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偽善事業  作者: 灯月公夜
第一章:真っ暗/日常/私の世界
11/14

10

 その日の帰り道、良平は昨晩真理恵から送られてきたファックスとにらめっこしていた。ありさはその横でぼんやりと虚空の空を見上げていた。

「すみません、大森さん」

 脂汗を出しながら良平はありさに謝る。「道に迷っちゃったみたいです」

「……そう」

 虚空の空を見上げながら無感動にありさは呟く。もうすぐ時計の秒針は5時を指そうしていたが、ねっとりとした熱気があたりを包んでいる。

 暑い……。ありさは学生カバンからミネラルウォーターを取り出すと、一口含んだ。

「たぶん、こっちです」

 そう言うと良平はありさの右手を取り歩き始めた。

 今度はありさも驚かなかった。というのもここに至る道のりも良平に手を取られて来ていたからだ。

 良平のひどく分厚い手がありさの細い手を握る。その手は少し震えていた。

軽い感じを演出してはいるが、良平は内心焦っていた。

「ここのT字路を左に曲がって、と」

 良平が独り言を呟いていながら、ありさ右側を歩く。後ろから車の音が聞こえ、右手側を通り過ぎて行った。

 ありさはここがどこなのか、ぼんやりと考えていた。

 良平が言ってたT字路とはたぶん、あそこの事だろう。たぶん。それがもし確かなら左側に曲がってしばらく行くと左手にファミレスがあるはずだ。また、それからさらにしばらく歩くと、今度は右手側にケーキ屋があるはずだ。

 ありさは三カ月前の事を不意に思い出した。

 それは大輝とあかねとともにファミレスで駄弁っていた日のことだ。

 あの頃はまだ失明しておらず、もっと和気あいあいと言った感じだったはず。

 三人で何でもない事を話合ったり、声を出して笑い合ったり。思い出の中の風景はすごく綺麗だった。

 しかし、ああ、とありさは胸中の中で思った。

 なんて虚しい記憶だろう。あの頃の当たり前にあった景色が今は遠い。膜の向こう側にいるみたいだ。

 そんなことを思ってる隣で良平はひとり呟いた。

「あ、ケーキ屋がありますね。よかった、道を間違えてなくて」

 そう言って、良平はでっぷりとした腹を撫でる。

「ちょっとケーキ屋に寄り道しましょう」

 思いついたように良平はありさに言う。「なんかケーキ買ってから帰りましょう。おごりますよ」

「え?」

 ありさは困惑したような表情で右側を見た。

「せっかくですし、寄りましょうよ」

 良平は笑って言う。そして、ありさの返答を待たず、ケーキ屋に向かって歩き始めた。

 これはもう断れないな、と内心でありさはため息をついた。

 二人連れだって店の中に入る。冷房が利いてて、外と比べて店内は天国のようだった。

「大森さんはどのケーキが良いですか? えーと、ショートケーキにモンブラン――」

 良平は店内にあるケーキを一つ一つ言いながらありさの手を引いた。

 仕方がない。ありさは胸中で思う。

「じゃあ、ショートケーキを」

「了解です」と良平は笑い、店員に「そこのショートケーキを三つ下さい」と言った。

「え、三つ?」

 ありさはまた困惑しながら良平に尋ねる。

「どうして三つも?」

「これは大森さんのお父様とお母様の分ですよ」

「そう、なんだ……」

「金額の事なら心配ご無用ですよ。どうして僕の腹がせり出していると思うんですか」

 そして良平は朗らかに笑う。

「お待たせしました。ショートケーキ三つです」

「ありがとうございます」

 良平はお金を店員に言いつつ渡す。

 そしてそれを右手に持つと、再び左手でありさの右手を取った。

「さて、行きましょうか」

 店舗から出ると、むっとした気温が再び二人に襲いかかって来る。

「いやー、にしても今日はまた暑いですね」

「そうね」

「いいダイエットになりそうです」

 あははと良平は笑う。

 二人はありさの家に向かって再び歩き始めた。


書けないと言いつつ、今週も更新。我ながらいい感じ。

て言うか、週一更新でこんなに短くて申し訳ありません。

しかしこればっかりは僕の腕のなさに原因があるので、目をつぶって頂ければ幸いです。

来週も更新できるかどうか分かりません。

できる限り土曜日に更新したいと思います。


拙い作品ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。


感想・批評・拍手・拍手一言コメントお待ちしております。

それらを頂けるだけで栄養になります。どうぞよろしくお願いいたします。


それでは、来週も更新できるように祈りつつ、また皆さまとお会いできることを祈りつつ。

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