2話「三条愛華」
その後、僕は案内された試験室へと向かっていた。
この学園はかなり広いらしく、校舎内だけでも果てしない広さだった。まあ、千の人間が入ることのできる広さなのだ。当然とも言える。
そんな事を考えていると次の瞬間、ドンッ、と後ろから衝撃があった。
「あっ……す、すみませっ!」
僕「あぁ…こちらこそ」
振り向くとそこには小柄なきれいな緑色の髪をした少女が立っていた。
こんな女の子ですら、この学園に来なければいけないとは…どういうことなのだろうか。それだけ、この世界は厳しい世界だということなのだろうか…
記憶がないというのは、全く面倒なことである。
僕「えっと…僕はここでこれから試験だから」
「はい…あの、がんばってくださいね…」
最後まで残った数人、もしくは一人しか学園の恩恵を得られないのに的である僕をわざわざ応援する意味はわからなかったが、僕はとりあえず軽く礼を言って、試験会場に入っていった。
試験内容は、体力と学力を中心とした基本的なテストだった。
…………しかし。
試験官「走力テスト、はじめっ!」
僕「うわっとっ!!」
スタートの合図と同時に、僕の体勢は崩れる。
また、この感覚だ。精神と肉体の感覚が合致していないというか…そんなイメージ。
そんな調子で、体力テストの結果は散々だった。
更に学力テストも、記憶喪失であることから基礎知識が全然足りなく、一問もまともに解けた問題はなかった。
次の日、想像通り僕はこの学園の七段階評価の最低点、評価Gになっていた。
評価Gの生徒たちが集まるGクラスで溜息をつく。
僕「はあ…記憶もないし身体も動かないし…これから一体どうなってしまうんだろうな…」
「あの…貴方もGクラスだったんですか?」
僕「君は…」
僕に話しかけてきたのは、昨日試験直前に出会った少女だった。
ここにいることから見るに、この少女も評価G。
僕と同じクラスなのだろう。
愛華「私は三条愛華といいます。評価Gです」
僕「僕は………えーと」
自己紹介をしようとしたが、当然自分の名前は浮かんでこなかった。
ここに入学したときに名前は問われなかったし、入ってからも僕は番号で呼ばれていた。
愛華「名乗りたくないなら、別に大丈夫ですよ」
僕「じゃあそうする、君はどうしてこの学園に?この学園に女性は少ないからさ」
愛華「それは…内緒にしてもいいですか?私にも色々あるんです」
僕「そうだな…ごめん」
そうだ、この世界のことはよくわからないが、少なくともこの学園にいる人間は人生に何かしらの闇を抱えている。
それを掘り返すというのは中々に酷なことだ。これからは極力、そういうことは聞かないようにしておこう。
少し気まずくなってしまったので、話題を変えるために他の聞きたくなったことを質問することにした。
僕「それで…君はどうして昨日僕に話しかけたんだ?」
愛華「そうですね…貴方を見たとき、何かを感じたんですよ、なにかびびっと」
僕「僕に…何かを感じた?」
愛華「はい、私にもそれが何なのかはわかりません。でも貴方は、きっと私に関わりがある人なんだと思います」
僕「なるほど…ありがとう、僕も少し考えたいことがあるから一人にしてくれ」
愛華「わかりました、いつでも私に話しかけてくださいね!この学園ではライバル同士といっても、私貴方とピリピリする気はありませんから」
彼女のその態度に元気をもらって、僕は顎に手を当て思考を開始する。
どんどんと、記憶を失う前の僕の謎が深まってゆく。
一体記憶を失う前の僕は何をしていたのか。なぜ僕はこの学園に来たのか。僕とは、一体何者なのか。
さっきまで目的を失っていたが、今それを見つけた。僕はこの学園を卒業して、失われた記憶を復活させる。
いや、なぜかはわからないが感じる。たとえ卒業できなかったとしても、きっと、この学園にいれば何かが掴める。
僕はこの学園で、自分を取り戻してみせる…!




