いい奴ではあるのだが - 3
【前回までのあらすじ】
名案を思いつくが忠告通り静観を決める
投影術完成後のことだ。
エイゼット君は今回かなり危うげなことをしていたのだが。
この、バカエイゼット。
時間魔法を組み込んだゲートが膨れている。
まずいぞ。
暴発する予兆が出ている。
くそ、どうする、ゲートの暴発を抑えつけるような力は干渉術にはないぞ。
落ち着け、一旦ゲート閉じて考えるか。
どうすれば爆発を抑えられる。
爆発、つまりエネルギーだ。
それが周囲に広がり接触することで破壊につながる。
ならそのエネルギーを逃がせばいい。
召喚術でエネルギーを別の場所へ移動させる。
だがどこにどうやって移すか。
ここに召喚はできない。
俺が死ぬ。
そうだ、転送術なら可能だ。
いやしかし。
うーん、召喚術以上にまだ発展途上の術であることを除外しても、ゲートの向こうの異界の中でゲートを開いて別の場所へ送る。
出来るか?そんなこと。
だめだな、違う方向で検討しないと。
そもそも暴発の原因は何だ?
理論からして怪しい作りだったが、そういえば時間軸の設定方法が使用者のイメージした所とか言っていたか。
あの学者、正気か?
これはどこに問題があってもおかしくない。
ああ、もうイライラする。
いっそ俺が向こうに行けたら解決できるというかそもそもあんなことにはならん。
どうする。
まったく、エイゼットめ。
君に関わると俺まで迷い癖がついてしまう。
魔力の暴走を止める方法。
エネルギーの相殺。
ゲートの強制停止?
起点である魔法を消去する?
時間はある。
解決策を練るか。
本来そこまでする必要はないが、だがあいつには愛着がある。
どこかの学者がこの問題を解決できるような課題に取り組んでいるかもしれない。
はあ、あまり行きたくはないが所長に相談してみるか。
なんて言おう。
エネルギーの、えーっと、エネルギーを召喚術で転移させる方法を研究したい、とか?
いやしかし、しかし先日、現世界を対象とした召喚ゲート技術の応用による長距離移動の実現に向けて取り組みたい、と言ったばかりだ。
家からここまで来るのが面倒だからぜひ開発したい。
これを取り下げるのは嫌だし、どうするか。
うん?長距離移動か。
これって対象にするのがエネルギーか人間かの違いでしかないわけだよな。
召喚術だから当然か。
そのあたりうまいこと言って誤魔化せば今のままのテーマでいけるか。
おおそうだ、現世界でゲートの開閉時に失敗したら大変だからエネルギーの移相研究をしている人の協力を仰ぎ安全な運用方法を模索したい。
これだ。
これならアン所長も納得だろう。
よしよし、待ってろよエイゼット君。
俺が必ず助けてやるからな。
あ、そうだ。
どうせさっきの場面より前にアクセスし直すだろうし、暴発するところ見ておくか。
暴発なんてなかなか目撃することはないからな。
なんせよく見える所にいたら一緒に吹っ飛んでしまう。
かわいそうだが、なーに、しばらくしたら助けてやるさ。
ゲート開放っと。
おや?収束していく。
なぜだ。
ゲートも安定しているな。
ありえん。
誰かが対応したのか?
しかし何かしらの方法でエネルギーをあの場から消すことは出来ても、あれほど不安定な状態となったゲートを安定させるなんて芸当が可能だろうか。
出来たなら世紀の大発明だぞ。
それがあれば召喚術の安全性は確保されたも同然だ。
転移術を個人利用できる装置作ったけど、これだって実は安全性を欠く部分があるわけだし。
というかそもそもあんな莫大なエネルギーを収束させて安定させるなんて並のことじゃないぞ。
それが出来るならほとんどの魔法は殺傷能力を失う。
事故率の低減が可能なら魔法をもっと広く、一般的に使用出来るようにだってなるかもしれないじゃないか。
そうだ、いっそ魔法の無効化を研究するのもいいかもしれない。
そうなれば魔法は脅威ではなくなる。
ってさっき俺が思いついたのってそういうことになるのか。
さすがに無茶な考えだな。
だがいい課題だ。
魔法の発展のため、やってみるか。
よし、未練はあるが長距離移動はまたの機会にするか。
どのみち長距離移動時のリスクとしてゲートの不安定さは問題視されるからやりたいことから逸れていない。
さて何から取り組むか。
いやいやそうではなくて、ゲートだゲート。
自然に収まったということはない。
だとするなら人為的に改善されたのだろう。
それが誰なのか。
あの場にいた人間ではないだろう。
こんなことが可能ならそもそもわけのわからん時間魔法を使うこと自体ないし、事前に対策されているはずだ。
それがまともな人間なら。
考えられる候補としてはあの先生と呼ばれていた少年。
もしくは未来の俺か。
未来の俺、つまりどの時間軸かわからない別の自分も見ている。
それは1人ではない。
もし別時間軸の俺が見ているというのであれば今まさに俺とそいつが見ているのだから。
おそらく他にもいるだろう。
過去の一点に対し未来という面で見ているのだ。
複数どころではないな。
俺なら事態の収束に向け何度も実験を行う。
もしかしたら複数人が同時に行なっている可能性もある。
だから暴発したのか?
ゲートを安定させた人物の候補、これは区別のつかない複数の人間が対象になるから特定することは難しい。
というより誰がやってもおかしくはないからほぼ全員が候補となる。
未来のどの時点でその技術を作れたか知れればいいが、まだ未来へのアクセスは実現できていない。
あの子供も含め不特定多数の人間が該当するわけだし。
だったら誰が、ではなくどうやったかを考える方がいいな。
その技術があれば転移術の研究が進む。
ま、とりあえず無事に済んだことだし今はそれを喜ぼう。
そういえばエイゼット君は何を見たがってるんだ?
一緒に見ておくか。
へえ、前世ね。
そういえばそんな記憶、俺にもあったな。
どうでもいいからすっかり忘れていた。
それにあの田中という人間を知っている。
ということは俺とエイゼット君は同じ記憶を持っているのかもしれない。
同じ名前、世界観も一緒、前世という根源が同じ。
つまるところ、俺と彼は同一人物である可能性があるのか。
異界というより、これは何というべきか。
同じ時間軸で交わらない横並びの世界。
同じ素体で別条件が与えられている。
まるで実験だな。
もしや俺たちは何かの実験場にいるのか?
モルモットってことか。
見ているつもりが見られていたと。
謎の存在がいる。
気に入らんな。
もしそうならぶち壊してやろう。
これは魔法だ。
ならさっき考えた魔法の無効化に取り組めばいい。
こいつが何者か知らんが、俺が思い通りになるなんて甘い考えだということをわからせてやるさ。
他にも同様の俺がいるのだろうか。
そいつらと協力するか。
いや、誰が味方になるのかわからない。
俺の中に共犯者、むしろ主犯がいる可能性もある。
仕方がない、面倒だが自分で何とかしてみるか。
もしかしてゲートの収束はこの謎の存在がやったのか?
そんな相手に果たして太刀打ち出来るだろうか。
未知の技術に対抗するにはどうすればいい。
そもそも対抗出来ているという指標になりそうなものも今のところない。
謎の存在の存在自体怪しいし。
全て想像の域を出ない。
しかし懸念した通り俺が被験者であるなら敵対することはリスクの高いことだ。
どうするか。
ま、やらなければわからんなら出来ることをやるしかあるまい。
対魔法の魔法。
面白いテーマだし、この手の魔法は所長が気に入りそうだから止められることもない。
今後は仲良くやれそうだ。
聞いた話では、ある研究職員のせいであの人も苦労が絶えないという。
たまには喜ばせてやるのもいいだろう。
そうなればこっそりやりたい実験をしていても目をつぶってくれるかもしれん。
見つかった時の言い訳は、文句言われるならもう研究所に貢献してやらない、いやこれはもう使ったか。
あの時の彼女はとても怖かったな。
別のフレーズを考えておこう。
ああ、そうか。
エイゼット君はいつもこんな気持ちを抱えていたのかもな。
常に何者かに見張られ干渉されているという疑念を抱き続ける。
何者かとは俺のことだが。
メンタルに特別問題は無いと判断したが案外そうではなかったのか。
悪いことをしたな。
今後はエイゼット同士助け合っていこう。
同じ、か。
まさか俺も干渉されている?
そんな記憶はない。
自分の意に反するようなことは何もやっていないはずだ。
思うままに生きるのが俺のモットー。
いや、エイゼット君に対する感情は度を越しているとも考えられる。
彼を助けるよう動かされている?
これは気になるからいずれ解明しなくてはならん。
いいさ。
見ているといい。
そしてこの俺が手に負えなくなる時が来ないことを大人しく祈るといいさ。
次回「Aのお話し - 1」




