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第6章 マリラ、全領国に告ぐ

 テッサ・ララークノの、大人になり切らなくとも重い声が響く。

「アナザーアメリカの皆さま、私はミセンキッタ領国主、テッサ・ララークノです。本日、ガーランド女王から皆さまに重大なお知らせがございます。どうぞ、落ち着いてお聴きください。


 私たちの大地、アナザーアメリカは玄街戦争以上の厳しい試練を迎えつつあります。その試練は老若男女に、全てのアナザーアメリカンに等しくやってきます。戦争を終えた者に等しくやってきます。

 私からお伝えできるのはここまでです。ガーランド女王マリラ・ヴォーさまのお言葉をお聴きください」


 女王の声が流れた。

「アナザーアメリカの方々よ、戦争の苦しみと悲しみに耐えた方々よ。私、調停と戦争の最終責任を負うヴィザーツの女王、マリラ・ヴォーは、まず、こたびの戦争を生き抜いた方々に敬意を示します。そして、命を奪われた方々を限りなく悼みます。


 今、玄街軍は消滅し、元玄街ヴィザーツはガーランドと調停の席に付き、さらに玄街の名と生き方を捨てました。新しい名はミナス・サレ、大山嶺の彼方の小さな領国です。


 さて、テッサ・ララークノ殿が語ったとおり、新たな脅威が生まれた。我々の世界を囲む嵐の壁、サージ・ウォールは変異し、アナザーアメリカの中心点、すなわちテネ城市に向かって収縮を始めた。


 その速度は日に5キロメートル、週にして35キロメートル、ひと月で約150メートル。1年後までにアナザーアメリカのほとんどの土地は壁の通過により、壊滅的な状況に陥るだろう。サージ・ウォールに接してる北メイス領国、そしてミナス・サレ領国はすでに避難民を各領国に送り出している」


 ミナス・サレのカレナードは女王の口調が変わったのに気付いた。休憩中のキリアンが兵站局のラジオの前に来た。

「キリアン、今は眠るための休憩時間だろ?」

「マリラさまの声を聴きたい。寝るのはそれからだ」

カレナードはもたれかかって来るキリアンを無視し、マリラの声に集中した。


 女王は続けた。

「数日前、ガーランド・ヴィザーツはミナス・サレ領国でサージ・ウォール収縮を止める実証実験を始めた。惨事を止める可能性が少しでもあるなら、我々は諦めてはならない。


 ミナス・サレは実験の好適地だが、サージ・ウォールの破壊から救うことができぬ。ウォールのエネルギーは巨大で、一部を押さえれば他の部分の力が増すことが分かった。ゆえにそれを止めるのは、一斉でなければならないためだ。

 ミナス・サレ領国主アガン家はそれを承知で実験に協力を申しでた。アガン家は玄街戦争を止められなかった責を、このような形で償っているのだ。 


 さて、アナザーアメリカの人々よ、あなた方の心に恐怖と絶望を住まわせないことがヴィザーツの役目である。ここで私は創生伝説の秘密を打ち明けようと思う」


 カレナードの肩からキリアンの頭が離れた。彼は姿勢を正していた。周りのヴィザーツたちも同じだ。アナザーアメリカの人々は何も聞き漏らすまいと待った。


「2500年前、私はテネ城市近郊でサージ・ウォールの発生に遭遇した。今は失われた技術によってサージ・ウォールは突然現れた。暴風が爆発的な力で大地を覆った。暗闇と稲妻。河は泡立ち、土地は砂と瓦礫で覆われた。

 その中で生き延びた人々がおり、長い時をかけてアナザーアメリカを作ったのだ。あなた方はその子孫である。人間は時として、とても弱く、同時にとても強い。


 私はあなた方をずっとみて来た。古領国時代の血で血を洗う戦争のあと、浮き船による調停の時代が始まり、あなた方は粘り強さを培った。


 今後、各領国のヴィザーツ屋敷は1週ごとにサージ・ウォールに関する情報を領国府に提供し、同時にミセンキッタ領国営ラジオから全土に放送する。玄街戦争の痛手から立ち上がることがままならない方々、暮らしに精一杯の方々に代わり、我々ヴィザーツはアナザーアメリカへの責務を果たそう。


 あなた方が出来ることはそれぞれに違うであろう。それで良いのである。私はヴィザーツの王であると同時に1人のアナザーアメリカンとして、決して諦めぬことをここに誓う」


 最後に、テッサ・ララークノはアナザーアメリカ法のもとでサージ・ウォール災害対策同盟を提案した。

「早々に臨時の全領国府総会を開催したく存じます。各領国の皆さま、各ヴィザーツ屋敷の皆さま、調停に臨むが如く一堂に会されますよう、お願い申し上げます」

 

 こうして放送直後に、ミセンキッタ領国府から他領国府へ電信で通達が出た。マリラはガーランド母艦に取って返し、参謀室の面々に任務を下した。

「トペンプーラ参謀室長、サージ・ウォール停止作戦はそなたが舵を取るのだ。これは時間との勝負だ。玄街戦以上の機動力が要るぞ」


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