第三幕:狼と蛇の合いの子
やあ、君。美を永遠にとどめておきたい時に、君ならどうする?手段と時間は限られていて、…第ニ幕は、美を永遠にしようとした少年タジオの望みは断たれた。悪魔は来ず、彼の美の中にいて、彼の破滅を考えている。第三幕では、1911年の春タジオは14歳。家族とヴェニスへ行くことになる。
やあ、君。美を永遠にとどめておきたい時に、君ならどうする?
手段と時間は限られていて、
時間は止められない。
人間に備わる美は、必ず失われるのさ。不可能だ。たとえ悪魔でもーーまあいいさ。
第ニ幕は、美を永遠にしようとした少年タジオの望みは断たれた。
悪魔は来ず、彼の美の中にいて、彼の破滅を考えている。
第三幕では、1911年の春
タジオは14歳。
家族とヴェニスへ行くことになる。
ねえ、君。
そこは優雅な運河に、その上をすべるゴンドラ、そこから見える歴史的な建造物らが、水の都の冠を被ってる。
人々は日常から逃れるために、
非日常を求めて、旅をするんだ。
タジオの心はボロボロになってた。
家族が心配し、皆で楽しむことにしたんだよ。
そこには、疫病の噂があったけど、気にしなかったのは、そのせいさ。
ヴェニスの街の人たちが、観光の為に黙ってたのもあるけどね。
ボクらは、手洗いうがいをしようぜ。
物語を進めよう。
タジオと家族は、聖マルコの鐘が響く街についた。
彼らはホテル・デ・バインに泊まる。
タジオの父が「朝は近くのビーチに夕方まで過ごし、夜にはここで眠る。明日も同じだ。楽しもう!」と部屋の中で、家族に向かっていうんだ。
タジオは父からの提案を受け入れた。
どうせ時は止められないし、ビーチで過ごすのも悪くない気がした。
彼らはその街で何日か過ごして、それが日常へと変わろうとする。
でも、あの男が現れた。
タジオと家族が無邪気に波打つ海とぶつかりあってた時、遠くの椅子に座る男がいた。
彼の名は、グスタフ・フォン・アッシェンバッハ。偉そうな名前をしてるだろう?
灰色の髪、苦悩のシワが刻まれた、厳格な瞳の作家だ。
彼は美を遠くからじゃなく、近くで味わいたかった。
まさに、蛇のような男だ。
若い身体を貪りたい蛇。そして、狼なんだ。
グスタフの視線が、彼の魂を射抜いた。
「この美しく、若きアポロンよ、君の厚い唇に貪るような祈りを。」
穏やかな海。
目の前に広がる白い砂浜を前にして、グスタフは神すら冒涜する言葉を吐く。
これにより、
太陽神の呪いは彼を焼き尽くすことは決まっていた。
だけど、彼はまだ生きていて、タジオの美を味わいたがってた。
タジオは彼の視線に気づく。
何年も待っていた芸術家だと思って、彼は家族の隙を見て、狼と蛇がどぎつい交尾をしてから、どっちかが産み捨てたような男に、近づいていった。
グスタフは一瞬、眉をあげた。彼は臆病者でもあったから。彼の若い頃にも、男に跨りたい想いを、別な方向に向けた過去がある。
「美は遠くから見ておくのがいい」とイソップ寓話のキツネとブドウの言い訳でごまかすような奴だ。
「ボクはタジオ。あなたは彫刻家ですか?」と少年は囁くように聞いてくる。
グスタフは戸惑う。そして悟るんだ。この子は芸術家を求めてるってね。
「ああ、彫刻めいた事をしているよ」と彼は甘く囁くように返した。
少年の頬が桃色に染まる。
金髪の巻き毛が風にゆれたのだ。彼の完璧な裸体は、海水パンツという薄布でしか守られない。
ああ、ボクらは止められない。
(こうして第三幕は、蛇と狼によって閉じられるのだ)
グスタフの視線が、彼の魂を射抜いた。『この美しく、若きアポロンよ、君の厚い唇に貪るような祈りを。』