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第6章 実証実験の好適地

クラカーナは愚痴った。

「科学者は人に無駄な期待を持たせないすべを心得ておる。のぅ、紋章人よ」

「クラカーナさま、脚は痛みませんか」

「ふん、儂は最後の便が出るまでここにおるゆえ、女王代理は儂より先にジュノアを連れて大山嶺の向こうへ行くがいい」

「心得ております」


 クラカーナは自ら築いた壮大な城と共に死ぬつもりだろうか。カレナードはひどく鋭くなった彼の眼光と横顔に、死の影を見た気がした。彼女自身、恐ろしかった。戦争とは違う脅威、玄街軍の数億倍の破壊力を有するナノマシンの暴風塊がやって来るのだ。


 彼女はマギア・チームの補佐役だった。混乱状態のミナス・サレで、チームが活動するために、あらゆる便宜を取り付けねばならなかった。現場から現場へと連絡を取り、しばしば走り、調整することで彼女は恐怖を忘れることにした。


「オンヴォーグ、カレナード・レブラント!」

自分自身にオンヴォーグを贈った。

「マリラ、あなたにもオンヴォーグを贈ります。誰よりもアナザーアメリカを大切にしてきたあなたが、今、どれほどの苦しみに耐えているか」


 第4会議室に揃った者も一様に破滅の前の苦しみに満ち、奇跡の打開策に賭けていた。マギア・チームは中央にいて、ヒロは大きな玉虫色の眼鏡をかけていた。

「お集まりの皆さん、入室時に注意したとおり、玄街コードは使用禁止。では、ざっくばらんに始めましょう。改めてサージ・ウォールの現状には触れますまい。問題は収縮中のあれを止める、あるいは再変異させ元の拡大状態に戻す、もしくは消滅させる。この三つしか選択肢はありません」


 ジュノアが手を挙げた。

「三つの実験をするとしたら、どれから?」


ヒロの唇が笑うように開いた。

「実を言うと、もはや三つをやれるほど時間がない。あれを止める実験で精一杯。ただ、ミナス・サレは実験場として最適なんですよ、ジュノア・アガンさま。こんな好適地はほかにありえない。我々を受け入れて下さり、感謝しています」


ジュノアは先をうながし、ヒロは実験の目的を述べた。

「サージ・ウォールは一定のプログラムで動いている。そのプログラムを無効、あるいは停止するコードを掛けたら止められるんだ、理論上は。けど、言うは易し、行うは超難し。お分かりでしょう、皆さん」


ガーランド・ヴィザーツ、特にパイロットたちはよく分かっていた。嵐の壁は高度3000メートル、総延長13000キロメートルの環状だ。それにコードを掛けると? どのようにして?


 キリアン・レーは気付いていた。

「スピラー隊が呼ばれたわけだ。元は練習機で1人乗りだ、通信用の良質音響機材搭載だものな。間違いなく巨大共鳴板とセットにされる」


 ヒロは続けた。

「ミナス・サレの標高は約1300メートル、残る1700メートルを相手に実験と検証を繰り返すに持ってこいの好条件。北メイス領には標高1600メートルの山があったが、もうサージに呑み込まれたし、山地はすぐ海に突っ込んでてデータ変数が膨大すぎる。ホントにここは千載一遇の土地だ」


 実験に参加するルビン・タシュライは気が急いていた。

「褒めるのはもう十分。本筋に入ってくれ、マギア殿」


 ヒロは進み出た。

「最初の実験の目的はひたすらデータ収集。サージ・ウォールの暴風を避けてホバリング可能な位置はウォールから3キロメートル手前だ。ウォール表面の縦横1700メートルを一単位として、コード音声が等分に届くようにスピラー20機とV3型飛行艇10機を配置。 

 これが実験の基本形だ。3日間これでサージ・ウォールの変化と各機体のデータを確実に取る。


 最大の問題は各機に取り付ける反響版、移動しやすく折り畳み式にした。つまりスピーカー。防御壁コードで作ったものだから、くれぐれも慎重に開閉し、風圧やゴミの吹溜りに注意を。ミナス・サレ軍の方々は操作に慣れるようガンバってほしい」


 会議室はあいかわらず静まり返っている。

「じゃ、今から実物の100分の1スケールでやってみせるから。皆さん、そのまま無言で」


 マギア・チーム18人がヒロの周りに出た。それぞれに静かにコードを唱えている。いっけんバラバラなように見えるが、チームは完璧な手順とタイミングで会議室の真ん中に半透明のサージ・ウォールと説明通りのスピラー20機にV3型飛行艇10機のホログラムを出現させた。最後にヒロが起動コードを加えると、6枚の反響版がゆっくりと広がった。まるで巨大なはねのようだ。

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