運命に出会う〜七瀬視点〜
私は姫宮七瀬高校2年生です。
成績優秀、容姿端麗……とまでは言えないけれど、学年でも上から数えたほうが少し早いくらいには成績が良く、美人と言うよりは可愛いと言われることの方が多い少しだけ幼い見た目をしています。
この見た目のせいで県の中ではそこそこ有名な高校の制服をちゃんと着ているのに中学生に間違えられることも多くて困ってしまいます。
でもそれはある種の副作用でもあり、仕方のない事なんです……だって、何を隠そう私は魔法少女なんですから……
ヒーローさん達はコスチュームに着替えることでコスチュームが体の動きをサポートしてくれるので、15歳を超えていれば、40歳を過ぎてもしっかり現役ヒーローとして活動ができます……実際にはその前に引退する人が多いみたいですけど……
ヒーローさん達は長く働ける代わりに、コスチュームに着替えないと戦闘活動できなかったり、魔法みたいな特別な力を使えないというデメリットを抱えています……最近ではコンパクトに持ち運べる機械もあるみたいで着替える時間が少し減ったとよろこんでました。
私たち魔法少女は幼少期という限られた時期に契約をすることで、変身さえすれば魔法を使ったりして活動することができます。
ヒーローさんとは違って、いつでもどこでも駆けつけて変身して魔法の力で困っている人を助けられる……とてもやりがいがあるお仕事です。
ただ、純潔で無くてはいけない事と、25歳までしか魔法少女として活動できないこと、そして、身体的な成長が一般的な人と比べると少し遅くなってしまうことがちょっと困る事かもしれません。
と、そんな事は置いておいて、魔法少女の私は週末になるといろんな人達に迷惑をかけている悪の組織から街のみんなを守るために戦ってます。
悪い人達と戦って退散させた後には、みんなから感謝も沢山されますし、悪の組織にどんな酷い目にあわされたのかという話も沢山聞かせてくれます……
でも悪い人たちの話を聞くたびに私は思うのです。きっと悪の組織の人達もほんとに悪い事をしたくてしてる訳じゃないんだろうって。
もしどうしても悪さをしなきゃいけない理由があるのだとしたら、私は魔法少女の力を使ってそんな悪の組織にいる人達も助けてあげたいなって思ってます。
私は恋というものをまだ知らない。だからきっとこのままずっと恋を知らなければあと9年は魔法少女として活動できる。あと9年しかないのか、あと9年もあるのか、考え方だと思うけど、私はあと9年、みんなに胸を張って困っている人を助けたいと思います。
そんな事を考えながら通学路をゆっくりと歩いていると、後ろから1年生達が私をどんどん追い抜いていきます。
1年生が急いでいるのはきっと初めての期末テストだからでしょう……進級がかかった大事なテストですから、遅刻をしないようにと急いで学校に向かっているみたいです。
大事なテストなんだったらこんな時間ぎりぎりではなくて、もう少し早く家を出ればいいのにと思ったりもしますが、後輩達が焦って学校へと走っている姿はなんだか可愛らしいなとも思ってしまいます。
ほんとに困っていてもテストの時間に間に合うようにと魔法を使ってあげる事はできませんが、心の中で『頑張れ!』って応援だけしながら私も学校に向かいます。
そうそう、うちの高校は学年ごとにテストの開始時間が違っている変な高校なのです。
だから走っている後輩達を暖かく見守っている人たちは2年生か3年生ですかね、私と比べるととても大人に見えるので、正直パッと見て2年生か3年生の違いは分かりません。
ーーーザワ……ーーー
「え?…………もしかして事故!?」
魔法少女は契約すると感が鋭くなるのか、事故や事件が起こる前兆のようなものを感じることができるようになります。
「助けないと……でも何処で……」
私は周囲を見渡しても事故が起こりそうな場所を見つける事はできませんでした。
プップーーーー!!!
ーーーーガッシャン!!!ーーー
やがて私の耳にはどこか遠くで車に何かが当たった音が聞こえてきたのでした。
「……あんなに早く予兆がわかっても事故が防げないなんて……」
私がちゃんと気づいていれば、怪我をしなくて済む人がいたのだと思うと胸が痛みます。
「早く事故の現場に行かないと……誰か怪我をして困っているかもしれない……」
私はネガティブな気持ちをグッと閉じ込めて、音がした方向に向かって歩き始めました……
すると、なんということでしょう……家の屋根を飛び越すようにして男の子が空からこちらに向かって飛んできていました。
「え?……あんな勢いで……う、嘘ですよね……」
私は最悪の事態を想像しました。私が魔法で飛ばしたりすることもある悪の組織の人達なら兎も角、普通の学生があんな勢いで飛ばされて、地面にぶつかって無事で済むわけがないとわかっているからです。
なんとか地面にぶつかる前に助けてあげようと走り出しますが、距離が距離なだけに私は間に合いませんでした。
何度も何度も地面を弾みながらこちらに転がってくる男の子の体を見て私は目を瞑ってしまい、その足は走ることを止めてしまいました。
「私……最悪だ……みんなを助けるって誓ったのに……」
目を閉じながら、予兆を感じたのに防げず、間に合わなかったと勝手に諦めて……自分が嫌いになってしまいそうです……
「あぁ……これは死んだ…………死んだ……よな?…………こんだけ吹き飛んだんだ、そら死ぬわ……でもなんか体に痛みも全然感じない……ってことは生きてるのか〜……でも車に跳ねられてんだぜ俺……じゃあやっぱり死んでるのか〜」
ぎゅっと目を瞑った私のすぐそばから男の子の声が聞こえてきました。
自分で自分の事を死んだとか生きてるとか不謹慎な事を漫才みたいなトーンで話すその声に誘われて私は瞑った瞳をそっと開けました。
するとそこにはガッチリとした大きな体に似合わない優しそうな顔をした男の子が傷一つない状態で横たわっていました。
「えぇっと……その……大丈夫ですか?」
「え……あぁ、そうですね大丈夫そうです……ハイ……体の痛みは全然ないですね……」
まさに奇跡でした。
私はまだ諦めなくていいのだと、自分を嫌いにならなくてもいいのだと彼に言われているような気がして気持ちがすこし軽くなりました。
「ふふふっ……ヒーローに吹き飛ばされる悪の組織の下っ端さんみたいに飛んできたのに痛くないわけないじゃないですか……クスクス」
無傷の彼をみて安心した私はつい魔法少女やヒーローさんしか知らないであろう視点で冗談を言ってしまいました。
「悪の組織の下っ端って……あぁ!」
「あ、ダメですよ急に動いたら!とりあえず救急車を呼びますからね?」
「きゅ、救急車は大丈夫です!ほんとに!俺、体は頑丈なんで!!」
「ダメですよ!ちゃんと救急車来るまでは一緒にいてあげますから、大人しくしていてくださいね」
彼の驚いたような声に私は魔法少女としての自分をバラしてしまったかもと失言にヒヤリとしてつい彼を押しとどめてしまいましたが、彼はどちらかと言うと救急車に抵抗があるみたいでした。
病院が嫌いなのでしょうか……それともなにか事情があるのでしょうか……分かりませんが、とにかく一度検査は受けてもらった方がいいだろうと彼をこの場に押しとどめます。
「ちょっと!俺マジで大丈夫ですから!解放してください!!」
「ほんとに大丈夫なら、まずはこっちをちゃんと向いたらどうなんですか?」
私は大丈夫だと言い張り、立ちあがろうとする彼を落ち着かせるためにまずはこちらを向くように説得します。
「か……可愛い……」
「ふふっ……お礼よりも先にそんな事言われると思いませんでした」
「あ……あの、すいません……助けてくれてありがとうございます……」
「良いんですよ、怪我をした人がいたら助けるのは当たり前ですから」
急に可愛いと言われてびっくりしましたが、なんとか動揺を隠そうと、自分は魔法少女なんだぞと心の中で自分に言い聞かせて乗り切ります。
「…………いい子かよ……ってかこの制服……」
「ええ……あなたと同じ東高校の2年生ですよ」
「歳上……だったんですね……」
「という事はあなたは1年生だったんですね、体もおっきいので歳上かと思ってました」
私を出会ってから今まで散々動揺させてきた彼は、意外にも後輩くんだったのです。
体つきといい、私への対応といい、とても後輩だとは思えませんでした。
救急車のサイレンも聴こえてきたので、彼もそろそろ観念して病院に向かってくれる事でしょう。
学校には私から事故にあった1年生がいると報告しておくつもりです。彼もテストの事は心配でしょうから、再テストはちゃんと受けられると伝えてあげればきっと安心でしょう。
まずは学校に報告するためにも彼の名前くらいは聞いておかないといけませんね……
「先輩、お名前を聞いてもいいですか?」
「姫宮 七瀬と言います……あなた
「七瀬さんとお呼びしても?」」
私が彼の名前を聞こうと思っていたように、彼も私の名前を聞いてくれたのですが、私が名前を聞こうとしたタイミングで彼から私の呼び方について聞かれてしまいました。
名前で呼ばれる事は今までほとんどありませんでしたが、親しい人にしか呼ばれたくないなんて気持ちはないので名前を呼ばれても特に気になりませんでした。
それよりも彼の名前を聞かないと学校に報告ができないので今度こそはと気合を入れて聞き直すことにします。
「え?……ああ、そうですね……それは構いませんがあなたのお名前「七瀬さん、一目惚れしました!」」
「えぇ!?」
私は突然の告白とも取れる言葉にどのように反応すればいいのか分からず頭が真っ白になってしまいました。
「ではいずれ学校で!!」
彼は突然の出来事に思考が停止している私を置いてさっさと学校の方に走り出してしまいました。
「えっ、あっ……はぃ……」
魔法少女は純潔で無くてはいけません。
今までは頭は冷静に、冷ややかにテレビで流れているラブストーリーや友達が話す恋心というものを見てきました。
今までは心臓もメトロノームのように一定に、何事にも動揺することなく機械的にリズムを刻んできました。
しかし、今日彼に関わってから心臓は熱を帯び始め、今まで刻んだことのないリズムで熱を体に送り出しました。
この熱が何なのか、何になるのかをまだ少女はまだ知らない。