シュールな場面がそぐわない - 3
【前回までのあらすじ】
アンの立会、異界を見て呆然とする一同
その後何度か田中にコンタクトをとってみたのだが毎回無視されてしまう。
あからさまに避けている。
せめてその理由を聞かせてくれと頼んだところ、もううんざりだと一言返された。
どういうことなのか。
仕方がない、少し間を開けてから再度話しかけてみるか。
他の研究員たちからは他の人間でもいいのではないか、という声が上がっている。
妥当な意見だが俺には目的があり現状それは伏せておきたい。
利己的な使用はNGだろうからな。
特にアンが知ったら何を言ってくるかわからない。
干渉術への反感を鑑みれば私利私欲の利用など認めはしない。
少なくともこのプロジェクトを一時的に稼働停止させるくらいの動きはとるだろう。
再開できるなら問題はないが凍結でもされたらこれまでの努力が報われない。
彼らの意見にはこう返した。
異界の被験者を増やすごとに我々の認知も広がり、何かしらのリスクになりかねない。
一旦様子を見て最初に話しかけた人物へ再度コンタクトをとる、という方針を伝えた。
幸い彼は騒ぎ立てる様子もない、その点は不可解だがこちらとしても都合がいいということも付け加えた。
実際そこが一番の疑問であり問題点でもあるのだが。
まずは状況を整理だ。
あいつの言葉をもとにまとめると、どうやら過去にも異界との接点があるようだ。
慣れているなら動揺が少ないのもうなずける。
しかしそのせいで非協力的なのは困ったものだ。
それに異界からのコンタクトに慣れているということは俺以外からの接触があったということだ。
この異界をつなぐ技術は比較的新しいものでありまだ技術的に未熟な点が少なくない。
しかも異界人とのコミュニケーションとなれば干渉術のような方法も必要となる。
まさか構成要素が完全一致するような異界があるなら直接行けるかもしれないが。
さらに数多ある異界の中から田中という個人を何度も対象としていることは不可解でしかない。
他の誰か、もしくは組織があいつに関与している?
なんのために。
例えば、記憶の主にまつわる何かだろうか。
そうだ、異界と田中と俺をつなぐものはこの記憶の主くらいだ。
だから俺を避けているのか。
まさかこの記憶の中に気づかれると困ることが含まれているとか?
何者かにとって困る情報。
その正体に迫る可能性がある。
それが困る、と?
となると記憶を植え付けた存在、そしてその記憶つまり情報を持つことを面白く主ない存在がいるということになる。
対立する存在がいる。
この記憶の主はそのことに関わることで殺された。
いやいや、状況整理から飛躍してきたな。
突拍子もないことを考えすぎた。
陰謀論なんて好きではないのに。
やれやれ、疲れているな。
不審な背景については追々考えるとして一旦現状の打開策に集中しよう。
どうせ田中に聞けばわかることだ。
打開策といってもどうしたものか。
あいつは話すことを拒んでいる。
拒んでいる理由を聞くことはまず状況の進展につながるだろう。
ならそれをどうやって聞き出すか、となれば安心させる必要がある。
脅しては逆効果だ。
まずは謝罪からだな。
状況を知らないこと、そして可能なら状況を教えてほしい旨を伝えよう。
よし、これなら今後の関係性をこじらせる可能性も低いはずだ。
翌日、研究員たちにそのことを伝え術を使い田中へ再度コンタクトを行うことになった。
しかしここで問題が起きた。
干渉術を発動すると原因不明のエラーが発生し術の起動が出来なくなることが相次いだ。
原因については目下確認中だがどうにも特定が難しい。
いったい何が起きている。
どうやら田中との接触を阻害する存在がいることは間違いない。
問題はそれだけではなかった。
その後アンがいないことを確認し、エラーを無視して強制発動に踏み切った。
暴発すればかなり危険であり、このあたり一帯が消えて無くなる。
冷や冷やしたものの起動は叶った。
しかし干渉術で田中と会話する肝心な場面において術の操作が不安定になったのだ。
不安定なまま接触すればあいつを不安にさせるだけだ。
結局会話は出来なかった。
この件に関しても原因はまだ特定できていない。
それからしばらく同じことが続いた。
やれやれ、まさかあからさまな妨害を受けるとはな。
こうなってくると意地でも完遂してやろうという気になってくる。
どれだけ妨害されようとも俺を止められはしない。
必ず真相を聞き出してやる。
必ずだ。
次回「シュールな場面がそぐわない - 4」