表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第一幕:失われた祖国の天使

やあ、君。今回の物語は、ファウストが天に召された後の話だ。彼の壊れた魂は、次の誰かに受け継がれた。…語り部ファウストさ。ヨハン・ゲオルク・ファウスト。君と共に物語を見つめる者であり、君の友だ。

やあ、君。


今回の物語は、ファウストが天に召された後の話だ。

彼の壊れた魂は、

次の誰かに受け継がれた。

もしかして、君の時代にも彼の魂を持つ者がいるかもしれない。


ボクが誰かって?

語り部ファウストさ。

ヨハン・ゲオルク・ファウスト。

君と共に物語を見つめる者であり、

君の友だ。


今度のファウストの魂を引き継ぐ者がわかった。1897年のポーランド。

ワルシャワ近郊の石造りの大きな屋敷。そこで彼は生まれたんだ。

でも、彼の国は三つの国によって、食い物にされていた。まるでケーキのように。自分の国の誇りさえ持つことは許されない。

乳母車の中で、寝息を立ててる天使のような子。ボクには、この子の中にファウストの壊れた魂があるとは思えない。

彼の名はボーディスフ・F・モルフエス。

ーーFとはファウストだ。

この秘密の名はボクらだけが、

知っている。

ボクらは彼をこう呼ぶことにした。

ーータジオ。


タジオ。

彼が美に目覚めたのは、6歳の夏だ。

姉が彼に女の子のフリフリのドレスを着せたことから、彼は美に執着することになる。

金色の巻き毛、水色の瞳、天使のような頬の膨らみ、キスを誘うような桃色の唇が艶やかに光っていた。

「これが、ボク?」

彼の呟きは虚空へと響いて消えた。


この日から、彼はあらゆるモノから、美を見出すことに、のめり込んでいったんだ。

この美しいものを求めるのは、周りの家族にとって微笑ましいものだった。

タジオは、自分の美しさに誇りを持つようになった。本来なら国へ向ける誇りの、新しい向き場所だ。

哀れだった。

人間の美しさは永遠ではない。なのに、自分の誇りにしてた。


彼は姉の幼いドレスを何度も着ては、家族に見せる。

そんな幸せな時間が過ぎた。

砂の上だとしても、さ。


だが、12歳頃になり始めると両親は危機感を強めたんだ。

彼の美により、

彼が女に目覚めないか心配した。

だから、彼の美を別の美に向ける必要があった。美術的なものに。


1909年頃。彼の両親は家族でヨーロッパを旅し、パリ、ローマなどの美術館を巡った。

ギリシャ彫刻を眺め、

ミケランジェロのダビデに触れた。

彼はそこで、

自分の美は永遠ではないと悟った。

「ボクの肌は大理石ではないーー」


その夜、彼は6歳の時と同じように、

ドレスを身にまとって鏡の前に立つ。

姉の化粧を使って、赤い紅を引いた。

そこには天使ではなく、

妖艶な女がいた。

「美は神の贈り物だ。だが、人間よ。お前は永遠ではない。

ーーいずれ奪われる贈り物」と鏡の中の女は彼を嘲笑するんだ。

タジオは四つん這いになる。

人間!!

ボクが人間だから!!

美を奪われる!!

与えた神によって!!

「永遠の美よ、ボクを導きたまえーー」

彼は吐き捨てるように呟く。


怒りと嘆きは地獄のファンファーレ。

悪魔を呼ぶには、ちょうどいい。

だけど、彼はもうすでに悪魔を呼んでた。


ああ、鏡の中の女の口が耳まで裂けた。

ーー笑ってるんだ。


(こうして、第一幕は鏡の前で幕を閉じる)

怒りと嘆きは地獄のファンファーレ。悪魔を呼ぶには、ちょうどいい。だけど、彼はもうすでに悪魔を呼んでた。ああ、鏡の中の女の口が耳まで裂けた。ーー笑ってるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ