宝の眠る湖
今月3作品目です。
珍しく筆が乗っているというか、アイディアが溢れています。
本当に珍しい…
小さな田舎町に、一人の男がいました。
町には遊び場もなく、働く気もない男は、悪い仲間とつるんで日々を過ごしていました。
「なあ、今日もあの倉庫から盗んでやろうぜ」
「へへっ、退屈しのぎにはちょうどいいな」
笑い声は絶えませんでしたが、男の心の奥はどこか空っぽでした。
夜になると、ひとりつぶやきます。
「本当は……こんなはずじゃなかった。町を出て、冒険がしたいのに」
ある日、町にひとりの老人がやってきました。
老人は旅を終えたばかりのようで、古びた日記を大切そうに抱えていました。
「そこの人、外の世界を見たことはあるか?」
「ないよ。どうせ、この町から出られやしない」
「そう思うかもしれん。だが、世界は広い。山を越えれば、知らない町がある。海を渡れば、見たこともない国がある」
老人は語り続けました。
そして、日記を開いて見せました。
「これは、わしが若いころに手に入れた日記だ。ここには“宝の眠る湖”の場所が記されている」
男の胸は高鳴りました。
「宝……? 本当にあるのか」
「あるとも。わしはそれを追い求めて旅に出た。だが、結局は手にできなかった」
その夜、男は眠れませんでした。
老人の話が頭から離れなかったのです。
「これがあれば……退屈な毎日から抜け出せる」
次の日、老人が酒場でうたた寝をしているとき、男は机に広げられた日記をそっと手に取りました。
「ごめん……でも、俺は行くんだ」
男は日記を抱えて町を飛び出しました。
旅は思ったよりも苦しく、宝は思ったよりも遠いものでした。
やがて湖にたどり着いたとき、男は水の底に光る影を見ました。
「見える……あれが宝だ!」
男は湖に飛び込みました。
けれど、宝に手を伸ばした瞬間、強い流れに飲み込まれました。
「くっ……! 流される……!」
気づけば湖の反対岸に打ち上げられていました。
それでも諦めきれず、次の日も、その次の日も湖に通いました。
「今日こそ……今日こそ見つけてやる」
しかし、宝は二度と姿を見せませんでした。
季節が巡り、雪が降り、花が咲き、また散っていきました。
男は大人になり、やがて老人になりました。
髪は白くなり、背は曲がり、それでも宝を探し続けました。
「なぜだ……なぜ手にできない……」
ある日、夢の中で故郷を思い出しました。
もうはっきりとした姿は浮かばないけれど、懐かしい町並みが心に残っていました。
「帰ろう……もう一度、あの町へ」
町は昔のままでした。
けれど、帰る家はなく、男は酒場の片隅に座り、ただぼんやりと日々を過ごしました。
そんなある日、一人の青年と出会います。
「おじさん、毎日ここにいるな」
「そうだな。お前は仲間と楽しそうじゃないか」
「楽しいさ。でも……ほんとは退屈なんだ。この町から出たいけど、行くあてもないしな」
男は微笑みました。
かつての自分と同じ言葉を聞いたからです。
「なら、外の世界の話をしてやろう」
男は語りました。
山を越えた町のこと、海の向こうの国のこと、そして「宝の眠る湖」のことを。
「本当にそんな場所があるのか?」
「あるとも。わしはそこまで行った。だが、宝は手にできなかった」
「すごいな……もっと聞かせてくれよ」
青年は目を輝かせ、続きをせがむようになりました。
やがて男は、古びた日記を見せました。
「この日記のおかげで、わしは町を出る決心ができた。だが、宝は……」
「見せてくれ! 俺も見たい!」
「いいだろう。だが、大事に扱ってくれ」
その夜、男は語り疲れて眠ってしまいました。
目を覚ますと、青年の姿はなく、机に置いていた日記も消えていました。
「……そうか」
男は静かに目を閉じました。
怒りはありませんでした。
ただ、あの日、自分が老人から奪ったときのことを思い出したのです。
「元々、わしのものではなかった……」
そして心の中で、ただひとつ願いました。
「どうか、わしと同じ過ちをくりかえさないでほしい。…どうか…どうか…」
ここまでお読み頂きありがとうございます!
今回のテーマは思わぬきっかけから、旅に出る若者の話でしたが、ハッピーエンドとは言えないラストだったと思います。
いつもと毛色が違う物語でしたが、お楽しみ頂けましたか?
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