第一幕:失われた祖国の天使
やあ、君。今回の物語は、ファウストが天に召された後の話だ。彼の壊れた魂は、次の誰かに受け継がれた。…語り部ファウストさ。ヨハン・ゲオルク・ファウスト。君と共に物語を見つめる者であり、君の友だ。
やあ、君。
今回の物語は、ファウストが天に召された後の話だ。
彼の壊れた魂は、
次の誰かに受け継がれた。
もしかして、君の時代にも彼の魂を持つ者がいるかもしれない。
ボクが誰かって?
語り部ファウストさ。
ヨハン・ゲオルク・ファウスト。
君と共に物語を見つめる者であり、
君の友だ。
今度のファウストの魂を引き継ぐ者がわかった。1897年のポーランド。
ワルシャワ近郊の石造りの大きな屋敷。そこで彼は生まれたんだ。
でも、彼の国は三つの国によって、食い物にされていた。まるでケーキのように。自分の国の誇りさえ持つことは許されない。
乳母車の中で、寝息を立ててる天使のような子。ボクには、この子の中にファウストの壊れた魂があるとは思えない。
彼の名はボーディスフ・F・モルフエス。
ーーFとはファウストだ。
この秘密の名はボクらだけが、
知っている。
ボクらは彼をこう呼ぶことにした。
ーータジオ。
タジオ。
彼が美に目覚めたのは、6歳の夏だ。
姉が彼に女の子のフリフリのドレスを着せたことから、彼は美に執着することになる。
金色の巻き毛、水色の瞳、天使のような頬の膨らみ、キスを誘うような桃色の唇が艶やかに光っていた。
「これが、ボク?」
彼の呟きは虚空へと響いて消えた。
この日から、彼はあらゆるモノから、美を見出すことに、のめり込んでいったんだ。
この美しいものを求めるのは、周りの家族にとって微笑ましいものだった。
タジオは、自分の美しさに誇りを持つようになった。本来なら国へ向ける誇りの、新しい向き場所だ。
哀れだった。
人間の美しさは永遠ではない。なのに、自分の誇りにしてた。
彼は姉の幼いドレスを何度も着ては、家族に見せる。
そんな幸せな時間が過ぎた。
砂の上だとしても、さ。
だが、12歳頃になり始めると両親は危機感を強めたんだ。
彼の美により、
彼が女に目覚めないか心配した。
だから、彼の美を別の美に向ける必要があった。美術的なものに。
1909年頃。彼の両親は家族でヨーロッパを旅し、パリ、ローマなどの美術館を巡った。
ギリシャ彫刻を眺め、
ミケランジェロのダビデに触れた。
彼はそこで、
自分の美は永遠ではないと悟った。
「ボクの肌は大理石ではないーー」
その夜、彼は6歳の時と同じように、
ドレスを身にまとって鏡の前に立つ。
姉の化粧を使って、赤い紅を引いた。
そこには天使ではなく、
妖艶な女がいた。
「美は神の贈り物だ。だが、人間よ。お前は永遠ではない。
ーーいずれ奪われる贈り物」と鏡の中の女は彼を嘲笑するんだ。
タジオは四つん這いになる。
人間!!
ボクが人間だから!!
美を奪われる!!
与えた神によって!!
「永遠の美よ、ボクを導きたまえーー」
彼は吐き捨てるように呟く。
怒りと嘆きは地獄のファンファーレ。
悪魔を呼ぶには、ちょうどいい。
だけど、彼はもうすでに悪魔を呼んでた。
ああ、鏡の中の女の口が耳まで裂けた。
ーー笑ってるんだ。
(こうして、第一幕は鏡の前で幕を閉じる)
怒りと嘆きは地獄のファンファーレ。悪魔を呼ぶには、ちょうどいい。だけど、彼はもうすでに悪魔を呼んでた。ああ、鏡の中の女の口が耳まで裂けた。ーー笑ってるんだ。