曇りのち晴れ
〜刹那視点〜
七瀬さんを途中まで送り、家に帰った俺は手に入れた戦果【七瀬さんの連絡先】が入ったスマホのホーム画面を開いては閉じてを繰り返している。
「今度連絡してもいいですかって言ってたよな」
【今度】という言葉の尺度は人によるだろう。
明日かもしれないし、一生来ないかも知れない……
俺はクラスの女子が男子に遊びに誘われて「また今度ね〜」と思わせぶりに断っていたのに裏では「一生行くわけないじゃん(笑)」と言っていたのを目撃している。
それはつまり女子との会話は京都弁のようにそのままの意味で言葉を捉えてはいけないと言うことでもあるのだ。
七瀬さんのまた今度の連絡が一生来なければ俺は泣いてしまうかも知れない……
とは言え交換した矢先に俺から何度もしつこく連絡するのはキモイだろうか……キモイよなぁ……
結果として、俺は連絡したいのに連絡できず、連絡が来たらいいなと願いながらホーム画面を開き、やっぱり来ていないとがっかりしながら消してを繰り返しているのだ。
ーーーピコンーーー
「っ!!!」
飛びつくようにスマホの画面を開く
『○○ショッピングセンター 明日はキッチンカー大集合!』
「あーーーー!!!!!」
俺はどうにかなってしまいそうな情緒を落ち着けるために風呂に入ることにした。
結論から言えば夜の間に俺の端末に七瀬さんからの通知が届くことは無かった。
「こんな気分になるなら俺から連絡を入れるべきだったか?……いや、そもそもこの時間に連絡を入れるのは非常識だったわ……」
おれは目の下に隈を作りながら3時頃までまでうんうんと悩みながら相手が寝てる時間に連絡を入れるのは人としてNGだと気づいて気絶するように眠るのだった。
――――――――――――――――――――――――――
ーーーピコンーーー
ーーピコン、ピコンーー
「っは!?」
俺は端末の通知音で目が覚める。
睡眠時間は3時間と少し。
自然に閉じていく瞼を懸命に持ち上げながらスマホの画面を開くとそこには……
『おはようございます御影くん』
『昨日は送ってくださってありがとうございました!』
『今日学校で会えるのを楽しみにしています』
「ぐはっ!!!!」
俺の全身にはヒーローの必殺技を受けた時以上の衝撃が駆け巡った。
「おはようございます」に「会えるのを楽しみにしています」だと……ならば今日何があっても、どれだけ眠たくても学校にたどり着かなければ!!
寝不足だと悲鳴をあげる体に喝をいれ、俺は朝食から着替えから全てを爆速でこなしていく。
時刻は7:00まだ自転車無しでも走れば学校にたどり着ける!……全ての準備を10分もかけずに終わらせた俺は靴を履き、学校に向かおうとする……
「はっ!!へ、へへへ、返信!!!」
俺は七瀬さんに返事を返していないことを思い出し、急いでポケットから端末を取り出す。
「えっと、まずは……『おはようございます』っと……これだけだと良く無いよな……あとなんか送らないと……」
流石に丁寧になメッセージをくれた相手におはようございますだけで終わるのは失礼だ。
ここは……溢れんばかりの俺の気持ちを伝えるべきか?いや、あくまで挨拶の一環として軽く『そうですね、学校で会いましょう』とかで終わるべきか?
…………悩ましい…………
ーーーピピピピピーーー
「やべぇ!学校いかねぇと遅刻する!!」
俺はアラームの音と共に思考を全て投げ捨てて七瀬さんにメッセージを送り、学校へと走り出した。
『そうですね!』
『俺も大好きな七瀬さんに会えるのすごく楽しみにしてます!!』
「ぐぉー……朝から何送ってんだ俺ぇ〜」
学校にたどり着いてから俺はメッセージを見返して深い後悔と羞恥心に苛まれることとなったのは言うまでも無い。
――――――――――――――――――――――――――
〜七瀬視点〜
「ど、ど、どうしましょう……」
自宅に帰って友人達からのメッセージを返そうと思い画面を開くと目に入る御影刹那の文字。それは七瀬にとってクラスメイトの男子たちとは違い、自分の意思で手に入れた初めての男子の連絡先だった。
改めてだが、姫宮七瀬という少女は容姿端麗、成績優秀、そして魔法少女をしていることからわかるようにまっすぐで真面目な性格をしている。
そんな七瀬は両親からお礼をする時には気を付けなさいと言われてきたことがある……それはお世話になったら必ず3回はお礼をするというものだ。
それは「直接その場で」「後日電話やメールで」「次にあ直接会った時に」の3回である。
七瀬は刹那の連絡先を手に入れ、家の近くまで送ってもらった……これについてはその時に直接一度お礼を言っている。
そして先ほどまでは、刹那ともう少しだけ仲良くなるきっかけを作ろうとメッセージを送ろうと思っていた。
しかし改めて今メッセージで感謝を伝えると後日ではなくなってしまう。
七瀬は両親からの教えを守りたいという気持ちと早くメッセージを送りたいという気持ちの矛盾から身動きが取れなくなっていた。
「うーん…………お礼を言わずにメッセージを送れば……でもそうすると恩知らずとか礼儀知らずと思われてしまうでしょうか……それはちょっと……」
七瀬は次の日の学校の準備をテキパキと終わらせ、ベットに横になってうんうんと悩んでいた。
「あと2時間ちょっとで日付が変わるからそこでお礼と一緒にメッセージを送れば!……って、流石に非常識な時間ですよね……」
まさにこの時間、刹那はメッセージが来ることを心の底から楽しみにしており、未だに連絡が来ないとヤキモキしていたことを七瀬は知らない。
「うーん……あ、そうだ!明日の朝に連絡することにしましょう!そうしましょう!!」
七瀬は両親の教えを守り、自分の早く連絡したい気持ちも満たすために早めに眠ることにした。
翌朝いつも以上に早く起きてしまった七瀬は、まだ朝練をする生徒ですら登校していない時間に学校にたどり着いてしまっていた。
「誰もいない校舎、廊下、教室……なんだかとても寂しいですね……」
だからだろうか、七瀬は気がつけば教室の席につき、スマホを取り出してメッセージを入力、送信していく。
『おはようございます御影くん』
『昨日は送ってくださってありがとうございました!』
『今日学校で会えるのを楽しみにしています』
特に考えず、素直な気持ちで送信したメッセージは刹那に早く会いたいと言っている。
ーーピロンーー
ーーピロン、ピロンーー
「……っ!!」
最初のメッセージから少し時間を置いて返ってきたメッセージを読むと顔は一気に熱を帯び、先ほどまで感じていた1人の寂しさは気がつけば何処かに行ってしまった。
いま七瀬が感じているこの気持ちに名前をつけるとしたら何になるのだろう……七瀬は自身のこの気持ちがどこからやってきているのかをまだ知らない。