初恋からの卒業
通りかがった雲が、まるでいたずらするように町を濡らしていく。
3月。
山の上には、まだ雪が残っている。
もう二度と歩くことのない学校までの道。
3つ目の交差点。
両親の離婚が決まって、もうすぐここを去る。
17年間過ごした小さな町の高校は、保育園からずっと一緒の同級生が多くいた。
ハルカは、父が運転席で待つ車の後部座席に乗った。
「お父さん、ごめん。学校に寄って。」
「どうした?」
父は車を走らせた。
大きな交差点にくると、学校の薄い黄色の壁が見えてくる。
学校の階段を上ると、少し前まで自分が過ごしていた教室が見えた。なんだかとても重く感じるドアを開け、グランドを眺めていた自分を思い浮かべなから、窓際の席まで、机と机の間を歩いていく。
自分の机は、やっぱり空っぽだった。
少しだけ残る思い出を吸い込むと、遥は教室を後にした。玄関にある、まだ自分の名前のついている下駄箱が、最後の挨拶をしているようだった。
遥は吸い寄せられるように何も入っていないはずの下駄箱を開けた。上靴がない淋しそうな下駄箱の中には、薄い緑色の便箋が置かれていた。
名前も何もない便箋を手に取ると、しっかりのり付けされて開かないようになっている。
誰のだろう、これ。
新しい家に着き、カバンの中に入れてきた封筒を出した。
カッターで、丁寧に手紙の封を切ると、中から封筒と同じ薄い緑色の便箋が出てきた。
さみしくなったら、ラインしろよ。
手紙の下には、自分で書いたデタラメのQRコードがあった。
これ…、
手紙の相手はカナタだとわかった。
カナタは小学2年の時、突然この町に転校してきて、ハルカの隣りの席になった。
「渋谷さん、少しの間、藤原くんに教科書を見せてあげて。」
担任の先生がそう言うので、ハルカはカナタに教科書を見せるために、授業が始まると机をくっつけた。
ハルカの教科書にデタラメのQRコードを書いたカナタは、
「これで、俺と繋がるから。」
そう言って笑った。
ハルカはその手紙に書かれたQRコードが、好きだという文字を塗りつぶしたものである事に気がついた。
あいつ、本当にバカなの…。
ハルカは手紙を見て泣いていた。