第5章 セバン高原戦・6
が、それはガーランド・ヴィザーツとて同様だった。エーリフは「時刻合わせ」の直後に第1戦速で先陣を切った。バルト、ロリアン、ビスケーがあとに続く。
4隻はわずかに右にずれつつ、マンダリン艦とすれ違った。マンダリンは玄街艦隊の右端にいて、長距離砲を多数搭載していたが、矢のようなガーランド戦艦を狙い撃ちできなかった。左舷から集中攻撃を受け、砲塔のほとんどを失った。最後にビスケー艦からの至近弾がエンジンを貫いた。
母艦のトペンプーラは玄街戦艦の弱点を見抜いた。
「船尾が弱い。狙うなら船尾に近いエンジンだ。エーリフ、船尾とエンジンを狙うのデス!」
メジェドリンの副艦長はぎょっとしていた。崖下から火炎が上がっているではないか。
「セバン基地、何があった!」
黒煙の向こうにガーランド母艦が離れていくのが見えた。ミナス・サレ黄幇隊の隊長機がしんがりを務めていた。黄色と白に、オレンジのマークが映えて、ひときわ眼を引いた。
ジー大将が吠えている。
「お前たち、戦艦のドックが消えたぞ。左翼のドックも半壊だ! 奴らの母艦を墜とせ! こちらは向こうの地上部隊を叩く」
通信を聞いていたイダ・タシュライは血だらけの右手を上げた。
「副艦長、ガーランド戦艦はすぐに反転するぞ。そこを狙え、次の標的はアガートと本艦だ。反射砲を載せているからな」
彼は近くに弟の気配を感じた。
「ルビンめ、ミナス・サレ軍のどこかにいる。同じ父の血を引きながら、ガーランドにたやすくなびきおって……。私を殺せるものなら殺してみろ。魂の重しになってやるぞ」
ガーランド母艦は湖近くで船首をメジェドリンに向けていた。5キロメートルの距離だった。荷電粒子砲の砲身は限界まで加熱し、冷却機関の負荷もいっぱいいっぱいだ。
トール・スピリッツとスピラーはデンベル戦闘艇の波状攻撃からハイランド隊を守るのに必死で、艦隊戦を援護する余裕はなかった。
キリアンは予備の槍をデンベル艇に投げた。槍は艇の機関部を直撃し、地上に落ちていく。パイロットが脱出するのが見えたが、彼はそれ以上見ずに乱戦の中の部下たちの位置を確認した。
「第3波に備えろ。かなりの腕利きが揃っているぞ! 今が正念場だ! 圧していくぞ!」
台地上では戦艦同士の激しい砲撃が続いていた。戦列を組んで玄街艦を一つずつ沈めようとするガーランド艦隊に対し、玄街艦隊もまた戦列の体勢で反撃してきた。ガーランド母艦の荷電粒子砲が沈黙する間、二つの艦隊は熾烈な砲撃戦を展開した。
正午が過ぎ、さらに1時間が過ぎた。玄街艦隊で生き残っているのはセレンディ艦だけだった。マンダリンは大破し、アガートは炎上した。メジェドリンもまたエンジンをやられ、台地の雪上に巨体を投げ出していた。
抵抗するセレンディ艦は西へ追いやられ、アドリアンとビスケーに撃たれている。
エーリフはオープン回線で呼びかけた。
「玄街艦の各艦長、およびグウィネス・ロゥに告ぐ。降伏を勧める。そちらの艦隊はもはや死に体だ。基地も間もなく制圧完了だ。これ以上、命を無駄にするな」
ハイランド隊は基地深くまで侵入し、各部署を機能停止に追い込んでいた。司令部だけが最後の抵抗を見せている。指令室のある5階で、ジー大将は残る手勢に命令した。
「玄街ヴィザーツの恐ろしさをみせつけてやれ! 生涯に残る呪いをかけてやるぞ、コード29900-3-1を一斉に放て」
グウィネスは止めた。
「お前たち、大規模誘爆コードでなんとする。ガーランドの歩兵部隊を道連れにして、どれほどの益がある。反射砲もない。ジー、お前の名において降伏しろ」
大将は口から泡を飛ばした。
「それを仰るか、首領殿。我々はいずれ処刑される。いっそここで最期を迎えたい」
「マリラ女王の狙いは私だ。玄街軍を解体するはたやすいが、私の存在はそうそう消せぬものゆえ、ここを灰にしてもしなくても同じことだ。それでもコード29900-3-1を使うのか?」
この時になってジーは初めてグウィネスの謎めいた微笑に気づいた。
「首領殿?」
階下から銃声が響いた。
「まぁ良いわ、私はどちらでもかまわない。降伏は早ければ早いほどいいぞ。部下が死ぬばかりだ」
銃声ばかりか、手榴弾の炸裂音、悲鳴、装甲車両のエンジン音が近くなった。




