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第15話 夜のエルフ、クフィアット

 ヴォーダの滝の裏には洞窟があった。中は暗くてよく見えないが、かなり広い空間が広がっているようだった。


 ユリ、魔王、ヘレナは暗闇に目が慣れるまで時間を要したが、不思議とスモークはすぐに中の様子を確認出来たようだった。


「誰か奥の方で倒れていますね」


 さっと走り出すスモーク。暗闇の中、それに三人が続いた。


 スモークは倒れている人らしきものの側に膝をつく。


「エルフですね…まだ息があるようです」


 それを聞くとヘレナがさっと駆け寄り、すぐに怪我の状態を確認しようとする。体のあちこちを見ようとするも、明かりが不足していた。


「エルフの女だ。息が荒い…ユリ、魔王!明かりを頂戴!」


 二人は一旦洞窟を出て薪になりそうな木の枝を集めてくると、倒れていたエルフの近くで火を起こした。


 洞窟の中で倒れていたのは美しくて若いエルフの女性だった。初めてエルフを見るユリにとって、彼女が特別美しいのか、それともエルフ全員が美しいのか判断がつかなかったが、その真っ白な肌とくっきりとした目鼻立ちに、思わず見惚れてしまっていた。


 ヘレナはエルフが高熱を出していること、その原因が脚に刺さった毒矢の跡であることを突き止め、持っていた解毒剤、解熱剤、痛み止めの薬を手際よく使用した。


「これで大丈夫なはずだ。あとは目を覚ますのを待とう」




 四人は焚火の周りで武器の手入れをしたり、ヘレナの薬草の採取を手伝ったりして時間を潰した。


 外では朝日が昇り切った頃、エルフの顔色は随分と良くなり、その大きな目をゆっくりと開いた。


「あなたたちは?」


 透き通る声に誘われ、ヘレナはその顔を覗き込む。すぐにホッとした表情になった。


「良かった。目が覚めたか」


 ユリもすぐにエルフの側に駆け寄った。


「良かったぁ。この子はヘレナ。薬師で、あなたの治療をしたの。あ、私はユリ、あっちはスモークさんと魔王…じゃなくて、マオさん!」


 エルフはゆっくりと順番に視線を移し、最後に視線をヘレナへと戻す。


「ヘレナさん、助けていただいてありがとうございます。私はクフィアット。夜のエルフです」


 夜のエルフと言えば、まさにこの後向かう予定の集落に住んでいる種類のエルフだ。この世界には様々な種類のエルフが住んでいるらしく、特に夜のエルフは月や星々を信仰する種類…と、観光ガイドブックに書いてあったことをユリは思い出した。


「なぜこんなところで倒れていたんですか?」


 ユリの質問に、クフィアットは表情を変えることなく、穏やかな口調で答え出した。


「最近魔物の動きが活発なので、調査をするために一人で集落を出ていたのです。しかしゴブリンの群れを相手にしたとき、脚に毒矢を受けてしまい…なんとかこの洞窟に隠れることが出来たのですが、毒の影響で意識を失ってしまっていました」


 クフィアットの横には木で出来た弓と矢が数本落ちていた。これでゴブリンたちと戦ったのだろう。


「クフィアットさん、私たちは旅をしていて、この後ちょうどあなたの集落を訪れる予定だったのです」


 スモークが話しかける。


「家までお送りするついでと言ってはなんですが、集落まで案内していただけないでしょうか」


 クフィアットはしばらくじっとスモークの顔を見つめていたが、すぐにニコリと笑顔になる。


「ええ、もちろんです。まだ脚が痛むので少し時間が必要ですが、明日にはここを出発しましょう」




 こうして、旅のパーティーは五人となり、魔王一行は東を目指す。


 エルフは魔物と同様、自然治癒力が高いのか、脚の傷ももう見えなくなっていた。


 ユリとヘレナには新しい友達ができ、道中はたくさん話をした。これまで立ち寄った街の話や食べ物の話をすると、嬉しそうに聞いてくれるのが心地よかった。クフィアットはかなりの聞き上手だったのだ。


 また、クフィアットから聞いた話だと、夜のエルフは暗いところでも目がよく見えるだけでなく、遠くのものや動きが速いものもしっかりと補足することが可能なのだという。そのため、弓を使って魔物と戦う戦士たちが多くいると言う。


 魔王は三人の会話にほとんど参加しなかったが、クフィアットのことを警戒しているわけではなかった。ただ、なぜだかその視線は頻繁にユリに注がれていた。




 森を抜け、小川を渡り、丘を越えると、その先には広大な森が広がっていた。木の種類が違うのか、森全体が黒く見える。


「あれが私たちの集落、ラスノーチの入り口です」


 五人は森の入り口まで歩を進める。すると、そこには武装した二人のエルフの衛兵が立っていた。


「止まりなさい」


 突然槍で道を塞がれる。


「私たち、旅のものです」


 ユリの言葉にも、衛兵たちは無反応だ。


「そなたたちからは邪悪な力を感じる。森には入れん。すぐに引き返せ!」


 魔王とさりげなく目を合わせるユリ。


 まさか二人が魔族であることがバレているのだろうか?


 しかし、そこで前に出たのはクフィアットだった。


「お待ちください」


 途端に槍を納め、姿勢を正す衛兵たち。


「この方たちは倒れていた私を助けてくださいました。村でお礼をしなくてはなりません。お通しください」


「クフィアット様!ご無事でなによりです。し、しかし…」


 衛兵たちは、どうすればいいのかわからず、おろおろ狼狽えている。


「何かあれば私が責任を取りましょう」


 クフィアットがそう言うと諦めたのか、仕方ない、と言った面持ちで衛兵たちは道を開けた。


「どうぞ、お通りください」


「さぁ皆さん、行きましょう」


 クフィアットのおかげで無事に森に入ることが出来た一行は、そのまま森の奥へ奥へと進んで行く。まだ昼間だと言うのに、日光は生い茂る木々に遮られ、まるで夜のような暗さだった。


 ユリは先頭を歩くクフィアットに追いつき、気になっていたことを問いかける。


「ねぇ、クフィアット。あなたは集落の偉い人なの?」


 無邪気な質問にエルフは笑顔で答える。


「ふふ、私は偉くないです。私の父が集落の長なだけですよ」

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