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第8話 パーティ結成



 冒険者ギルドの主な役割は町周辺の魔物の討伐、商人や貴族、周辺地域の住民からの依頼を斡旋、冒険者への公平な利益分配、冒険者の職業としてのブランド維持など多岐にわたる。ギルドは本来自衛手段を持たない町や村を保護するために王都が設立したもので、それに商業的な要素が加えられて今のギルドは形作られている。

 アイリスは冒険者というわけではないが、実力はあるので特別に依頼を受けることができている。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

聖暦500年 7月1日


 アイリスは目が覚めると見知らぬ天井がまず目に入った。そしてひどい頭痛が目覚まし代わりに襲ってくる。昨日は乾杯したあとしばらく世間話をして、それからフラメールと飲み比べをして、負けた。次は馬鹿にしてきたワルファンと飲み比べをして、勝った。そこまでは記憶に残っている。しかしその後の記憶が完全に消し飛んでいた。


「起きましたか」


 声のする方を見るとフラメールが隣のベッドの上で着替えをしていた。どうやらここは宿らしい。宿まで意識を保てていた自信がないので、誰かに運んでもらったことになる。そしてその最有力候補が今、目の前にいる。アイリスは飛び上がって土下座した。


「すいませんでした……!!かんっっっぜんに酔っ払ってました……!!」


 フラメールはアイリスの土下座を一瞥すると、何も言わずに着替えを続ける。


「……あの、私飲み比べをした後の記憶がなくて、何か粗相をしでかしていませんでしたか……?」


 フラメールはアイリスのほうは見ずに淡々と返答した。


「いえ、特に何もしていませんよ。勝って調子に乗ってそのまま他の冒険者と飲み比べをして吐いて怒ったエリカさんの拳骨を喰らって泡吹いて気絶しただけです」


 聴くに耐えない醜態である。


「それで、フラメール様がわざわざここまで運んで頂いたと……」


「はい」


「本当にすいません……」


「反省しているのならいいです。ですがあとでエリカさんには謝ったほうがいいと思います」


「うん、もちろん謝るよ……」


「では、早く準備をしてください。ギルドに行きますよ。もう依頼が貼り出されている頃です」


「ギルド?依頼なら明日から受け付けようと思ってたんだけど」


「何を言っているのですか?依頼は受け付けるものじゃなくて引き受けるものですよ」


「あーえっと、私はそういうスタイルでやってるんだよ。討伐依頼を募集して、1番報酬が高い依頼を選ぶって感じ」


「それはあなたのスタイルであって、私のスタイルではありません」


「……?けど、私たち別に同じ依頼をこなす必要はないよね?パーティを組んでるわけでもあるまいし」


「組んでますよ。パーティ」


「……え?」


 アイリスは困惑した。彼女は自分がフラメールとパーティを組もうとした覚えはなかった。


「昨日の飲み比べで勝ったほうがなんでも言うこと聞くって約束です。私が勝ったのであなたとパーティを組むことにしました」


 どうやらアイリスは覚えていると思っていた内容も部分的に抜け落ちていたらしい。アイリスは記憶になくともフラメールに迷惑をかけているので納得するしかなかった。


「な、なるほど。けど私なんかと組んでよかったの?しがない錬金術師だよ?」


「しがない錬金術師が特別掲示板の一番上に張り紙を貼ることなんてできません」


 ギルドの掲示板には2種類あり、ギルドが斡旋した依頼を掲載する普通掲示板と、個人の窓口で依頼を募集する特別掲示板がある。

 普通掲示板は依頼の難易度によって貼り出されている場所が違っており、下から3級、2級、1級となっている。3級は初級冒険者が、2級は中級冒険者がよく担当し、1級は高級冒険者、もしくは王都直属の軍隊が引き受ける。

 特別掲示板にはそのような規則はなく、基本的に自由に貼り付けることができる。しかし暗黙の了解として、自分の実力に自信がある者は上の方に、ない者は下の方に貼る。数多の強者たちが張り出す場所を巡って競い合っているが、アイリスの募集用紙の横一列はいつも空いていた。


「あそこしか空いてなかったからだよ。それに、舞い込んでくる依頼も殆どないしね」


「でしたら私のスタイルで構いませんね。もし依頼が来た場合はそちらを優先して構いません」


「……わかったよ。負けた私に拒否権はないし、君となら楽しくやれそうだし」


「それでは早く着替えて準備してください。私は外で待ってます」


 フラメールはそう言うと剣を持って部屋を出ていく。アイリスはすぐに支度をして下で待つフラメールのところに向かった。



▲▽▲▽



 ギルドの中はすでに冒険者で賑わっていた。皆掲示板の前でどの依頼を受けるか選んでいる。見る限り普通掲示板には3級と2級の依頼しか載っていないようだった。アイリスは辺りを見渡してエリカを探す。朝は酒場の掃除を手伝っているはずなので、どこかにいるはずだ。


「あ、いた!」


 案の定エリカは箒を持って酒場のカウンター辺りを掃除していた。ザッザッザッと力強く箒を振っている。明らかに不機嫌そうだ。アイリスはフラメールの後ろに隠れながらエリカに近づく。


「あ、あの〜エリカ様、おはようございます……」


 アイリスは恐る恐る声をかけた。


「あ!フラメールさん!おはようございます!昨日は楽しめましたか?」


 エリカはアイリスを無視してフラメールに話しかける。


「はい。おかげさまで」


「今日は依頼を受けに来たんですよね。外は暑いので倒れないよう気をつけてください!」


「もちろん。お気遣い感謝します」


「あの、エリーー」


「依頼を決めたらあそこの受付に言ってくださいね。でないと依頼を達成しても報酬が出ないですから」


「わかりました。気をつけます。それと、パーティ申請はどこで行えばいいでしょうか?」


「それはーー」


「それは1番右奥のカウンターで受け付けていますよ。案内しまょうか?」


「すいません、不慣れなもので」


「エリカ、ごめーー」


「いえいえ!困った時はお互い様です!」


 アイリス抜きで会話が行われている。このまま一生無視されるのではないかと怖くなったアイリスはエリカに泣きついた。


「エリカ〜〜ごべんなさぁぁい〜〜無視しないでぇぇ〜〜」


 鼻水を垂らしながら泣きじゃくるアイリスを見下ろしながら、エリカは呆れたように溜め息を吐いた。


「今後3週間はお酒禁止。いい?」


「うん!絶対飲まない!」


「なら許す。ほら、チーンして」


 エリカはアイリスの鼻にハンカチを押さえる。アイリスは思いっきり鼻をかんだ。


「……なんだか子供みたいですね」


「昔っからこんな感じですよ。私が子供の時から構ってあげないとすぐに泣き出すんです」


「……パーティを組む相手、間違えたかもしれません」


「え!?フラメールさん、アイリスとパーティを組むんですか?」


「ぐすん……そうだよ。昨日の飲み比べで負けたから、フラメールのパーティに入ることになったんだ」


「パーティと言っても、私とアイリスさんしかいませんが」


「いいなぁ。私もパーティに入りたいよ」


「ダメ。エリカはまず魔術師として一人前になってからだよ。じゃないともし君に何かあったらアウグスに合わせる顔がなくなっちゃう。わかった?」


「はーい」


 アイリスはまるで教師のようにエリカを諌める。さっきとは真逆の光景にフラメールは思わず笑いが溢れる。


「お二人とも、仲良しですね」


「もちろんです」

「もちろんだよ」


 エリカとアイリスは同時に答える。アイリスはエリカにとって幼い頃からずっと側にいた母親のような存在であり、手のかかる妹でもあった。またアイリスにとってもエリカはずっと成長を見届けてきた娘のようであり、対等に接してくれる親友でもある。


「それじゃあ、パーティ申請しに行こっか!場所なら私でもわかるし、エリカは仕事に戻って大丈夫だよ。ごめんね、邪魔しちゃって」


「いいよ、気にしないで。それより2人とも、パーティ名が決まったら教えてね!」


 エリカはそう言って厨房の掃除に向かう。アイリスとフラメールはパーティ申請ができる受付に移動した。


「私たちでパーティを組みたいんだけど、できるかな?」


「その場合ですとアイリス様に冒険者登録をしてもらう必要があります」


「う、うーん、そこをなんとかできないかな?ワルファンには許可を貰ってるしさ」


「……わかりました。特別に許可を出しましょう。ただし、依頼はこの町のものしか受けられませんからね」


「ありがとう!助かるよ!」


 受付人は書類を用意するために席を外す。


「どうして冒険者登録をしていないんですか?」


「いやー実は今王都から出禁を喰らっててさ。ギルド本部にあんまり名前を知られたくないんだよ」


「王都を出禁って、何やったらそんなことになるんですか」


「ちょっと王様の前でやらかしちゃったんだよね」


「……これ以上言及するのはやめときます。私も巻き込まれそうなので」


「うん。そうしてくれると有難い」


 そうこうしているうちに受付人が書類を持ってやって来た。書類と言っても冒険者登録と違って書く内容は少ない。パーティのメンバー名と各メンバーの職業と階級、そしてパーティ名だ。


「パーティ名ってどうする?」


「適当に決めていいですよ」


「それじゃあ『俺たち最強の酒豪』ってのはどう?」


「……受付さん、『夏の空』でお願いします」


「かしこまりました。それで登録します」


「えーどうして『夏の空』なの?」


「私たちの髪の色から連想しました」


「安直だね!」


「あなたのよりはましです」


「まぁいいや。それじゃ、これからよろしくね!フラメール!」


 アイリスはそう言って手を差し出す。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 フラメールはその手をしっかりと握った。


 こうして酒の付き合いから始まった新しいパーティ『夏の空』は、2人が想像するよりも長く、そして深く続いていくことになる。



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