第五幕:少年の未来と老人の死
やあ、君。ボクは狼と蛇の子グスタフの後ろを歩いている。彼の破滅を見届けるためさ。…第四幕は、タジオ少年の反省と彼がやろうとする恐ろしい計画に、疫病をつかう事が宣言された。時を少し遡ろう。
やあ、君。ボクは狼と蛇の子グスタフの後ろを歩いている。彼の破滅を見届けるためさ。
彼の手には手鏡がある。
タジオが住むホテル・デ・バインとは別の場所に彼は泊まり、もう何日間も街中をうろついている。
なぜかって?
彼はタジオとの逢瀬にふさわしい場所を探していたんだ。
他ならぬ、タジオに頼まれて。
第四幕は、タジオ少年の反省と彼がやろうとする恐ろしい計画に、疫病をつかう事が宣言された。
時を少し遡ろう。
ホテルのとある一室での囁き会う二人。
「父からボクたちの関係がバレた」とタジオ。
この言葉がグスタフを怯えさせたのは言うまでもなかった。
臆病者の彼にとって、そのまま街を逃げ出したかったろう。
だけど、決定的じゃない。
狼と蛇の子は、いずれ少年を見つけ出し、彼の人生をめちゃくちゃにする。
いいかい?
バカは内緒にできないんだ。
本当は、周りにクソみたいに迷惑になるのに、作品なんかにしやがる。
まさに恥知らずの所業、悪業、大偉業さ!ーーまあいいさ、話を元に戻そう。
「父からボクたちの関係がバレた」とタジオ。
「ああ、なんて事だ。神は二人を引き裂きにかかる」とグスタフの顔は苦痛で歪む。
「神なんかが、なんの力がある?真の芸術の前では、神なんかが!」とタジオは頬を紅潮させた。彼は拳を握りしめた。彼はそこで、グッと下唇を噛む。
「グスティ。この街で、二人が安全に過ごせる場所を調べてほしい。なるべく多く調べて、自分の目で。
ーーボクのために」
ああ、これだけ。
たったこれだけで、狼と蛇の子は破滅する。
ボクは見たんだ。
タジオ。ーー彼の目に、
不吉な嫌な光があることに。
金色の目をした蛇が、合いの子を嘲笑していた。
グスタフは一日に、何度も遠くから、タジオを眺めてくる。
タジオが彼の終わりを確認するのに、問題はなかった。
グスタフは臆病者だ。
きっかけがなきゃ、近寄らない。
タジオは、嫌な笑みを浮かべる。
顔が仮面になっていく。
彼の美は崩れていた。
天然から人工美へとーー。
おお、グスタフという男は情熱の翼に乗って、愛憎が組み立てる処刑台に、飛び込んでいくんだ。
まるで真夜中に開け放された窓があり、その奥に愛する人が横たわっているかのように。
みずから、終わりを迎える。
まるで、外で本を読み歩くのに夢中で、底なし沼にダイブする感じだ。
足下なんて見やしない。
何日か過ぎると、グスタフからの視線は減る。タジオは彼の方を熱く見た。
「もう終わりか」
少年にとって、老人との戦いは決闘になっていた。安全な場所からの戦いだった。ホテルとビーチ。
その往復だけで、時は彼の味方をした。
同時に、彼にとってかけがえのない美を奪いながら。
グスタフは、海から離れた場所にベンチで座っていた。もう、彼は動けない。灰色の髪は黒く染めて、顔や手足には白粉をぬりだくり、服は暑いのに正装していた。
紳士服で身を包み、いつでも愛する人を迎える準備をしていた。
頬は桃色の粉をかけ、唇は赤い紅をぬる。
そして、痙攣と泡の唾液が彼のトッピング。
タジオの目が、それを捉えた瞬間、
彼は、思わず老人を美しいと思った。
なぜかって?
老人は過去を取り戻そうとしてたんだ。これを哀れかなんて、少年には思えなかった。
そして老人の未来は、彼の未来だった。
唐突に、タジオは座り込む。
家族の目が、彼を裁くかのような視線へと変わる。
美は、神にはならない。
少年の真の誇りにはなれない。
今ここで、少年の全ては打ち砕かれた。
(こうして、第五幕は少年の仮面によって幕を閉じる)
タジオの目が、それを捉えた瞬間、彼は、思わず老人を美しいと思った。なぜかって?老人は過去を取り戻そうとしてたんだ。これを哀れかなんて、少年には思えなかった。そして老人の未来は、彼の未来だった。