第六幕:国家への愛と美
やあ、君。鏡の前で微笑んでみなよ。君は自分の笑顔を、素直に受け止められるかい?…第五幕では、少年タジオの計略により老人グスタフは疫病にかかって死んだ。老人の死の姿は、少年の未来を見せた。今、ボクらはヴェニスから彼らの故郷へと向かう馬車の中にいる。
やあ、君。鏡の前で微笑んでみなよ。君は自分の笑顔を、
素直に受け止められるかい?
もしも受け止められないなら、きっと君は幻を追いかけているかもーー。
第五幕では、少年タジオの計略により老人グスタフは疫病にかかって死んだ。老人の死の姿は、
少年の未来を見せた。
今、ボクらはヴェニスから彼らの故郷へと向かう馬車の中にいる。
その馬車の中には、
タジオと彼の父親が並んで座っていた。
ボクらは、彼らと向き合うように座る。なぜかって?会話を聞くためさ。
「父上、誇りとは何でしょうか」とタジオは父に初めて相談した。
父は横にいるタジオを驚いたように見つめた。
「誇りかい、タジオ?むずかしいなーー」と父は苦笑する。
「それは、決して他人に触らせたくない永遠に近いものだよ」と優しく父は息子にいった。彼もよく分からなかったのか、もう一度考え込んでいた。
「美しさは誇りになりますか?」とタジオは父に問いかけた。
「永遠に残る美しさならね。タジオ。そもそも美しいとは何かな。私らは美術を眺めてきた。
人間の美以外にさえ、美はある。でも、美は誰かが認めなきゃ、美なんて分からない。一人だけ認める美は、独りよがりで、ひどく弱いーー」
父の話を聞くと、タジオは外を眺める。
「ボクらは何のためにいるんですか?」
タジオの呟きは、父の魂を揺さぶる。
「私たちは貴族だ。本来なら、国の誇りを、先祖から受け継いできた何かを、守らなきゃいけなかったーー」
それから、彼らは黙り込む。
「ボクらは、守れてないの?」とタジオの声は震えてた。
「複雑な事情があるんだ。もう、その話はやめよう」と父は話を切り上げる。
少年は下唇を噛む。
馬車に揺られているうちに、
彼は自分の国がケーキだと気づくんだ。
周りの連中が、ケーキを分け合って、好き勝手にトッピングをする。
ケーキにはテーマがあったのに、好き勝手にね。
少年の心に、美よりも大切な何かがこみあがってきた。
「父上。ボクらはケーキの上にいるんですね。」と少年は呟く。
「その味を楽しみたいのに、狼がやってきて、ボクらのケーキをバラバラにする。味を勝手に決められて、感謝までしなきゃならない。そうだね?」
ああ、少年はこうして、
周りを知っていく。
世界を知っていくんだ。
この後の話を、ボクらは語るべきか。
語らざるべきか、問題だ。
なぜかって?
彼らの政治なんて、
ボクには興味がないからさ。
君が調べたいなら、ボク抜きで調べてくれたまえ。
ボクはケーキを食べたくなったのさ。
(こうして、第六幕はケーキによって閉じられるのだ。)
少年は美を捨て、真の誇りを選ぶ。