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第8話 ドワーフの街カミエン

「わあああああ!」


「うぉおおおおお!!」


 ユリとヘレナが歓声を上げる。


 カミエンの入口は街よりもかなり高い位置にあり、そこから街全体を見下ろすことができた。街全体が巨大な地下ドームの中に作られており、建物はすべて角ばった石で出来ている。街に陽の光は入ってこないが、その分、昼間は多くの火がところどころで焚かれており、街全体が十分に明るくなっていた。


「これはまたすごいですね。ドワーフの技術の結晶と言ったところでしょうか」


 スモークもこの街には過去に訪れたことがなかったようで、感銘を受けているようだった。


「ふむ、ドワーフの技術も侮れんな」


 魔王はそう言うと、一足先に階段を降りて行ってしまった。


「まずは宿を押さえるぞ。夜までまだ時間があるから、それからは好きなところを見て回るとしよう」


「はい!」


 ユリは魔王の自分たちへの気遣いを感じ、笑みが溢れた。




 四人は宿屋に荷物を置くと、早速街の中を歩き始めた。


 街中は多くのドワーフたちが行き交っている。スモークによると、ドワーフは客人をもてなすのが好きなものが多いそうで(エルフ以外)、人間の姿をした四人をチラチラと見る者がたくさんいたものの、嫌な思いをすることは一切なかった。気軽に挨拶をしてくれるドワーフもおり、珍しい人間の客人たちを歓迎しているようだった。


 ドワーフの一番の特徴は、何よりその長い髭だ。立派な口髭と顎髭を携えており、一人一人が特徴的な結び方をしている。それが職業や特技、年齢を示しているようで、なんと、それは男だけに限らないのだと言うから驚きだ。


「いやー、髭がある女性っていうのもなんかゾクゾクするね」


 なぜか興奮しているユリに対し、ヘレナは「そうか?」と冷たく答える。


「そうだよ。これこそ本格ファンタジーだよ」


「まーた変なこと言い出した…」


 ヘレナは謎に興奮しているユリについていけない、と言った感じで、軽くあしらった。


 街の中を歩いていると、様々な建物が目に入る。どれも建物全体が角ばったデザインになっているだけでなく、壁や扉の彫刻、それどころか広場に立っている石像まで、なるべく曲線を使わないデザインとなっていることに四人は気がついた。ドワーフの芸術性なのだろう。


 広場の中央には看板が立っており、各方面への案内が出ている。


「ブラスク鉱はあちらだと書かれていますね」


 ユリが読むのに難儀していたところ、スモークがさっと助け舟を出してくれた。


「ブラスクって、ここでしか採れないって言う綺麗な石だよね!行こ行こ!」


 宝石やアクセサリーには興味がないユリだったが、なぜか昔から綺麗な石に魅了された。遠足で博物館に行ったときは、持っていたお小遣いすべてを使い、綺麗な石の詰め合わせを買ってきたほどだった。


 ユリは案内板の指す方向に向かって小走りで進んでいく。三人はそれに続いた。




 そのまま案内に従っていくと、道を塞ぐように数人のドワーフたちが立っていた。こちらの姿に気がつくと声をかけてくる。


「すまんがここは通れないよ。この先で魔物が暴れているんだ」


「街の中に魔物ですか?」


 不思議そうな顔をするスモークに、申し訳なさそうな口調のドワーフが続ける。


「ああ、最近突然現れたかと思ったら、多くのドワーフが襲われてね。何人もの仲間が食われちまった。ブラスクを見たいなら大博物館にでも行きなさい」


「ならば私たちが退治しよう」


 いきなり魔王が口を開き、その場にいた全員の視線が魔王に注がれる。


「困っているのだろう?」


 ドワーフたちは魔王が背負っている大鎌を見て、何かひそひそと相談を始めた。でも女の子だしな、という声も聞こえてくる。


 その反応と優柔不断なところにイライラしたのか、魔王の口調が強くなってくる。


「どうなんだ。困っていないのか!?」


 まぁまぁ、となだめるユリ。そこにスモークが割って入ってきた。


「私は剣術に長けていますし、こちらの女性は攻撃魔法が使える。こちらの子はこう見えて優秀な薬師です。なーに、危なくなったら戻ってきますよ」


 その説明で納得したのか、ピリピリしている魔王の姿に恐れをなしたのか、ドワーフたちは道を開けてくれた。




 魔王を先頭にブラスクの採掘場を先に進んで行くと、壁には銀色に輝く鉱石がところどころに埋まっていた。


「あれがブラスクだよ」


 スモークが知っている限りの知識で説明し始める。


「とても軽くて、頑丈で、高価なんです。それだけじゃありません。魔力も秘めていると言われています。ブラスクで作られた武器や防具は旅人の憧れですね」


 ユリもヘレナも、今までに見たことがないそのキラキラと光る美しさに目を奪われた。ずっと見つめていても飽きない美しさ。二人は、自分たちの目もキラキラと輝かせながら、次々と現れるブラスクに目をやる。


 先に進むにつれ、ブラスクは壁や天井、床にまで多く散りばめられていることがわかった。


 しかしその時、先頭を歩いていた魔王がさっと腕を伸ばして全員の前進を止めた。


「蜘蛛の巣だ」


 ユリが先に目をやると、これ以上進めないようにと巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされていた。蜘蛛の糸の一本一本がとても太く、うっかり引っかかったら、身動き取れそうにない。


「蜘蛛の魔物にお知り合い、います?」


 魔王に小声で恐る恐る聞いてみる。


「蜘蛛の魔物はたくさんいるな。だがここまで巨大なのは数少ない」


 魔王は蜘蛛の巣の大きさから、本体の大きさを推測しているようだった。


 その時突然、スモークとヘレナを目掛けて蜘蛛の糸の塊が飛んできた。二人は一瞬にしてぐるぐる巻きにされると、その場で倒れ、身動き出来なくなってしまう。


 ユリは突然のことに何が起こったのか理解できず、その場で立ちすくんでいる。


 蜘蛛の巣でぐるぐる巻きにされた二人がゴロゴロと暴れまわりながらギャーギャー騒いでいると、奥から巨大な蜘蛛がゆっくりと姿を現した。


「魔王様にザトルーチ様ではありませんか」


 魔王は一歩前に踏み出す。


「こんなところで何をしている。シェローヴァ」

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