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俺、走りたまえよ - 2

【前回までのあらすじ】

アンの身に起こったこと、その上で下す決断は

「アン、君が言っていることは理解しているよ。君の恐怖についてもよくわかった。だとすればだ、なおのことこの術を研究する必要があるだろう?さっきも言ったが対策を練るにはよく知る必要があるんだ。君だってわかっているからこの研究所に来たんだろう。でも、そうだな。君の力になりたい。まずは不安を取り除くことから始めよう。新しい術の開発は一旦止める。どうかな?」

「ええ、そうしてほしい」

「よし。じゃあ次だ。今後どうすればいい?どうしたい?」

「どうしたいか。そうね、その術を無効化できるようにしたい」

「わかった。じゃあ一緒にその研究をしよう」

「ありがとう。ねえ、エイゼット」

「なんだい?」

「エイゼットの技術で過去に干渉はできるの?現時点の技術で」


 これは答えたくはないが仕方がない。

嘘をついて後で知られた場合を考えるとここは素直に話した方がいいだろう。

「可能だよ」

「そう」


 なんだ?

てっきりまた責め立ててくるのかと思ったのだが何も言わずに考え込んでいる。

何を考えている。

「アン、何が気になるんだ?この技術はまだチームに展開していないから問題ない。まだ未完成だし、まずは彼らが自ら思考して自分なりの答えにたどり着いてほしいから課題として過去と未来へのアクセス方法を模索させている。それでチームの進捗に併せてこの技術を展開していこうと考えていた。だからまだ問題ない」

「問題ないとは言い切れないけど、そうじゃないの。過去に干渉できるなら転移術の根本を抹消すればいい。そう思ったのよ」


 アンらしいとはいえ中々過激なことを言うな。

それは発案者を殺すってことになるかもしれない。

何よりもし成功するなら歴史を変えることになる。

万一ではあるが俺たちだって無事では済まない可能性もある。

そのあたりを考えていたのだろうが危険だ。

「アン、それは危険だ」

「わかってる。でも、もうこれしかないの」

「落ち着いて考えよう。過去を変えるんだぞ。どんな影響が出るかわからない」

「影響が出るなら是非そうしたい。それで世界が救われるならどんなことだってしてみせる」


 思っていた以上に追い詰められているようだ。

以前から顔色がよくはなかったが今はどう見ても青ざめている。

まあ俺がその要因の1つでもあったのだが。

とはいえ最近の彼女は研究所でも噂になるほど明らかに挙動不審な様子が見られていた。

仕方がない、俺にとって優先すべきは、彼女だ。

やれやれ、何を言ってもきっと考えは変わらないだろうな。


「協力するとは言ったがさすがにそこまでは」

「エイゼット。過去に干渉して未来を変えようとして、もしも何も起きなかったら。私はそれが一番怖ろしい」

「そうなれば現状を変えようがないからね。未来に目を向けるしかない」

「そうね。未来。未来に期待なんて」


 彼女は顔を伏せてそれきり何も言わなかった。

過去を変えても今が変わらないかもしれない。

そう。

なぜならこれから起こることは未来の俺たちが試しているからだ。

手を出した過去と未来の間にあるこの時間軸は当然その影響下にあるのだから、だからすでにアンの不安は解消されているはずだ。

今こうしてこんな話自体していない。

どうなるかわかっている。

でも確かめずにはいられない。

この目で確かめなければ、それを直視しなければ受け入れることができないこともある。

それは研究者としてのサガともいえるのかもしれない。

それでも彼女はやると言った。

思った通り考えを改めてはくれないか。


 ああ、昔父さんが言っていたな。

大切な人が出来たら何よりも優先しろって。

母さんのことをずっと想っている人だからな。

父さんは俺の憧れだ、あの人のようになりたい。

いま優先すべきは何か、俺がたどりたい道を行くにはどうすればいいか。


「いいよ。やろう。過去に干渉して転移術がこの世界からなくなるようにしよう」

「お願い」

「ああ、一緒にやろう。だがやるなら徹底的にやる。転移術だけではなくこの世界から魔法そのものを消す」

「それは別の結果にならない?」

「魔法がある限り誰かがいずれ同じところに行きつくさ」

「そう。じゃあどうするの?」

「魔法の始祖が初めてその力を使った時に干渉する。魔法という概念が生まれないように」

「なるほどね。でもそれは、いえ、そうね。やりましょう。今回のテーマは過去への干渉により未来である現在に影響が出るか否か」


 心なしか表情が和らいでいるように見える。

明確な目的が出来たことか、もしかしたらというかすかな希望に気持ちが寄ったか。

この数年ずっと一緒に研究をしてきた。

最近今更ながら気づいたが俺にとって彼女は大切な人だ。

研究を諦めたくはないが安心させてあげたい。

例えこの世界のルールを書き換えることになったとしても。

というのはさすがにかっこつけすぎか。


 さて、魔法の始祖か。

「認識合わせをしよう。対象が誰かもちろん知っているよな?」

「ええ。干渉対象は魔王ね」

「そう、魔王だ」

次回「俺、走りたまえよ - 3」

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