・第九話 ≪熊川少佐≫
本作を選んでいただき、誠にありがとうございます‼︎
本作を楽しんでいただければ幸いです‼︎
第九話
「熊川少佐」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
戦争準備段階となった時勢の中。誠の元に、近隣に配備予定の部隊長が挨拶に来ていた。
*********
*********
●玄岳城・面会室●
「粗茶になりますが」
「がはは‼︎いただこう‼︎」
恰幅のいい月皇国軍少佐…熊川 五郎が一気に茶を飲む。味わっている感じはなく、一気飲みであった。
「それでは改めて…月皇国軍第十二大隊指揮官の熊川 五郎月皇国軍少佐だ。よろしく頼む」
「南李共和国軍第六歩兵大隊指揮官の天ノ川 誠少佐であります。若輩者ではありますがよろしくお願いします」
両者が握手を交わす。
「これはつまらない物だが月皇国の土産だ‼︎そろそろ祖国の味が恋しい頃だろう?」
「これはどうも」
誠が土産を受け取る。
「それで早速だが、北の連中はどうだ?前線指揮官の貴官の感想を聞きたい」
「小官のですか?構いませんが…」
誠が近くで控えていた大隊兵士を呼び寄せる。
『地図を持ってきてください』
『はっ、すぐにお持ちします‼︎』
大隊兵士が立ち去る。
「ほう?貴官は李国語が堪能なようだな」
「ええまあ、それなりにというやつです」
「がはは‼︎成程成程‼︎通訳どころか貴官以外の月国人兵士がいないわけだ‼︎」
しばらくすると地図が机の上に広げられる。
「北李王国軍側の戦力は1個大隊と補助と思われる2個中隊です。防衛拠点は慌てて作られたと思われる砦です。入りきらない兵士達はその近くで野営しているようです」
「ふむ。武装は?」
「大砲2門を確認していますが、旧式もいいところですね。本来でしたらここに湾岸都市から暴帝国の増援が合流するのですが、少し前の馬賊襲撃で港は大炎上。増援の上陸は不可能です」
なお、復旧には年単位で時間がかかるとされていた。
「本当に北側の国境地帯は荒れてるんだなぁ。こちらの馬賊は大丈夫なのか?」
「小官が管理しております。こちらに合流しない馬賊や反抗的な馬賊は、指揮下の馬賊達に襲撃させて勢力を削ぎ殲滅しております。戦時には指揮下の馬賊達にも参戦を命じる予定です」
「成程、貴官は南側馬賊の王というわけか」
すっと誠は目を細める。
「この1個大隊及び2個中隊は崩せるか?」
「問題ありません。属国軍たる第六歩兵大隊と増援の馬賊だけで殲滅できるでしょう。問題はその先です」
「先?…湾岸都市か?」
「それはそれで問題なのですが、ここです」
「ん?これは…」
そこは山岳に造られた半地下の要塞城。
「近代半地下要塞城【鉄峰堡】です。山岳地帯をくり抜いたような地下を持つのが特徴の、厄介な要塞です」
「これは…攻めにくい要塞だな」
半分地下にあるため突入せねばならないが、上層部の城部分も防衛拠点としての機能が十全に働くため、近付くためには多数の死者を覚悟せねばならない。馬賊でも歩兵部隊でも攻めにくい城である。
「我が部隊には大砲の類がありません(機関銃はあるけど)。よって、この要塞を肉薄で落とす必要があります」
「大隊では足りぬな。師団規模で当たるべき要塞だ。無論大砲付きでな」
五郎も深く考え込み始める。
「我が大隊は多少大砲を持ち込んでいるが、この要塞を落とすなら5倍は欲しいところ。それでなお、多数の戦死者は覚悟しなければならない」
「しかも、半分地下のせいで偵察させた馬賊達が駐屯兵力を把握できませんでした。運び込んでいる食料などを見る限りは、1個大隊程度なのですが」
「あくまで予測というわけか」
あまり踏み込めば地域紛争から南北戦争開始の危険もあった。故に偵察しきれていないのである。
…今更という意見は置いておいてであるが。
「正直無視しても構わないのですが、背後に推定大隊規模の敵軍がいるのはよろしくない」
「最悪でも差し止めておく兵力が必要というわけか」
「そこで、我々は志願した民兵達に偽装部隊として展開してもらい、あたかもそこに軍隊がいるように見せたかったのですが…」
「皆、この軍事的緊張を見て南側に避難してしまったと」
「残ってるのは、南に逃れようとしたが失敗した難民や頑固な住民ばかり。とてもではありませんが志願兵など集められません。馬賊も馬賊で使う予定もありますし」
「ふむ、話は分かった」
五郎の前に新たなお茶が置かれ、再び一気飲みする。
「上層部には砲を融通してもらえないか頼んでみよう」
「ありがたい」
一度話題が置かれる。
「それ以外に懸念事項はあるか?」
「いえ特には。敵兵の士気は地を這ってますし、たまに難民の中に逃亡兵が混ざっているほどです。暴帝国兵に関しては多少注意が必要ですが、そもそも軍事的緊張を高めないためかそもそもの数が多くないのでさして問題はないでしょう」
「ふむ、初戦は問題なさそうか。となるとやはりこの要塞か」
そう、結局は要塞であった。
「なんとか偵察できんのか?」
「難しいです。李国人に兵士のふりをさせようにも、補給以外は完全に門を締め切っており、中の兵が出てくることは皆無です。つまり、破壊工作も難しい」
「ふむ。不落ではないが、難敵の要塞だな」
「ーーーただし、小官としても無策ではありません」
誠はニヤリと笑みを浮かべる。
「ふむ、策があると?」
「ええ、まあ少々時間はかかりますがね。それと詳細はお伝えできぬことを謝罪させていただきます」
「分かった‼︎では要塞は任せよう‼︎」
「要塞さえなんとかなれば、あとはこちらの攻勢限界まで攻め上げれば良い。全ては要塞攻略にかかっています」
「どこら辺まで攻める気だ?」
「そうですね」
誠は地図の1つの街を指し示す。
「占領ですとこの辺りが限界かと。ここを拠点に後続部隊が来るまでは防衛戦…かと」
「うむ、現実的な計画だな。
…ただし、後続部隊の来援はそれなりに遅くなる」
「は?後続部隊が遅くなる?」
誠は五郎の顔を見る。渋柿を無理やり飲み込むような顔である。
「数個師団規模の軍が暴帝国への上陸作戦に使われる予定だ」
「暴帝国本土にですか?」
「ああ、本国はこれを喧伝し、暴帝国が本格参戦した時は本土を戦場にすると脅しているのだ。それ故に、軍を上陸部隊として確保しておかねばならない」
誠は少し考え込む。
「ふむ、とすると」
「ああ、この半島での戦争は半島の戦力が主力となる。まあ、南北代理戦争だ」
「しかし、そうなると分割増援の話は…」
「こっちには促成栽培の新兵大隊を当てるそうだ。正直言うと北の連中を舐めすぎてる気はするがな」
「まあ、前回が前回でしたからね」
南北分断のきっかけとなった暴帝国と月皇国の戦争において、圧倒的兵力差にも関わらず月皇国は全ての戦場において連戦連勝した。
暴帝国旧李王国連合軍戦死者10万人以上捕虜20万人以上に対し、月皇国軍の戦死者が1万人程度であったことからもその優勢は間違いなかった。
ーーーそれ故に生まれたのが【暴帝国弱兵思想】である。
月皇国軍上層部は心底暴帝国軍を舐め腐っていた。新兵でも蹂躙できる弱軍であると。
「確かに暴帝国の軍は緊急徴兵されて、教育もなく全線に送り込まれてくる兵士ばかりです。しかし、それはそれとしても数は数です。それを経験のない新兵部隊に任せるのは…」
「しかも、指揮官達は【青年将校派】。古株の指揮官達とは相性が悪い」
青年将校派。若手将校のグループで、今の政権上層部に不満を持ち、何かと軍上層部や古株達と揉めやすい者達であった。特に尉官に多い軍人達であった。
「しかし、青年将校派は優秀な者達が多いと聞きます。戦争という一点だけならば優秀な人材なのでは?」
「思想が作戦や連携に支障をきたさねばな」
五郎が立ち上がる。
「まあ、我々は我々でやれるところまでやるしかない。貴官には期待している」
「こちらこそ」
両者が握手を交わすと、五郎が部屋を立ち去る。
「青年将校派か。俺もかなり若手のはずなんだがな」
*********
*********
ーーー翌月、秋が終わろうとする頃。南李共和国政府は議会において北進を決定。
ーーー南李共和国は正式に北李王国に対して宣戦布告。
『民を守らぬ政府など要らぬ‼︎圧政に苦しむ同胞達を救うのだ‼︎
ーーー共和国万歳‼︎』
『『『『共和国万歳』』』』
『『『『共和国万歳』』』』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エンド
最後までお読みいただきありがとうございました‼︎
ブックマークや感想をいただけると、とても励みになります。
次回も是非よろしくお願いし




