スチュアートと不思議な本
こんにちは。初めての投稿作品です。主人公スチュアートが不思議な本を通じて異世界に導かれる冒険物語です。楽しんでいただければ嬉しいです!
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<img src="https://i.imgur.com/Dz8zGv.jpg" alt="Timeless Journey" style="max-width:100%;">
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スチュアート
スチュアート・マディソンは十四歳になったばかりで、カリフォルニア州バークレーのパノラミック・ストリートにある家に住んでいた。その家の窓からは、サンフランシスコ湾全体が一望できた。
十二歳のとき、彼の人生を大きく変える悲劇が起きた。その出来事は、今でも彼の心に深い傷を残している。七月一日、叔母のナンシーとレイク・タホでキャンプをしていたとき、両親が古びたヨットで出たサンフランシスコ湾のセーリング旅行から戻っていないという知らせが届いた。
その後、沿岸警備隊が事故の手がかりを懸命に捜索したが、今もなお、両親は「行方不明」とされている。それでもスチュアートは、いつか奇跡的に見つかるのではないかという希望を捨てきれずにいた。
神に感謝していることが一つある。それは、叔母ナンシーが母親にそっくりだったことだ。見た目だけでなく、話し方や考え方まで似ていた。彼にとって、彼女はまるで本当の母親のような存在だった。ナンシーは自分の子どもがいなかったこともあり、スチュアートを実の息子のように愛してくれていた。彼もその愛に心から応えていた。
両親の失踪から一週間後、ナンシーはウォールナットクリークからバークレーの家へと引っ越すことを決意した。それは、スチュアートが今まで通っていた学校にそのまま通い続けられるようにするためだった。彼女は、両親を失った上に引っ越しまで強いられるのは、少年にはあまりに大きな負担だと考えたのだ。彼女はコンコードの病院での仕事を辞め、古い友人マギーと一緒にアルカトラズ島で観光ガイドの職を新たに見つけた。
あの日、自分が両親と一緒に船に乗っていたらどうなっていただろう——スチュアートは何度も思い返した。もしかすると、あの日ナンシーと一緒にいたのは運命だったのかもしれない。彼が一番後悔しているのは、両親にきちんと「さようなら」と言えなかったことだった。
両親の失踪以来、スチュアートは心を閉ざし、学校の成績にも明らかな影響が出ていた。
彼が通っていたのは、家からたった1マイルの距離にある「ウィラード・ミドルスクール」だった。その学校がある通りの名前は、偶然にも「スチュアート・ストリート」だった。
十四歳にしては背が低く、黒くて縮れた髪を持ち、やせ細った足と緑の瞳が印象的だった。
彼はちょうど中学を卒業したところで、この夏の休暇を「特別なものにしよう」と心に決めていた。秋からは新しい学校が始まる。この夏こそ、思い出に残る夏にしたかった。
彼は時々、父と一緒に出かけたレイク・ベリエッサでの釣り旅行を思い出していた——早朝2時に目を覚まし、言葉も交わさずベーコンと卵を食べてから、古いフォード・ブロンコに釣り竿やテント、寝袋を積み込む「男だけの冒険」だった。彼が一番好きだったのは、仕掛けを静かにセットして、水面に浮かぶウキをじっと見つめているあの静かな時間だった。その時に父は、自分の若い頃の話をしてくれた——母の前では絶対に話さないようなことを。
父がもういないという事実を受け入れるまで、スチュアートには長い時間が必要だった。その後の一年間、彼はほとんど自室に閉じこもり、ウォークマンで音楽ばかり聴いて過ごした。
今、彼は地理の授業中だった。突然、背中にゴムバンドが当たって、ぼんやりした意識が現実に引き戻された。後ろの2列目に座っているメイソンから飛んできたものだった。メイソンは学校中でも最悪のいじめっ子だった。
「なあ、スチューーーピッド!おばちゃんと夏休みの予定でも立てたか?」
メイソンはクスクス笑いながら囁いた。
「お前のママもどきが、お前に豪華五つ星ホテルの部屋でも予約したんだってよ。岩の上のな!」
その笑い声は、豚の鳴き声とヒヨコの鳴き声が混ざったような音だった。
スチュアートは素早く先生の方を見たが、運悪く黒板に背を向けて何かを書いていた。
メイソンはクラスで一番背が高く、黒くて脂ぎった髪と丸い顔をしていた。彼は祖母と一緒に暮らしていて、母親はラスベガスのカジノで働いているという噂だった。
彼はその学年の初めに転校してきたが、運悪くスチュアートのクラスに空きが出てしまい、同じクラスになってしまった。メイソンは、自分より小柄な生徒をターゲットにすることが多く、スチュアートはまさに格好の標的だった。
スチュアートは時々、こんな光景を想像していた。——父親が学校の外で彼を迎えに来て、メイソンにきついお灸を据える。そしてメイソンは泣きながら謝り、家へと走り去っていく…。
幸い、先生が授業を再開し、メイソンのからかいは終わった。スチュアートはまた夏の計画に意識を戻した。今年は、何か特別なことをしたかった。彼は裏庭に滑り棒(消防士が滑り降りるようなやつ)を設置して、一気に庭へ出られるようにしたいと考えていた。
もちろん、その計画を実行するには叔母ナンシーの許可が必要だが、彼女は面白いことが好きだから、きっと賛成してくれると思った。今のところ、スチュアートはそのアイデアを紙に描いて準備していた。
「スチュアート君、彼らの出身地について説明できるかな?」
先生の声が突然教室に響いた。
ネイティブアメリカンについての話題だというのは分かっていたが、具体的な質問は聞き逃してしまった。聞こえなかったふりをするべきか、それとも勘で答えるか?彼は思い切って後者を選んだ。
「ナバホ族はアリゾナ州が出身地です。居留地もあります。」
「ナバホ族は確かにアリゾナ州の部族ですが、私が質問したのはミウォク族についてです、スチュアート君。」
「聞き間違えました。ミウォク族はカリフォルニア州に住んでいました。」と彼は慌てて言い足した。
「ミウォク族はどのように分類されるか分かる人はいるかな?」
先生がそう続けた瞬間、チャイムが鳴り響いた。最後の授業の終わりを告げるその音に、生徒たちは大喜びで立ち上がった。緑の黒板の上に貼られた「NATIVE AMERICANS IN THE USA(アメリカの先住民族)」という紙の下で、皆が時計を見つめていたのだ。
スチュアートは廊下に急がず出た。どうせ混み合っているのは分かっていたからだ。
教室を出た瞬間、エミリーが出口の方へ向かって歩いているのが見えた。
「ねぇ、エミリー!ちょっと待って!」
「やあ、スチュー!」
金髪の少女が振り返りながら答えた。
「ついに夏休みね!何か予定あるの?」
「それが、君に聞こうと思ってたんだ。何か一緒にできたらいいなって。アルカトラズを案内しようかって思っててさ。」
「アルカトラズ?」彼女は少し驚いた様子だった。
「実は、行ったことないの。私たち、こっちに引っ越してきてまだそんなに経ってないし。でも面白そう!お母さんが1か月間、イギリスのトゥルーロにいる祖母に会いに行く予定なんだけど、お父さんはその間仕事を休めるか分からないみたい。だから、もしかしたら私とお母さんとデイビッドだけで行くかも。でも7月はイギリス、8月には戻ってくる予定よ。そのときに連絡するね!」
「最高!戻ってきたらすぐに教えて。僕もいくつか夏のアイデアがあるんだ、まだ何も決まってないけど。」
エミリーは昼休みによく一緒に食事をするクラスメートだった。彼女は小柄で、鼻に二つのほくろがある可愛らしい子だった。最初は少し恥ずかしがり屋のように見えたけれど、実は優しくて、彼女のイギリス英語のアクセントがスチュアートにはとても魅力的だった。
彼女の家族は、イングランド西部から引っ越してきたばかりで、父親はフリーモントの大企業で主任技師として働いていると聞いていた。
家族はバークレーの中心地にある家を借りていた。
彼女とは友達になってまだ間もなかったので、互いのことを深く知るには至っていなかった。
別れの挨拶を交わして二人はそれぞれの道へと向かった。夏への期待を胸に。
スチュアートは、去年の誕生日にもらったピカピカのマングース製自転車のロックを外し、リュックを肩に掛けて走り出した。歩道にいた年下の子どもを危うく轢きそうになりながらも、彼の心は喜びに満ちていた。まるで通りを歩く人たちも、彼の興奮を共有しているかのようだった。
やがて最後の交差点にたどり着くと、彼は自転車を降りてハンドルを押しながら歩き始めた。自宅のある坂は、あまりにも急すぎて自転車では登れないのだ。
ついに自宅のフェンスに到着すると、自転車を家の横に置き、玄関から駆け込み、階段を二段飛ばしで上がって自分の部屋へと向かった。
彼は窓を勢いよく開け、光を部屋中に取り込んだ。外には太陽に照らされたサンフランシスコ湾、ベイブリッジ、そして壮大なゴールデンゲートブリッジが見えていた。
彼の部屋は、当時の典型的なティーンエイジャーの部屋だった。
ベッドの上には「スター・ウォーズ/ジェダイの帰還」「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」「E.T.」のポスターが貼られていた。
机にはルービックキューブ、ソニーのウォークマン、それにA-ha、クイーン、ユーリズミックスのカセットテープが整然と並んでいた。
ベッドのそばには、最近ナンシーにねだって買ってもらった溶岩ランプが置かれていた。
棚の上には、父親とフリーマーケットで買った南北戦争時代の木製の兵隊フィギュアが並んでいた。
お気に入りは、モヒカン刈りのネイティブ・アメリカンの戦士だった。彼はそれを右に左に動かし、南軍の兵士たちを一撃で倒す「戦いごっこ」をよくしていた。
スチュアートは窓際に座り、深呼吸をして、この夏をどう過ごすか考え始めた。
「今年こそ、時間を無駄にしないぞ」そう心に誓った。
両親と一緒にサンタクルーズに行って、波の上を滑るサーファーたちを見る自分を想像してみた。太陽の光が水面に反射し、きらきらと輝いている――そんな光景を夢見ながら。
太陽の光を十分に浴びた後、彼は窓辺から降りて、ベッドに仰向けになった。
天井のファンがゆっくりと回っているのを眺めていると、誰かが階段を上ってくる足音が聞こえた。
次いで、彼の部屋のドアが軽くノックされた。
ドアが開き、叔母のナンシーが部屋に入ってきた。
彼女は甥っ子の顔を見るなり、明るい笑顔を浮かべた。もちろん、スチュアートはもはや幼い子どもではなかったが、夏休みを迎えた喜びが彼の顔にはっきりと表れていた。
「スチュー、やっと学年を乗り越えたのね!骨折でもして、夏の半分をギプスで過ごすんじゃないかと心配してたわよ」
と彼女は冗談っぽく言った。
「それより……夏にお休み取れそう?」スチュアートは少し不安げに尋ねた。
「レイク・タホに連れてってくれるって、約束してたでしょ?」
「レイク・タホ?スチュー、1月にスキーで行ったばかりじゃない。でもね、今は無理そうなの。マギーがもうすぐ出産予定で、私が代わりにガイドできるのは私しかいないのよ。ボスも九月まで休暇は認めてくれそうにないの。」
「でも……でも、約束してたじゃん!」スチュアートは不満そうに顔をしかめた。
ナンシーは仕事に強い責任感を持っていた。彼女はかつてアメリカで最も危険な犯罪者たちが収容されていた「アルカトラズ島」で観光ガイドとして働いていた。
「でもね、こうしよう。明日まで待ってくれる?ピーターと相談してみる。なんとか1週間だけでも時間を作って、あなただけとの時間を過ごしたいのよ。」
「本当?ただの慰めじゃないよね?」
「本当よ、約束する。」
「やった!ナンシーって本当に最高!」とスチュアートは嬉しそうに叫んだ。
「そういえば、前に話してたアイデア、覚えてる?」
「もちろん、覚えてるわよ。で、どうなったの?」
ナンシーは知らないふりをして答えたが、実はもう全部知っていた。スチュアートに設計図を手伝った友人から聞いていたのだ。
「えーっと……もうちょっと秘密にしておこうかな。全部完成してから教えるよ。」
「いいわよ、約束ね?」
「約束!」
「本当に大きくなったわね……昨日まで私のあごまでしかなかったのに、今じゃほとんど私と同じ背の高さじゃない!」
「でも、ナンシーだって背が高いってわけじゃないでしょ?」彼はにやりと笑ってからかった。
「こらこら!あっ、そうだ、マギーと約束があって。今からちょっと買い出しに行ってくるわ。でも8時までには戻るから。」
「じゃあ、ローズヴェルト通りの本屋は?返却する本があるって言ってたじゃん。新しいのも借りたいんだよ!」
「そうだったわね!ごめん、今日は一人で行ってくれない?マギーとの約束、どうしても断りたくないの。」
「……わかったよ。じゃあ一人で行く。でも、8時にはちゃんと戻ってきてよ!『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』が8時からなんだから!」
「えっ、今日だったの?分かった、絶対戻ってくるわ。」
「冷蔵庫にラザニアが入ってるから、もしお腹が空いたらレンジで温めて食べてね。」
スチュアートはちょっとむくれたふりをしたが、実はナンシーの気遣いをちゃんと感謝していた。彼女が部屋を出たあと、彼は本棚から「子どもっぽすぎる」と感じた数冊を選び、キャンバストートに詰めた。そして赤いオークランド・アスレチックスのキャップをかぶって、外へ出た。
バークレーの午後は完璧だった。太陽は輝き、花の香りと刈りたての芝生の匂いが風に乗っていた。暑すぎず、心地よい風が湾から吹いていた。
スチュアートは自転車にまたがり、ローズヴェルト通りへ向かった。歩行者や駐車中の車を巧みに避けながらペダルをこいだ。彼が向かっている本屋「ドリームブックス」は、小さな古書店で、まるで過去の時代に取り残されたかのような外観をしていた。店主は長髪に丸眼鏡、いつも同じ茶色のコーデュロイのベストを着ていた。
彼が到着すると、自転車を壁際に立てかけ、扉を開けた。ベルがチリンと鳴り、古い紙と革の香りが彼を包んだ。
「やあ、スチュー」
店主は厚い本を読みながら顔を上げずに声をかけてきた。
「こんにちは、ケルズさん。これ、全部読んじゃったので、何か新しいのに交換しようと思って。」
その時、店にもう一人の老人が入ってきた。明らかにネイティブアメリカンの血を引いている風貌だった。年季の入った革のズボンと茶色のTシャツ、足元にはモカシン。そして手には分厚い本をしっかりと抱えていた。70歳はとっくに超えていそうだったが、その瞳には優しさと温かさがあった。
スチュアートは、彼がどの部族に属しているのか気になった。
店主は眼鏡の縁越しにその男をちらりと見たが、ちょうどそのとき、奥の部屋から電話のベルが鳴った。
「失礼」と言って、店主はカーテンの向こうへ消えていった。
老人はカウンターの上に本をそっと置き、スチュアートの方を向いた。
その本は、スチュアートの視線を一瞬で引きつけた。分厚い革で装丁されており、表紙には槍を掲げたネイティブの戦士の絵が金色で焼き付けられていた。明らかに古いが、とても保存状態がよく、力強い印象を与えた。絵の下には一語だけ——「SOLATE」 と記されていた。
「この本、君の目を引いたようだね?」
老人は不思議な口調でそう言った。
スチュアートは自分に話しかけられていると気づくのに数秒かかった。
「すごく……古そうですね」彼は小声で答えた。「でも、きっと面白い本なんでしょうね」
「残念ながら、もう私には必要ない。本来なら私が持っているべきものではないのさ。だから、君に貸してあげようと思ってね。」
「えっ、僕に?」スチュアートは驚いた。「でも……返さなくていいんですか?」
「貸すだけだよ、もちろん。でも、それより大事なのは——この本が何について書かれているか、君は知りたくないかね?」
スチュアートはうなずいた。
「だが、すべてを教えるわけにはいかない。ある本の秘密を最初から明かしてしまうと、その魔力も魅力も消えてしまうものさ——そう思わないかい、スチュアート君?」
スチュアートは凍りついた。
——今、なんて言った? どうして僕の名前を……?
「君のためにこの本をここに持ってきたのさ。だから、どうか受け取ってくれ。プレゼントだ。」
スチュアートはゆっくりと手を伸ばし、本を持ち上げた。想像よりもはるかに重かった。
「ただし、ひとつだけ約束してくれ」老人は続けた。「家に帰るまでは開いてはいけない。いいかい?」
「わかりました……」スチュアートは惹きこまれるように答えた。
老人は日に焼けた手を差し出し、もう一つの小さな革袋を渡した。
「それからこれも。中には鍵が入っている。これが開くのは……」
彼は途中で言葉を切った。
「まあ、ネタバレはやめておこう。中の説明を読めば分かるさ。」
そう言うと、彼はちらりと奥の部屋を見た。店主は今、電話で「トウェインの本は今は在庫がない」と話していた。
「誰にも、この本を誰からもらったかは言わないこと。そして、自分の命に代えても守ってほしい。悪い手に渡れば、我々の運命は……終わるかもしれない。」
スチュアートはまだ老人の言葉の意味を理解できなかったが、本をリュックに大切にしまった。
立ち上がると、店主が戻ってきており、スチュアートが持ってきた本をカウンター横の古いレジのそばに置いたところだった。
空の水槽の隣には、メモ帳を広げて何か書き込んでいる姿があった。
「ラッキーだな、坊や。今日が締切日だ。明日だったら延滞金を取るところだったよ」
スチュアートは何度か延滞金を払ったことがあったが、その額は微々たるもので、特に気にはしていなかった。
「ここにサインしてくれ。それで何か他に探してる本はあるか?」
スチュアートはサインし、礼を言って振り返った。しかし店内を見回すと、さっきの老人の姿がどこにもなかった。
——いつの間に……? ベルも鳴らなかったのに。
スチュアートは固まった。まるで幻でも見たかのようだった。
でも今は、とにかく家に帰って本を開いてみたい——その一心だった。
彼は急いで自転車にまたがり、パノラミック・ドライブへと向かった。
——とにかく早く帰って、この本を開きたい。彼の頭の中はそのことでいっぱいだった。
家に着くと、今回は自転車を家の中に持ち込み、キッチンに置いた。そしてそのまま階段を駆け上がり、自分の部屋へ飛び込んだ。
ベッドの上にどさっと座り、リュックから本を取り出した。
まずは表紙を改めて観察する。
——分厚く、ざらついた革の感触。金色に輝く「SOLATE」の文字は、塗装ではなく金属でできており、重厚な存在感を放っていた。
裏表紙をめくると、右上に階段のような奇妙な模様が刻まれていた。それ以外には何もない。
そして、いよいよそっとページを開く。
最初のページには、城壁に囲まれた大きな都市の絵が描かれていた。横には小川が流れ、壁全体はつる草に覆われていた。
その下には、海を航行する船の絵。よく見ると、輪郭は少し不自然で、島のようにも見える。
さらにその隣には、二つの陸地を赤い線がつないでいる地図があった。
——そのときだった。スチュアートはふと、地理の授業で見たカリフォルニア湾の地図を思い出した。
これは「船」ではなく、アルカトラズ島そのもの。そして赤い線は、ゴールデンゲート・ブリッジ!
彼はすぐにポーチを開き、中を確認した。
中には、金色に輝く古びたコインが3枚と、布に包まれた金属製の部品が入っていた。
その金属部品は、片側に動く留め具がついた不思議な形をしていた。
コインの片面には「S」の文字、もう一方にはピラミッドの絵。文字は読めない古代文字のようだった。
ちょうど次のページを開こうとしたとき——玄関のインターホンが鳴った。
スチュアートは顔を上げた。今日は家に一人だ。窓から覗くと、玄関の前には二人の男の足が見えた。
「……あいつ、家にいると思うか?」
「さあな。チャイム、もう一回押してみろよ。」
「誰もいないみたいだな。裏庭の方、見てこい。」
彼がもう一人の男を見たとき、彼らは黒い軍用ブーツを履き、黒い帽子をかぶっていた。
スチュアートは彼らの会話の中で、「ドリームブックス」という単語を聞いた気がした。心臓がどくん、と跳ねた。
彼は直感的に——追われていると悟った。
幸い、昨日ナンシーに言われて、裏口には鍵をかけてあった。
だが彼は、見つかる前に逃げるべきだと判断した。
叔母の部屋の窓から屋根に出よう。
彼は小さな窓をすり抜け、慎重に屋根の上へ登った。
屋根の表面は夏の太陽で熱されて、タールシングルがねばついていた。
そこから道路を見ると、家の前には暗緑色のジープ・ワゴニアが停まっていた。
じっと身を伏せて、彼は彼らが立ち去るのを待った。
ついに二人が車に乗り込むのを見届け、ジープが通りを下っていくのを確認すると、彼はベランダへと静かに戻った。
彼は部屋に入り、本と金属の鍵、コイン3枚をリュックに詰め、静かに階段を下りていった。
そして急いで、叔母へのメモを書いた。
ナンシーへ
家に変な人たちが来たから、外に出ました。マギーさんの家で待ってます。
誰かに見られてるかもしれないから、電話しないで!
会ってから話すよ。
彼はカーテン越しに外を確認し、そっとドアを開けた。
外へ出たとき、心臓はバクバクと音を立て、手のひらは汗でびっしょりだった。
——こんなに怖いのは人生で初めてだった。
彼は急いで自転車に乗り、バークレーの反対側にあるマギーの家を目指した。
途中、人々の姿はいつも通りだったが、彼の心はまったく落ち着かなかった。
背中のリュックには、まだほとんど読んでいないあの本が入っている。
一体、そこには何が書かれているのか?
「すみません、今何時ですか?」と彼は通りすがりの老人に聞いた。
「もうすぐ七時だよ、坊や」と返ってきた。
あともう少し——彼はそう思いながらペダルを強くこいだ。
マギーの家に着いた。
**「クレイジーな犬に注意」**という札のある門を開け(ナンシー曰く、マギーは犬が大の苦手で、これは冗談だった)、庭のベンチへ向かった。
そこからは、通りがよく見える——絶好の隠れ場所だった。
スチュアートは本を取り出し、次のページを開いた。
そこには、やや薄れた太文字で、こう書かれていた。
少年へ
君は今、この本を手にして、なぜ自分が選ばれたのか疑問に思っていることだろう。
だが、これは偶然ではない。私はこの日を長く待っていた。
スチュアートは最後のページまで読み終えると、静かに本を閉じた。
あまりにも奇妙で、信じられない話ばかりだった——なのに、なぜか「作り話」には思えなかった。
もし、あの時空の裂け目が本当にあるとしたら?
アルカトラズの地下に入口があって……
違う場所、違う時間へ行けるとしたら……?
彼はベンチにもたれかかり、葉の揺れる音に耳を傾けながら、空を見上げた。
頭の中では、次から次へと考えが浮かんでは消えた。
あれは罠かもしれない。
奴らが戻ってくるかもしれない。
本当に、この鍵は使えるのか?
彼はもう一度、革の表紙に触れた。
浮き彫りのネイティブ戦士が、まるで「先へ進め」と語りかけているように見えた。
深く息を吐いた。
どんなに信じがたくても、彼にはもう分かっていた。
スチュアートの人生は、もう二度と元には戻らない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
スチュアートの冒険はまだ始まったばかりです。
次回もお楽しみに!