・第一話 ≪傀儡国≫
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第一話
「傀儡国」
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【李王国】。北から西に古き大国【暴帝国】の大陸。南から東を新たな大国【月皇国】の列島。その真ん中の半島を国土とする国家である。
長きに渡り暴帝国の朝貢国として過ごしてきた李王国は、古き大国暴帝国と新たな大国月皇国。その両国との戦争に巻き込まれ、国土を北と南に分断された。
その結果として…暴帝国の属国【北 李王国】、月皇国の属国【南 李共和国】。その2カ国に分断されることとなる。
そして分断から僅か8年後。南李共和国領の奪還を目指す暴帝国率いる北李王国、北李王国領への野心を隠しきれない月皇国。開戦はもはや避けられないものであった。
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●南李共和国●
● 仁洞●
仁洞は南李共和国最大の湾岸都市であり、月皇国が99年間租借している租借地でもあった。月皇国の軍港が置かれ、月皇国軍の駐屯軍基地もあった。
「ここが南李共和国か」
まだ新品の士官用軍服姿の青年士官が、周囲を見渡しながらボソリと呟く。その表情には「期待以上に酷い」という内心の声がありありと現れていた。
「旧李王朝の特権階級が民衆から全てを搾り取り、国は貧しいとは聞いていたが…道はまともに舗装されておらず、ゴミもそこら辺に放置されている。一般市民の顔にも余裕がない。どうやら聞いていた以上に貧しい国のようだ」
『ぐ、軍人様』
「ん?」
ボソボソと呟いていた青年士官が振り返ると、そこにはまだ幼いであろう少女が立っていた。言語からしても李国人なのは間違いなかった。
服はボロボロで、貧しい身の上なのは一目見れば分かる出立であった。
『く、果物を買ってくださいませんか?と、とっても美味しいです』
「…」
『あ、あの…』
『ああ、申し訳ない。いきなりで少し驚いてしまってね』
青年士官はにっこりと笑みを浮かべながら、流暢な…それこそ李国人と間違えそうなほどペラペラな李国語で少女に返答する。
『それで…ああ、果物だったね。何があるんだい?』
『それだと…林檎と梨があります。どっちも旬で美味しいです‼︎』
『丁度いい。食べ物が欲しかったところでね。新鮮な林檎を2つ、それと梨を1つもらいたいんだけど…残念ながら月皇国の通貨しか持ってないんだ。多めに支払うからそれでも構わないかい?』
『はい勿論です‼︎』
青年士官の丁寧な応対に緊張がほぐれてきた少女が、取引ついでにと雑談を始める。
『君はいつもここで商売を?』
『お父さんは足が悪くて。弟達もまだ幼いですし…』
『そうか。君は偉いね』
『えへへ』
少女が照れた表情を浮かべる。
『どけどけ‼︎』
『いた‼︎あそこだ‼︎』
「…ようやく来たか」
青年士官の前に南李共和国軍の軍人2人が現れる。
「ち、チュウイ殿‼︎オムカエ上がりマシタ‼︎」
『慣れない月国語は大変でしょうし、情報の伝達に問題があります。公式の場でなければ李国語で構いません』
『か、かしこまりました‼︎』
南李共和国兵士達が敬礼する。
『あ、あの…』
『なんだお前は?さっさと』
『ひッ⁉︎』
『…』
青年士官が追っ払おうとした南李共和国軍人と少女の間に入り、青年士官が少女に笑顔で語りかける。
『ち、中尉殿?』
『怖がらせてすまないね。どうやら彼らも腹が減ってイライラしているようだ。林檎と梨を2個づつ別でもらえるかな?』
『は、はいどうぞ‼︎』
果実を渡し青年士官から現金を受け取ると、少女は人ごみの中に消えていく。
『…自国民を怖がらせてどうするんですか』
『も、申し訳ございません‼︎』
『この林檎と梨は貴方達で食べて下さい。それが少女への謝罪になるでしょう』
『『はっ‼︎』』
南李共和国軍人達が林檎と梨を受け取る。
『で、貴方達はどちらの所属で?』
『はっ‼︎南李共和国軍【第06臨時歩兵中隊】所属、【南】軍曹です‼︎』
『お、同じく【日】二等兵であります‼︎』
『それでは私も改めまして…月皇国軍陸軍中尉【天ノ川 誠】です』
青年士官…誠が敬礼する。
『しかし、何故第六臨時歩兵中隊の兵士が迎えに?私指揮する小隊員が来るのが一般的では?』
『後ほど正式に辞令が渡されるそうですが…中尉殿には予定されていた小隊指揮ではなく、我々第六臨時歩兵中隊の指揮官として着任するようにとのことです』
『…は?普通大尉とかが指揮するものでは?私は中尉。しかも成りたてほやほやですが』
『小官には詳しい事情は知らされておりません。こちらが詳しい書類となります』
誠は書類を受け取るとパラパラと読み始める。
『…成程、上級士官不足ですか。全くもって人材不足は如何ともし難いですね』
ーーー誠が本来の階級の指揮範囲である小隊隊長ではなく、その上の中隊長になった理由。それは指揮官の不足であった。
旧李王国において、軍隊の指揮官とは貴族の特権である。金と権力だけで指揮官になった者達を襲ったもの。それこそ暴帝国と月皇国の戦争であり、数多くの李国人指揮官が戦場に骸を晒した。
その結果。月皇国の植民地軍である南李共和国軍の指揮官となり得る人材が、完全に不足する事態に陥っていたのである。指揮できる人間が全滅していたのだ。
そこで、元々組み込む予定であった月皇国軍人の指揮範囲を拡大。本来の地位以上の部隊指揮を任せることになったのである。
「(そういえば、旧李王国は支配体制のために宗教で下級市民達の教育を禁止してたな。それも指揮官不足の原因か)」
平民はバカな方が使いやすい。それが旧李王国の王朝の考え方であり方針であった。旧李王国は愚民化政策に熱心であったのだ。
「(指揮する兵は約200名か。初めての部隊式にしては兵士数が多いな)」
書類をバックにしまった誠は、南達に道案内されて道を進む。
『ところで、中尉殿は月皇国の貴族出身で聞きましたが』
『ええ、軍事貴族の【天ノ川伯爵家】の血が入っていますね。現当主からすると腹違いの一番下の弟になります』
『『へ?』』
そう、こう見えて誠は貴族の血が入っている。しかし、それは血が入っているだけである。
『正妻以外の子ですからね。継承権もないですし、何とか天ノ川一門に属しているだけって立場です。ある意味気楽ではありますがね』
『そ、そうですか』
いかんことを聞いてしまったとばかりに南が頭を掻く。
『着きました。ここが南李共和国軍の第六臨時歩兵中隊の駐屯地です』
『ふむ…』
そこは誠の知らぬことであったが、元は貴族の屋敷であり。政府により接収され軍人宿舎として提供された場所であった。
『お部屋にご案内いたします』
『荷物も軽くはないですから助かります』
こうして、誠の南李共和国生活が始まるのであった。
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ーーー天ノ川 誠は軍事貴族の家系として生まれた、俗に言うところの転生者である。
神の如き声に導かれ、記憶と特典とも言うべき異能を得てこの世界に転生した元日本人である。
彼が転生した世界は日清戦争後の日本のような国である月皇国であった。それが何を意味するのか?どんな使命があるのか?今の彼には知ることもできないことであった。
しかし、時代の流れは激流のように押し寄せてくる。彼がその時代の流れの中で何を成すのか?それは神のみぞ知る…いや、神ですらも知らぬことかもしれない。
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エンド
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