やっぱり以前、頻繁に和食を食べていたんでしょうね」
僕「そう、だな」
話に区切りをつけて僕は再び箸を進める。早く和食をまた食べたい。今はそれ以外考えられなかった。
米を食べて、味噌汁を飲み、魚をひとくち食べてまた米を食う。
素晴らしい永久機関だ。僕はきっとこの店の常連になるだろう。
僕「ごちそう、さまでした」
愛華「……凄まじいスピードで平らげましたねぇ」
僕「いやこれはしょうがないだろ、うますぎる」
僕らは一緒に店を出る。いやあ今日は素晴らしいものに出会えた。幸せな気分だ。
さてと、それでは愛華と落ち着いて話せるところを探さなければいけないな。
そう決めて、僕は彼女に声をかけるのだった。




