晒される素顔
〜九条視点〜
「さっきの攻撃と違って次は仕留めます!!『マジカルスター!』」
「そんなわかりきった攻撃に当たってあげるほどお人好しじゃないわよ!」
『マジカルななみん』こと、姫宮ちゃんは私に向かって素早く、威力も乗った魔法を再び放ってきた。
……まさか姫宮ちゃんが魔法少女だったなんてね、やりずらいったらないわよ全く……
あの時倉庫の存在がバレなかったのは運が良かったわね……
「当たらない……けど!これなら!『シャイニングスター!』」
「……まだまだ!こんな攻撃でやられてあげるわけにはいかないのよ!!」
まったく……感傷に浸ってる場合じゃないわ……姫宮ちゃんの魔法で少し仮面にヒビが入っちゃったけど、まだギリギリ大丈夫……でも、できるならこっちの正体がバレる前になんとか行動不能にさせたいわね……
2人とも紙一重で攻撃を交わしながら戦闘を繰り広げ、戦闘開始からすでに3時間は経過していた。膨大な魔力をもつ七瀬ですら魔力の底が見えてきており、九条も刹那と一緒に用意してきた武器の残弾数が尽きかけてきている。
「ふぅ……落ち着くのよ私……無駄に魔法を放ち続けてもきっと当たらない……しっかりと狙って一撃で決める!」
「うふふ、魔法少女自慢の魔力も空っぽって訳?だったらさっさと堕ちちゃいなさい!!」
お願いだからさっさと撤退してくれないかしら……刹那ちゃんの様子を見に行かないといけないし……いつ応援が来てもおかしくないわね……何より姫宮ちゃんが知り合いってだけで戦いづらいのよね!
九条は七瀬の魔力切れが近いことを察し、追い込めば一時撤退も視野に入れるだろうと残弾を使い切るつもりで攻撃を仕掛けにいく。
「…………まだ……まだ、、、この攻撃を避けて……大きな一撃の隙を狙って……」
「ちょこまかと逃げるしか出来ないならさっさと撤退して後ろに引っ込んでなさいな!!」
「きゃっ……」
九条の集中砲火はついに七瀬の体に当たり、僅かではあるが傷をつけその体制を崩した。
九条はすかさず事前に弾を装填していた対ヒーロー用のランチャーを構える。
この状況、刹那ちゃんが見てたらきっと怒るんでしょうね……でも、私は悪の組織の幹部だから、敵対するものに情けはかけない!この一撃で堕として………………
もし打ち堕としたら……
魔法少女だから急所に当たってもきっと死にはしないだろう……けど、流石に大怪我はする……場合によっては一生の傷になるかもしれない……
それはもしかしたら2人の関係性に修復不可能な亀裂を生んでしまうかもしれない……
姫宮ちゃんは怪我をした理由を隠していても、いつか刹那ちゃんにはバレるだろう。もしかしたら姫宮ちゃんは刹那ちゃんを信じて魔法少女だと打ち明けるかも知れない。
その時に姫宮ちゃんに傷をつけたのが私だとわかれば、その武器を作ったのが刹那ちゃん自身だということにすぐに気づいてしまうだろう……
魔法少女とは知らなかったとは言え、作戦目標である長時間の戦闘を達成した私がそれでもここで姫宮ちゃんを撃ち落とすことに意味はあるのだろうか……
九条は七瀬にランチャーの標準を合わせたものの、最後の最後に引き金を引くことを躊躇ってしまった。
そして、その躊躇った一瞬は幸か不幸か七瀬にとっての千載一遇のチャンスとなる。
「協会の中で頑張ってるみんなのためにも私は負けられない!『マジカルスター!!』」
「まずっ!!」
九条はトドメの一撃をためらった隙を突かれてしまい、全身に高威力の魔力の一撃を受けてしまう……
「まったく……戦闘中に相手のことを心配するなんて幹部失格も良いところね……」
まったく……なんでこうもうまく行かないのかしらね……ごめんね刹那ちゃん……
九条は自分の詰めの甘さが自分だけではなく、刹那にも迷惑をかけることになってしまったと心の中で詫びた。
私の数少ない表の世界の知り合いで、刹那ちゃんの想い人。
姫宮ちゃんは気づいていないだけで刹那ちゃんのことがきっと好きなんだろう。
私もそんな青春の日々を過ごす2人を遠めに見ているのはけっこう好きだったんだけどな……
九条の仮面は七瀬の一撃が見事に当たって砕け散ってしまった……この煙が晴れてしまえば九条の正体は明らかになってしまうだろう。
それはつまり、今まで通りの日常にはもう戻ることが出来ないということでもある。
九条は応援として警察達が集まり始めたのを確認し、撤退の算段を立て始める
「ふぅ、だいぶ危機的な状況ではあるのだけど……せめて刹那ちゃんは無関係だってことにはしておかないとね……それに、下っ端も警察達に囲まれちゃってるし……助けに行かないといけないわね……」
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〜七瀬視点〜
私の狙い澄ました一撃はしっかりと相手を撃ち抜いた。この一撃を受ければひとまず撤退くらいはしてくれるだろう……それだけの手応えのある一撃を入れられたことに少しだけ安堵する。
やがて煙が晴れていき、その向こう側に現れた幹部の素顔を見て私は驚愕した。
「な、なんで……だって貴女は……嘘だと言ってよ!ねぇ!九条さん!」
「うふふ、私がこんなことをしているのが意外に見えるかしら姫宮ちゃん?……嘘か本当のことかと言われれば、本当のことで、なんでだと聞かれれば、私が悪の組織の幹部で、組織に忠誠を誓っていて、この世界を変えたいと願っているから……としか言いようがないのだけれど」
「でも!!そしたら神影くんは!」
私は九条さんが神影くんと一緒にいるところを何度も何度も見ている。
2人が私から離れて内緒話をすれば胸がキュッとなり、2人きりで真剣に、時には笑顔で話しているところを見かければズキッと心が痛んでいた……
私が神影くんと知り合う前から2人は知り合いで、バイトの先輩後輩だと言っていた……治安の良くない倉庫外でも一緒にいるのを見ている……つまり、悪の組織の幹部が九条さんであるなら、一緒にいた神影くんも悪の組織の関係者ということになってしまう……でもそんなの信じたくない!
七瀬の頭は決して悪いわけでは無い。幾度も魔法少女としてさまざまな事情がある相手と戦い、問題を解決してきたのだから、心がどれほど考えたく無いと叫んでいても経験則を踏まえて自ずと頭は答えを導き出してしまう。
しかし、七瀬は導き出されたその答えを信じたく無かった。刹那は本当に一般人で、九条に騙されているのか……
悪の組織とは関係ないところで知り合った関係なのか……
七瀬の頭と心はそれぞれ別の答えを主張しあい、何をどう整理すれば良いのかわからなくなっていた。
「ふふ……魔法少女は恋をしてはいけないなんて聞いたこともあるけれど、思ったより刹那ちゃんに執着しているみたいね……青春ってやつかしら?」
「う、うるさい!九条さんには関係ないでしょう!!」
「関係……ねぇ……まあ、そうかもしれないし、そうでないかもしれないし……うふふ……でもまあ、時間をかけすぎちゃったわね……ここでいくら刹那ちゃんは無関係だといっても悪の組織の幹部の言葉なんて信用もなにもないだろうし……警察が湧いてきちゃったみたいだから今日この辺りで引き上げてあげるわ」
「ま、待ってください!!」
「待たないわよ……続きはまた今度にしましょう。別に私はこうした場じゃなくても構わないから」
「っ!……そんな訳には……」
九条の暗にプライベートな場で会って話しても構わないという発言を受けて咄嗟に拒絶の言葉が出てしまう。
いまだに悪の組織の重要なポジションにある幹部を捕まえたことがないヒーロー達にとっては幹部を捕まえるのは悲願と言っても良い。そして刹那経由で九条を呼び出せるのはその悲願を達成する千載一遇のチャンスとも言える。
七瀬の頭は勝手にそんな構図を描き始め、心はその後ろめたい行いを否定する。
「まあ、そうよね……刹那ちゃんに隠し事をしてるのはなにも私だけじゃないものね。刹那ちゃんを使って私を呼び出して組織の幹部として捕まえたりすれば自ずと貴女の正体も彼に知られることになる。そんなことをすれば優しい刹那ちゃんは姫宮ちゃんの活動のことを1番に考えて……貴女から離れていくんじゃないかしら?」
「そ、それは……」
「じゃあ、お先に失礼するわね、姫宮ちゃん」
「あっ……ま……まっ……て……」
こうして膠着していた協会上空での戦闘は九条の撤退により、七瀬の勝利という形で幕を閉じたが、七瀬の心には受け止めきれないもやもやとした気持ちが重くのしかかっていたのであった。




