【漫才】母校のホームカミングデーに来たキョンシー卒業生
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の堺県立大学に留学生としてやってきたが、卒業後に定住。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人のキョンシー。学生時代は人間だったが、後期高齢者になったタイミングでかつてのゼミ友の助力でキョンシーとして生まれ変わる。本名は蒲生希望。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「こらこら、それは半世紀以上前の話でしょ。私達は随分前に堺県立大学を卒業したし、今じゃ二人ともキョンシーだからね。」
ボケ「おっと、そうだったね!ホームカミングデーで久々に大学に来たから、つい当時の感覚に戻っちゃったよ。」
ツッコミ「そう頼りない事言われちゃ、しょうがないなぁ…ほら、よく見てよ。私も貴女と同じように、官服と暖帽を着て額に霊符を貼ってるじゃない。」
ボケ「おっ、良いじゃない!蒲生さんったらよく似合ってるよ。アンチエイジングにも成功して大学生だった頃の外見にも戻れたし、とても孫がいる後期高齢者だとは思えないね。」
ツッコミ「いきなり年齢をバラさないでよ!こっちにだって心の準備があるんだからね。大体、年齢に関しては貴女も同じじゃないの。」
ボケ「私は大学進学前の十八歳でキョンシーになったから、またちょっと違うんだよ。孫どころか子供もいないし、そもそも結婚もまだなんだから。」
ツッコミ「あっ、何かゴメン…」
ボケ「とは言え妹の家系には孫が沢山いる訳だからね。台湾に帰省したら大伯母ムーブメントが出来る訳だし。」
ツッコミ「妹さんって五歳下の珠竜ちゃんの事だよね。ところで珠竜ちゃんは元気してる?キョンシーになる直前の数年間は、足腰が萎えて海外旅行はおろかろくに出掛けられなかったんだけど…」
ボケ「うん、至って元気だよ。でも生身の人間だった頃の感覚がまだ抜けないらしくて、関節が硬直した時には戸惑うみたいなんだ。」
ツッコミ「えっ、珠竜ちゃんもキョンシーになっていたの?」
ボケ「あれは確か、蒲生さんがキョンシーになる一年位前だったかな?帰省したら珠竜が杖をついていたんだよ。話を聞いたら階段から落ちて骨折したらしくてね。」
ツッコミ「えっ、そんな事が…足を悪くしたのは私と同じだね。」
ボケ「それで『このままじゃ寝たきりになりそうだから、お姉ちゃん頼むよ。やっぱり自分の足で歩きたいから。』って言われてね。まあ厳密には『自分の足で歩く』というよりは『自分の足でピョンピョン跳ねる』の方が正しいかな?」
ツッコミ「自分の妹に対して何て事を言うのよ!まだキョンシーの身体に慣れてないのに、貴女には温かい血は流れてないの?」
ボケ「あのね、蒲生さん。私も妹も蒲生さんも、みんな死人のキョンシーなんだよ。誰も温かい血なんか流れてないって。」
ツッコミ「あっ、そう言えば…」
ボケ「まあ確かに、うちの妹も蒲生さんもキョンシーになって日が浅いからね。慣れてない事があっても仕方ないよ。その点、私は数十年間もキョンシーとして日本で生活してきた訳だからね。分からない事があれば何でも聞いてよ。学生時代からの旧友として相談に乗るから。」
ツッコミ「確かに、吉田兼好の『徒然草』にも『何事にも先達はあらまほしき事なり』ってあるからね。じゃあキョンシー生活で分からない事があったら相談して良いんだ。」
ボケ「任せてよ、蒲生さん!それで私にも分からない質問だったら、元町の御隠居様や島之内の姐さんに聞いてくるから。」
ツッコミ「ちょっと、ちょっと!さっきの自信満々な口振りは何だったのよ!」
ボケ「だって御隠居様も姐さんも、清代末期からキョンシーとして日本にお住まいなんだよ。知識や経験の質とか量とかが、私みたいな若輩者とは段違いなんだから。」
ツッコミ「若輩者って…さっきは『数十年間もキョンシーとして日本で生活してきた』って言ってたじゃない!」
ボケ「何しろ長い間ずっと、日本キョンシー総会の最若手だったからね。ようやく先輩風を吹かせられるのに嬉しくなっちゃって。」
ツッコミ「もう…調子良いんだから。」
ボケ「だけど蒲生さんに充実したキョンシーライフを送って欲しいのは事実だよ。在日キョンシーの先輩として、そして同じ大学で青春を過ごしたゼミ友としてさ。」
ツッコミ「こういう時には旧友の有り難みを改めて実感させられるね。貴女の言う通り、キョンシーになってからは色々と戸惑う事も多いんだよ。だから相談に乗って欲しくてね。」
ボケ「成る程ね…皆さん、こんにちは!全国キョンシー電話相談室の御時間です。私は電話のお姉さん、王美竜です!」
ツッコミ「えっ、何か変なコーナー始まった!ちょっと、電話のお姉さんって何?」
ボケ「今日のキョンシー電話相談室は、新しくキョンシーになったお友達のお悩み事について、どんどんお電話下さい!」
ツッコミ「スルーされた!これは電話じゃないと答えてくれないパターンかな?」
ボケ「固定電話やFAXは勿論、スマートフォンからも受け付けているよ。みんなも暖帽の中に収納しているスマートフォンから、どしどしお姉さんに電話をかけてね。」
ツッコミ「こんな所にスマホを収納しているなんて、キョンシーだけだよ!しょうがないなぁ…もしもし、電話相談室ですか?」
ボケ「はい、キョンシー電話相談室です!住んでいる県とお名前を聞かせてね。」
ツッコミ「あっ…はい、堺県堺市の蒲生希望といいます。」
ボケ「蒲生希望ちゃん、お電話有り難う。今日はどんなお悩み事があってお電話してくれたのかな?」
ツッコミ「キョンシーになって日が浅いんですが、朝起きたら関節が固まっている事があります。両手を前に突き出してピョンピョン跳ねながら移動すると、段差や階段が心配です。どうすれば良いですか?」
ボケ「はい!これはキョンシーのみんなにとっても他人事じゃない悩み事だね。身体の関節が固くなったら、暖房を効かせたりストレッチをしたりで身体を温めると良いでしょう。」
ツッコミ「思ったよりマトモな答えで安心したよ。それで段差や階段はどうしたら?」
ボケ「身体の硬直が治るまでは、なるべくエレベーターを使いましょう。飛僵になって空を飛べば段差や階段も気にせず移動出来るので、気長に進化するのを待つのも良いですね。」
ツッコミ「気安く言わないでよ!飛僵になるには時間をかけないといけないんでしょ?こっちはキョンシーになったばかりなのに。」
ボケ「それでは蒲生希望ちゃんには、番組特製ステッカーをプレゼント致します。」
ツッコミ「ステッカーって言ったけど、これって霊符じゃないの!」
ボケ「お家の中の好きな所に貼るのは勿論、額に貼るのも良いですね。」
ツッコミ「私達の場合は額に貼る一択なんだよ!」
ボケ「残念なお知らせがあるんだけど、このキョンシー電話相談室は今回で最終回なんだよ。」
ツッコミ「始まってすぐに終わったじゃない!」
ボケ「実は番組特製ステッカーのストックがなくてね。プリンターのインクが切れてて印刷出来なくて…」
ツッコミ「良いよ、こんなの作らなくたって。」
ボケ「生憎と電話相談室は駄目になったけど、普通の形で良ければ相談に乗れるよ。それでも良い?」
ツッコミ「その方が私も助かるよ、こんな電話相談より。実は先週の日曜日に、小学生の孫達を堺市立博物館の特別展に連れて行ってあげたんだ。」
ボケ「良いじゃない、堺市立博物館!あそこは堺市内の小中学生と六十五歳以上の堺市民は入館無料だから、リーズナブルに休日を過ごせるね!」
ツッコミ「ところが私だけ引っ掛かっちゃったんだよ。『弟さんと妹さんは無料ですが、お姉さんは大人料金を払って下さい。』って。」
ボケ「それは仕方ないね。何しろ蒲生さんは大学生の頃の外見年齢にまで若返ったんだから。年齢の分かる身分証明は必要不可欠だよ。」
ツッコミ「運転免許を見せたから何とかなったけど、顔パスって訳にはいかないのかな?こんな一目でキョンシーと分かる服装をしてるのに。」
ボケ「昔は出来たんだけど、今は駄目みたい。何年か前、普通の大学生がキョンシーの振りをして高齢者割引を悪用しようとした事があってね。」
ツッコミ「ひどいなぁ、一部の不心得者のせいでみんなが迷惑するのに。」
ボケ「だから現役学生の皆さんも『ライフハック』と称してみみっちい真似をするのではなく、バイトでコツコツ御小遣いを稼ぎ、キチンと勉強して就職して真っ当なお金で遊びましょうね。」
ツッコミ「おっ!ホームカミングデーに来た卒業生らしく、良い事言うじゃない!」
ボケ「少年老いやすく学成り難し。若いからと油断していたら、あっという間に棺桶の中ですからね!」
ツッコミ「キョンシーの私達がそれを言ったって、説得力がないよ!」
ボケ「しまった!私も週一で棺桶で寝ているんだった!」
二人「どうも、ありがとう御座いました!」




