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宝の眠る湖

掲載日:2025/11/08

今月3作品目です。

珍しく筆が乗っているというか、アイディアが溢れています。

本当に珍しい…

小さな田舎町に、一人の男がいました。

町には遊び場もなく、働く気もない男は、悪い仲間とつるんで日々を過ごしていました。

「なあ、今日もあの倉庫から盗んでやろうぜ」

「へへっ、退屈しのぎにはちょうどいいな」

笑い声は絶えませんでしたが、男の心の奥はどこか空っぽでした。

夜になると、ひとりつぶやきます。

「本当は……こんなはずじゃなかった。町を出て、冒険がしたいのに」


ある日、町にひとりの老人がやってきました。

老人は旅を終えたばかりのようで、古びた日記を大切そうに抱えていました。

「そこの人、外の世界を見たことはあるか?」

「ないよ。どうせ、この町から出られやしない」

「そう思うかもしれん。だが、世界は広い。山を越えれば、知らない町がある。海を渡れば、見たこともない国がある」

老人は語り続けました。

そして、日記を開いて見せました。

「これは、わしが若いころに手に入れた日記だ。ここには“宝の眠る湖”の場所が記されている」

男の胸は高鳴りました。

「宝……? 本当にあるのか」

「あるとも。わしはそれを追い求めて旅に出た。だが、結局は手にできなかった」


その夜、男は眠れませんでした。

老人の話が頭から離れなかったのです。

「これがあれば……退屈な毎日から抜け出せる」

次の日、老人が酒場でうたた寝をしているとき、男は机に広げられた日記をそっと手に取りました。

「ごめん……でも、俺は行くんだ」

男は日記を抱えて町を飛び出しました。


旅は思ったよりも苦しく、宝は思ったよりも遠いものでした。

やがて湖にたどり着いたとき、男は水の底に光る影を見ました。

「見える……あれが宝だ!」

男は湖に飛び込みました。

けれど、宝に手を伸ばした瞬間、強い流れに飲み込まれました。

「くっ……! 流される……!」

気づけば湖の反対岸に打ち上げられていました。

それでも諦めきれず、次の日も、その次の日も湖に通いました。

「今日こそ……今日こそ見つけてやる」

しかし、宝は二度と姿を見せませんでした。


季節が巡り、雪が降り、花が咲き、また散っていきました。

男は大人になり、やがて老人になりました。

髪は白くなり、背は曲がり、それでも宝を探し続けました。

「なぜだ……なぜ手にできない……」

ある日、夢の中で故郷を思い出しました。

もうはっきりとした姿は浮かばないけれど、懐かしい町並みが心に残っていました。

「帰ろう……もう一度、あの町へ」


町は昔のままでした。

けれど、帰る家はなく、男は酒場の片隅に座り、ただぼんやりと日々を過ごしました。

そんなある日、一人の青年と出会います。

「おじさん、毎日ここにいるな」

「そうだな。お前は仲間と楽しそうじゃないか」

「楽しいさ。でも……ほんとは退屈なんだ。この町から出たいけど、行くあてもないしな」

男は微笑みました。

かつての自分と同じ言葉を聞いたからです。

「なら、外の世界の話をしてやろう」


男は語りました。

山を越えた町のこと、海の向こうの国のこと、そして「宝の眠る湖」のことを。

「本当にそんな場所があるのか?」

「あるとも。わしはそこまで行った。だが、宝は手にできなかった」

「すごいな……もっと聞かせてくれよ」

青年は目を輝かせ、続きをせがむようになりました。

やがて男は、古びた日記を見せました。

「この日記のおかげで、わしは町を出る決心ができた。だが、宝は……」

「見せてくれ! 俺も見たい!」

「いいだろう。だが、大事に扱ってくれ」

その夜、男は語り疲れて眠ってしまいました。


目を覚ますと、青年の姿はなく、机に置いていた日記も消えていました。

「……そうか」

男は静かに目を閉じました。

怒りはありませんでした。

ただ、あの日、自分が老人から奪ったときのことを思い出したのです。

「元々、わしのものではなかった……」

そして心の中で、ただひとつ願いました。

「どうか、わしと同じ過ちをくりかえさないでほしい。…どうか…どうか…」


ここまでお読み頂きありがとうございます!

今回のテーマは思わぬきっかけから、旅に出る若者の話でしたが、ハッピーエンドとは言えないラストだったと思います。

いつもと毛色が違う物語でしたが、お楽しみ頂けましたか?


-感想や評価をいただけると、とても励みになります٩( ''ω'' )و

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