・第五話 ≪少佐≫
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第五話
「少佐」
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月皇国からすると、誠の南李共和国への派遣は、軍人政治や貴族政治の関わらない単純な戦力としての派遣であった。
元々、天ノ川家は軍事には参加するものの、政治に口出しをしない…まさに政治家の求める軍人貴族であった。それ故に、南李共和国に派遣したとしても政府軍人の双方の勢力争いに加わらないだろう。そんな安心感のある派遣であった。
ーーーそんな軍人貴族士官の挙げた戦果。それこそ旧李王国系ゲリラの壊滅。そしてゲリラの神輿となっていた北李王国の王太子捕獲である。
ーーーこの事件ともいうべき報告に、本国の政治家がお茶を噴き出すこととなる。
「北李王国の王太子だと⁉︎何故反政府組織の長をしているのだ⁉︎」
「詳しくは不明です‼︎しかし、これは…」
月皇国側からすると知りたくなかったし、そもそも捕獲してほしくなかった相手であった。
北李王国からすれば王太子の身柄の引き渡し要求をするのが当たり前であるし、南李共和国からすれば反政府組織を率いていた王太子をそう簡単に引き渡せるわけがない。結果はそう…緊張激化である。
少なくても戦時の傷が癒えるまでは、双方の宗主国たる月皇国も暴帝国も緊張激化は望まぬ話である。しかし、単純に属国への一喝で解決に進む話でもなかった。
自国の王太子が捕えられている北李王国が退くわけにはいかないし、国内を荒らされた南李共和国も黙って主犯を帰す訳にはいかない。
そこで急遽暴帝国は月皇国への会談を申し込んだ。
『北李王国にはいくつかの島を割譲させる。無論、国内を荒らした謝罪の代金と身代金としてだ』
「ならば南李共和国は我々が話をつけよう。何、我々は宗主国。断れはせぬよ」
宗主国同士の話し合いはかなり簡潔に済み、3つの島を南李共和国に割譲することにより、北李王国は王太子の奪還に成功するのであった。
「王太子を捕えた士官…天ノ川家の士官にはしっかりと褒美を与えておけ。あの天ノ川家が何かするとは思えんが、しっかりと功績には報いなければな」
王太子の身柄引き渡しと同時期。国境地帯ではあちらこちらで馬賊による略奪攻撃が行われていた。
『奪え‼︎奪え‼︎奪えぬものは破壊せよ‼︎』
天狼団への正式加入を条件に、北李王国で活動していた馬賊達が国境近くの村々を襲撃していた。騎馬による高速襲撃と高速離脱は、国境近くの兵士達が駆けつける頃には撤退まで終わっているという状況を生み出していた。
『クソ‼︎馬賊共め‼︎』
『いかん、このまま襲撃が続けば…』
『この地方どころか俺らまで冬を越せなくなるぞ』
時期は秋が終わろうとする頃である。現地の食料に兵站の大部分を依存するこの時代において、この馬賊の跋扈は見過ごせないものであった。
『しかし、今軍を動かすのは…』
軍を動かそうにも軍事的緊張状態が高まっているため、下手な軍事行動は南北戦争を引き起こす可能性があった。それ故に馬賊達の襲撃を指を咥えて見ているしかできなかったのである。
この馬賊の襲撃…後に【北荒の屈辱】と呼ばれるこの乱は、難民3万人近くを生み出し、北側の国境線をしばらくの間荒らし続けることになる。
ーーーそれは、まさに復興義勇隊が本来行いたかったことのごとき所業であった。
「やり過ぎか?だが、意趣返しとしては十分だし、馬賊の連中の蓄えにもなるだろう」
誠の想定よりも荒れた国境地帯。もはや馬賊の襲撃では収まらないそれは、もはや天災と変わらぬものであった。
…さて、この事件に恐怖した国がある。南李共和国であった。
『馬賊がここまでの被害を⁉︎』
『奴ら一体⁉︎』
南李共和国でも馬賊を危険視する意見が多く上がる。そんな中で出されたのが誠の…宗主国から派遣された軍人による、馬賊部隊の運用計画であった。
『軍で馬賊を管理できるのならば、それに越すことはないのでは?』
『しかも月皇国側の軍人だ。我々がやるよりも権限もある』
『この天ノ川 誠中尉…失礼、少佐殿に任せるとしよう』
こうして、天狼団は正式に南李共和国政府に認可をもらった部隊となった。
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●総督府●
●陸軍駐屯地●
「いきなり少佐??」
陸軍駐屯地を出た誠は何度も何度も佐官用の軍服を見る。そして辞令書を見る。
「北李王国王太子捕縛及び馬賊部隊の編成に功ありとし、少佐に任命する。また、一度部隊は解体とし、新設の歩兵連隊指揮官とする。任地は国境地帯の軍事拠点である【玄岳城】とする」
それはつまるところ、今までの部隊を解体する代わりに、もっと大規模な全線部隊を任せるということであった。
「まだ中尉になってから1年も経ってないんだが…まあいい」
しかも誠には好都合なことに、大変任地が良かった。
「国境地帯ならば馬賊の調整が楽だな。せいぜい略奪してやるよ」
この頃、王太子の引き渡し直前だったこともあり、馬賊の襲撃は激化の一途を辿っていた。
ーーーしかし、この襲撃がこの南北で分断された両国の運命を大きく動かすこととなる。
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●【柳川鎮】●
そこは大きくはないながらも、南北分断地帯の交易で栄えた貿易の村であった。商人で行き交うそんな場所。しかし、そこは馬賊により略奪の場となっていた。
『奪え奪え‼︎全て俺らの物だ‼︎』
80騎程度の馬賊達があちらこちらを襲撃し、金目のものや食糧を略奪している。その装備は数多の略奪により、正規軍に近いほどの質を揃えていた。
『がははは‼︎自警団をやめて略奪に集中すればこんなに儲けが出るのかよ‼︎』
『さっさと略奪を続けろ‼︎奪えば奪っただけ俺らの儲けだ‼︎』
『へいへい‼︎』
略奪に専念する馬賊達。しかし、それも長くは続かなかった。
『撃て撃て‼︎これ以上馬賊に好きにさせるな‼︎』
『なっ⁉︎北の王国連中だと⁉︎』
突如として現れた北李王国軍兵士達が馬賊達に発砲する。略奪に気を取られていた10人程度の馬賊が命を刈り取られる。
『王国の連中が、庶民を守っただと…チッ、撤退‼︎退け‼︎』
『俺らの時は何もしてくれなかったくせに。今更かよ』
次々と馬賊が離脱していく。流石に正規軍相手は難しいと判断したためである。しかし、一部馬賊は戦闘を続けようとしていた。
『ギャハハ‼︎その程度の兵士で、今の俺らが止められるかよ‼︎』
『ムカつくんだよ‼︎今更正義の軍隊気取りでよぉ‼︎』
略奪の高揚感と搾取と弾圧された憎しみ。半数程度の馬賊が戦闘を続行していた。
『何?一部部隊が撤退してないだと?チッ、熱くなった奴がいるな。まあいい、自殺志願者は放っておけ』
急襲と離脱を戦法としていた馬賊達は基本的に継戦能力はさほど高くない。弾もそこまで携帯してはいない。残って戦うというのは自殺行為であった。
『これ以上の蛮行を許してたまるものかッ‼︎』
『腐った王国軍がッ‼︎』
北李王国軍は多数の被害を出しながら、馬賊の掃討に成功することとなる。
『国民を守れ‼︎』
この戦いの中で名を挙げた男がいた。北李王国軍【崔 武健】。独断で馬賊掃討を開始した軍人であった。北李王国の民は彼を<義の軍人>と呼んだ。
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エンド
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