ここで勝つのは俺である必要はないのかもしれない
〜刹那視点〜
「イィ!(くらえ!!)」
「そんなチンケな攻撃当たらんぞ!」
何度かレシピマンに銃を打ち込むが先ほどと違って全く当たる気配がない。
先ほど油断しないと気合を入れたレシピマンは全方向に気を配り、下っ端1人の動きすら見逃さないというほどの集中力を発揮している。
素人の俺ですらこれが隙がないという状態と言うのだと理解できるほどだ。
「イィ……(全く……あそこで仕留め損なったのが痛すぎるな……)」
「さあ行くぞ!名も知らぬ下っ端!!」
レシピマンは声高らかに俺に向かって宣言して突撃してくる。
悪の組織の下っ端相手にすら、不意を突くような事はせず、油断せず、驕らず、正々堂々と向かってくるその姿は正にみんなの憧れるヒーローそのものだ。
正直俺だって昔はヒーローに憧れてた……今の俺は悪の組織の下っ端だが、何か一つでも違えば俺だってそっち側に居たかもしれない……だけど現実はそうじゃない。
「イィ!?(くそ!速い!!)」
俺がリロードをしようとした一瞬の隙をついて接近されてしまったため、俺はリロードできていない銃を手放し拳を握りしめる。
相手はヒーロー、本来なら殴りあいにもならない……でも、エネルギーが切れかけて本調子でないとすればもしかしたら……でも元々のコスチュームの性能差を考えると……
「イィ!!(いや!今はごちゃごちゃ考えてる暇はない!俺もとにかく集中だ!!)」
俺は全力を込めてレシピマンに向かって拳を振り抜いた。
俺とレシピマンの拳は交差し、お互いの顔面を撃ち抜き合う。
ーーゴッ!!ーー
「っ……まだまだ!!」
「イィ……(ぐぅ……一撃が重い……)」
ーーゴッ!ゴッ!!ガッ!!ーー
「イィ!(くそ!効いてないのか!?)」
「っ!こちらからもいくぞ!」
ーードン!!ーー
レシピマンは一切避ける動作をせずに俺の拳を喰らっているが全く怯まない。
一方でレシピマンから打ち込まれる拳は俺に多大なダメージを与えてくる。
何度も何度も拳をレシピマンに当てているのだがなぜか一向に効いている気配がない。
手応えを掴めないないままどれくらい殴り合っていたのだろうか……1時間なのか10分にも満たないのか、ダメージの蓄積によって時間の感覚すら無くなってきていた。
「イィ……(このままじゃまずいな……足が震えてきて踏ん張りが効かなくなってきた……)」
「名も知らぬ下っ端!よくここまで俺の攻撃を耐えれたものだ!しかし、これで終わりだ!!くらえ!タコススマッシュ!」
「イィ!(ぐぁーーーー!!)」
レシピマンは残りわずかなエネルギーを使い、斜め下から輝く拳を大きく振り上げてきた。
大きなモーションの技だったが、俺にはすでに躱せるだけの力も残っておらず、せめて直撃を避けようと腕で防いだのだが、体ごと大きく吹き飛ばされてしまった。
「ほう!俺の必殺技を喰らってまだ意識があるとは見上げた根性だ!しかし!守るべきものを持たない貴様ではヒーローを挫く事はできんのだ!覚悟の差、想いの力を思い知ったか!!」
「イィ……(くそっ……)」
仰向けになって倒れている俺に向かってレシピマンは覚悟の差だとかなんだとか言ってくる。たしかに、絶対に負けられないという覚悟の差と言われればその通りだろう。
ヒーローは1人で何人もの下っ端を倒し、幹部と戦う。街の人を守るため絶対に負けられない戦いにたった1人で挑んでくる。
一方俺たち下っ端は負けて当たり前……後ろに幹部もいるし、勝つのは下っ端個人でなくていい。少し怪我をしたり、痛い目に遭えば撤退しても誰にも咎められることなんてない。
そんな意識の差があれば勝敗なんて考えるまでもなく明らかだろう。
「イィ!!(下っ端じゃヒーローに勝てない。そんなのわかってるさ!でも……俺だって簡単には負けられないんだよ!)」
俺は震える膝を手で抑えつけながらゆっくりと立ち上がろうとする。
「む?俺の必殺技を喰らって意識を保つだけでなく起きあがろうとしてくるとは……見上げた根性だ!だがそんな体で何ができる!!大怪我をする前にさっさと諦めて確保されるんだな!」
「……イィ!(……凛花さんが上で1人で頑張ってる!……足蹴達は1番捕まるリスクの高い場所に行ってくれている!確かにここで俺がお前を倒し切る必要はないのかも知れない!俺が勝つ必要はないのかも知れない!!それでも!俺だけがここで、こんなところでさっさと諦めて、全部を投げ出すわけにはいかねぇんだ!!)」
こんな俺に期待してくれた凛花さんと俺を信じて協会の奥に向かった足蹴や直参メンバーを思い出し気持ちを奮い立たせ、ぼんやりする意識を覚醒させながら立ち上がる。
「イィ!(そうだ……俺だってみんなの為にも……まだ負けられねぇんだよ!)」
「気迫は十分といったところか……すまないが次は意識を断ち切らせて貰うぞ!」