第6章 決して諦めないことを
シャルは通信を受取り「どこも混乱してるな。こんなものか」と立ち上がった。ラーラは伸びをした。
「連携は上手くいってないの? 学徒たちを寒空に放り出したりしないわよね」
「まさか。数日ジャガイモと山羊ミルクの食事になるだけだ。ミナス・サレから香草乾パンを積んできたし、水は豊富だから大丈夫だ」
「シャル、私を輸送艦の厨房係に推薦してくれてありがとう。少しは役に立てているならうれしい」
「人手が足りないんだ。東メイスやミルタ連合、それにブルネスカでは避難計画にめどが立ったから、これからが大忙しさ。きっと俺たち、東奔西走だよ」
「今、俺たちって言った?」
シャルはラーラの頭をくしゃくしゃ撫でた。
「もうじきガーランド・ヴィザーツの各屋敷からアナザーアメリカンに向けて、一応の対応策アナウンスがあるだろうな。一縷の望みでもなければツラいからさ」
「な、何なの。アナザーアメリカンに出来ることでしょ?」
「土地を掘って退避壕を作るんだ。地下3メートルに頑丈な部屋と20日分の水と食料、あと燃料が要るな。サージ・ウォールが通過したあとを想像できるかい?」
「ひどいことになるのは確かでしょ……臨界空間が潰れていくんだから……。ねぇ、臨界空間の外側でコードは使えるのかしら……」
「使えなくても生きていけるさ。その時は赤ん坊に誕生呪がなくても大丈夫かもな。そうとう不便なのは覚悟しておこうぜ。でも、俺たちには若さがある。そうだろ?」
ラーラは叫んだ。
「生きていればの話でしょ!」
シャルの声は柔らかかった。
「怖いんだな、ラーラ」
震えるため息とともに、少女の頬を涙がつたっていた。
「もし退避壕に入る時は、俺は植物の種をたくさん持って行くんだ。新しいアナザーアメリカを作らなきゃ」
彼は楽しそうに語り、ラーラの口はぽかんと開いていた。
「あ、あなた、そんな事を考えているの……」
「君は何を持っていく?」
「分からない、まだ、分からないわ」
ラーラの頭がシャルの肩に乗った。彼女はまだ泣いていた。
「私、死にたくない」
「俺だって死にたくない」
「どうしてもダメだって時が来たら、その時、あなたが傍にいたら、最後まで抱きしめていて欲しい。お願い」
シャルは答えの代わりに少女の肩に腕を回した。
「ラーラ、ヴィザーツの資格は何だと思う?」
「誕生呪を唱えることでしょ……」
「決して諦めないことなんだ、カレナード・レブラントみたいにさ。彼女は今も諦めてない。昨日、滑走路で会った時のあの眼を思い出してみなよ、燃えてたぜ。俺は彼女のああいうところが大好きなんだ」
ラーラはシャルの腕の中で背伸びをし、涙をぬぐった。
「あなたが大人だってこと、忘れてた」
「何、それ」
「私、仕込みに行ってくる」
テネ城に入ったマリラはテッサ・ララークノと会った。彼女の顔は厳しさを増していた。
「マリラ女王、ミンセキッタ大河西方の緩衝地帯ですが、ミナス・サレ市民受け入れを少々お待ちください。今は2日後のラジオ放送を優先していただけませんか」
「ララークノ西方家が緩衝地帯に手を出したのだろう」
「仰るとおり、勝手な私有化が明るみになり、西方家の当主が自害を。私に権限を渡すよう手続き中です」
「では公式発表のみ遅らせるがいい。ガーランド輸送艦が第1陣を下ろしてきたところだ」
「そうなりますね」
テッサは女王をちらりと見上げて相槌を打った。背丈が伸びて、テッサの頭はマリラの胸あたりにあった。すっかり度胸の据わった16歳だ。
「ラジオ放送の草稿を拝見しました。マリラさま、私が前振りを務めてよろしいのですね」
「テネ城市はアナザーアメリカの始まりの場所だ。そなたからアナザーアメリカ全土に呼びかけてもらいたい」
「承知いたしました。私の草稿をご覧ください」
新年8日、ミセンキッタ領国営ラジオはアナザーアメリカ全土に電波を送った。中継はオルシニバレ山脈を越えて、北端のメイス諸領国、東端のカローニャ領国と南のマルバラ領国へ。さらにブルネスカ領国を中継して、西北のミルタ連合と西南のオスティア領国に繋がれた。




