世界の落差が半端ない - 2
【前回までのあらすじ】
アンを救う方法を見つけ、そして狂気の実験が幕を開ける
被検体を用意し別の人間へ知覚を移す実験を開始。
別の人格を別人に植え付ける実験を行うことにした。
さすがに都度変わる被検体と同じ人間を探し続けるのは手間だからな。
偶発的な成功はあったがどうにも解明できない。
それに精神もかなり不安定になる。
なぜだろうか。
もっと検証する必要がありそうだ。
そうだ、なるべくアンに近い属性の人間がいいか。
何とか安定してきた。
課題になっていた情緒の安定化もクリアした。
経過も悪くなく日常生活をおくれるようになった。
まあ、この実験を世間に広められるわけにはいかないので結局彼女らにはどこかの異界へ行ってもらったが。
さて、ある程度成功率が高まってきたしそろそろ本命に取り掛かるとするか。
ゲート開通、召喚術および干渉術の起動を確認、待機状態にセット。
タイミングが悪いと地面に激突してしまうから気を付けないとな。
久しぶりだからミスしてしまうかもしれない。
さてさてうまくいくかな。
奇跡と言いたくなる。
一回で成功するとは。
ついてるな。
そしてついにアンが目覚めた。
しかし控えめに言っても錯乱している。
とりあえず鏡で自分の姿を見せてあげると少しずつ冷静さが戻っていった。
今は混乱しているがじき落ち着くだろう。
ああ、この時をどれだけ待ち望んだか。
これからが楽しみだ。
「ここはどこ?私はたしか研究所にいて、その窓から」
「アン、安心したまえ。ここは安全な場所だ」
「あなた、誰ですか?いえ、あなたエイゼット?随分老けて見えるけど」
「そうエイゼットだ。君はあの研究所の窓から飛び降りたが奇跡的に生きていたんだ。ただ意識がなかなか戻らなくてね。ついに目が覚めたというわけさ。実に素晴らしね」
「うそでしょ、あの高さから落ちて無事なわけない。それに私はあなたと違って歳をとっていないように見える。本当は何をしたの?答えて」
目が覚めたばかりでよく頭が回る。
さすがというべきか。
他の奴みたいに大人しくしてくれればよかったが、彼女はそんな人間ではなかったな。
どうしたものか。
正直に答えれば非難してくるのは目に見えているが、しかし騙してもこの様子だとすぐに気づかれるか。
仕方がない。
いいさ。
だめなら次を用意すればいい。
そうだ、それでいい。
「わかった。君が考えた通り嘘を言った。ただそれはショックを受けさせないようにするためだ。召喚術で君をこちらに連れてきたのだ」
「召喚術、なるほどね。そうか、私からすればここは未来なのね」
「ははは、本当によく頭が回るね。目が覚めたばかりとは思えない」
「それは、未来へのアクセス方法に関してあなたがよく話していたから。あの頃は過去と未来を視野に召喚術の研究をしていたじゃない」
「未来へのアクセス?」
そんな話しをしただろうか。
記憶にないが、もしかしたら話したのかもな。
「覚えてないのね。あなたにとっては随分前のことだし。どちらでも構わないけど。それで、未来に連れて来て私を救ったつもりなのかしら」
「ああ、もちろんだ」
「ということは、この世界には干渉される脅威がなくなったの?」
「残念ながらそれはまだだ」
「そう。それで救ったとはね。私たちが目指していた転移術の対策は進んでいないのか。それだけの時間を費やして一体何をしていたのよ」
「待て。転移術の対策、か。どうもさっきから記憶にないことばかり言うね。何か、俺を試しているのかい?」
「本当に覚えてないの?記憶力はいい方だと思ってたけど」
「ああ、記憶力に自信がある。だから君の話しがおかしいと言っているんだ」
「共有している事実、互いの記憶に差が生まれる理由。別の時間軸。いや、そうか」
「何をぶつぶつと」
なんだ?この違和感。
「ねえ教えて。あなたが召喚術でアクセスできるのが何かを」
「何って、異界や過去だろう」
「それだけ?他には?」
「何が言いたいんだ」
「やっぱり。世界の分岐に気づいていないのね。あなたと私の世界線は異なっているってことよ。あなたが欲したアンは私じゃない」
次回「世界の落差が半端ない - 3」




