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第6章 キリアンのコクピット

 ヒロは言った。

「データに基づき、さらに効果的な方法をテストし、検証を繰り返す。皆さん、時間との勝負デス。1日に何度サージ・ウォールに飛んでいけるか。パイロットは2交代制、場合によっては3交代制を組みますので、よろしくネ!」


 キリアンら、数人は苦笑した。ヒロの口調はトペンプーラそっくりだ。カレナードはそれを微笑んで見ていた。そばでジュノアが言った。

「マギア・チームの技はほとんど魔法だわ。同じヴィザーツでも私たちには無理ね。カレナード、何がおかしいの?」

「スピラーの隊長が余裕綽々なので。ほら、向こうの壁ぎわの紫色の眼」

「彼、あなたを見ているわ」


「ジュノアさま、腕利きの管制官をお貸しください。天候はテストの進捗を左右しますから」

「そうだろうと思って手配済みよ。ダユイ、こちらに来て」

 カレナードは心躍った。

「大山嶺の向こうへ行ったとばかり思ってた! ダユイ、よろしく頼みます」

「私の父はクラカーナさまの侍従だった。私も最後の便までここの管制を努めたい」


 不休の日々が始まった。タシュライは兵站部をマギア・チームの即席拠点にし、隣の工廠を実験用機材置き場に転用した。塩湖前の滑走路は東へ飛ぶ輸送艇と西へ飛ぶスピラー隊がすれ違った。


 実験開始2日目、カレナードはキリアン機に同乗して実験に参加した。さして広くないコクピットでも操縦者席のとなりに簡易座席が展開できる。練習機時代の名残りだ。


 サージ・ウォール手前15キロメートルに達すると、各機は発光信号とレーダー出力を最大にした。あたりは薄暗く、ウォール手前5キロメートルでホバリングを開始した。キリアンは後方に待機中のマギア・チーム艇に通信を入れた。

「3キロメートルは近すぎて、風圧で反響板が安定しない。今回はこの距離で最初に停止コード、次に無効コードを試す。その後は指示を願う」


マギア・チームから返答があった。

「了解、丁寧にやってくれ。オンヴォーグ!」


 カレナードは息を潜めていた。目の前にサージ・ウォールがあった。彼女は簡易座席で集中していた。 

 キリアンの合図で反響板を広げる起動コードを唱えた。他の機体から一斉にコード唱和の響きが通信器を通して戻って来る。反響板はメンテナンスが行き届いていて、順調に機能していた。


 再びキリアンは合図した。

「実験71番、創生歴2560年新月5日、午前11時30分開始。使用コードは『停止』そのあとで『無効』を加える。各自、ウォールの突発変化に注意せよ。時計合わせ、10秒後にコード発声。カウントダウン始め。10、9、8、7、6、5、4、3、2」

1の代わりに息を吸った。停止コードが大音響となって、サージ・ウォールに向かった。あとは計測器の音だけがコクピットに響く。

 

 15分後、もう一度同じ実験。さらに15五後、停止と無効コードを続けて試し、さらに15分後、無効コードのみを試す。その後、50メートル後退して音量を上げ、同じ実験を繰り返す。


 カレナードはキリアンの代わりにコードを唱える以外は黙っていた。彼と共にいて、彼女は落ちつき、同時に心が満たされた。サージ・ウォールの威力と恐怖、避けられないであろうミナス・サレと北メイスの崩壊、あるいはアナザーアメリカの惨状。それを考えても、こうしていればなにがしかの可能性を感じられた。

「私がミナス・サレにいて、スピラー隊が来た。これはマリラの采配だろうか。いや、何でもいい。マリラ、この偶然をありがたく思います」


 警報が鳴った。昨日と同じように、ウォールの一部が急激に飛び出し、秒速90メートルの暴風が迫った。小さな物理バリアー発生器があるとはいえ、反響板が壊れないよう、突風を避けた。そのためスピラーのいくつかは位置がずれてしまった。キリアン機も座標を合わせなおした。


「次の時刻を少しずらす。ヒロが文句を言っても俺は知らん、僚機の安全第一だ」

「あの突風は昨日もあった?」

「ああ。ヒロによると、コードの音響が均一でないところで発生しやすい。この面積でこのありさまだ。仮に実験で対応策が出来ても、かなり危険な作戦になるだろうな」

「うん。私が大西洋上で感じたサージ・ウォールの上昇気流と全く違う。あの時は、まだどこかに規則性があった。反転してからは収縮と移動のベクトルでとても不安定に見える」


 キリアンのスピラーはゆっくり元の位置に戻りつつあった。

「怖いか、カレナード」

「少しね」

「余裕じゃないか。さすが女王代理だ、俺はとても怖い」

「キリアン、オープン回線が開いているんじゃないの」

「1分くらい調整中と言って回線閉じても平気さ」

「隊長機がこれじゃ隊員が真似するね。帰ったらヒロ・マギアとバジラ・ムアに告げ口してやる」


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