第5章 セバン高原戦・4
「バリアが効かない、距離が近すぎる! ヒロ・マギア! 反射砲ビームの追跡は出来てマスか?」
「おおお、オレっちの頭脳はスパーク寸前だよ」
それでも艦橋の隅に陣取ったマギア・チームは予測演算に集中している。
「大きいビームは北メイス領外のサージ・ウォールを直撃するコース。第二甲板を貫通したヤツは小型だな。威力は今までの2割ってところ。ただ、角度がきついから臨界境界面をうまく滑るかどうか分からん。反射したとして、そのままの熱量がセバン周辺に落ちると考えにくい」
「分散した場合、どうなりマス?」
ヒロは眼鏡のつるをクイッと上げた。
「分からん。今から追跡しないと。とにかく反射砲は二つとも早く潰せってこと。あれがアドリアンを撃ったらジーナ女官長が泣いちゃうよ」
ラーラ・シーラは遠くからの波を感じた。彼女はシャル・ブロスの所へ走った。彼は冬作戦の戦況に応じていつでも輸送艦がセバンへ出られるよう準備をしていた。
「シャル、アルプからどれくらい遠いの、すぐ戻って来るの。私、何だか怖くて仕方がない」
「うん、今日が冬作戦の天王山だな。セバン高原で反射砲を撃ちまくっているみたいだ。ラーラ、こっちへ来なよ」
シャルは彼女の耳に両手を当てた。
「ミナス・サレの父さんに一報入れておこう。この先、向こうもてんやわんやになるかもしれない。俺も輸送船と一緒に行かなくちゃ。でも、君のことを忘れない。耳を大切にして、怖くなったら俺の声で心を満たしてよ」
「え? 何?」
シャルはラーラを優しく抱きしめて、耳にささやいた。
「オンヴォーグ、ラーラ・シーラ」
声はゆっくりと少女の胸の奥まで降りて行った。ラーラは目を閉じていた。なぜか涙がこぼれた。他人からこんな風に抱きしめられたことはなかった。
「うん、忘れない。あなたの声を忘れないわ」
ガーランド艦隊は反射砲破壊に集中していた。休憩を終えたスピラー隊が切り込んでいけば、玄街戦艦から凄まじい反撃がかえってくる。イダ・タシュライは乱戦の隙をついて第2反射砲をガーランド艦隊に向けていた。
「砲撃班、用意はいいか」
観測手が応答した。
「目標、敵艦バルト。距離7500百メートル。耐衝撃の必要あり。艦長殿、許可しますか」
「この距離で試したことがないのが痛いな。データからの試算で出力調整しろ、周辺の氷雪を洪水にしてはいかん」
「試算から出力19%に調整中」
イダにとって拍子抜けする数値だった。
「アガート艦の小型と変わらんか。よし、バルトから溶かしてやれ。僚機に信号弾発射!」
ガーランド側もそれを見逃さなかった。バルトはぎりぎりで収束ビームを回避し、次第に高度を下げていたガーランド母艦が荷電粒子砲をメジェドリンに放った。薄青いバリアに弾かれつつも、メジェドリンの船体は一部ひしゃげた。
すかさずアガートの後甲板の小型反射砲が母艦に向かって反撃した。ビームは第一甲板すれすれに通過し、遥か北のサージ・ウォールに当たった。
再び、ガーランドと玄街の乱戦が始まった。何度か反射砲と荷電粒子砲の応酬があった。ガーランド母艦の第二甲板は激しく壊れ、メジェドリンの盾になったセレンディ艦は煙を上げた。
エーリフはマリラに連絡した。
「向こうの闘い方を見るに、反射砲を守るために相当の戦力をつぎ込んでいる。現在、玄街戦闘機と戦闘艇の撃墜数は47、こちらの被害は巡洋艦が1隻、戦闘艇が10、ミナス・サレ軍戦闘艇は4、トールも損傷を受けている。
そこで、女王、母艦を我らの戦列の後ろに付けていただきたい。30分以内に反射砲を壊せない場合、アドリアン級5隻で接近戦をしかける。母艦はミナス・サレ黄幇隊と共に我らの後ろを迂回しつつ、基地のドックを潰す。よろしいな?」
マリラとトペンプーラは互いの顔をみて頷いた。
「了解した。11時20分をもって、接近戦開始とする。我ら母艦を追ってアガート艦が回頭するだろう。船体が横腹を見せたら集中攻撃しろ。何としても反射砲は壊せ。臨界空間を、我らの世界を守るのだ」
グウィネスとジー大将は少々いら立っていた。
「ジーよ、オハマ拠点の援軍が来ない。連絡は届いたのだろうな」
「予定時刻を過ぎたばかりだ。10分前にミセンキッタ大河源流域を通過したと通信があった、もう少しで挟撃体勢に入れるだろう」
「おかしい……、何かがおかしい」
「首領殿、何が引っかかるので?」
「南方がガーランドの攻撃を受けたのが嘘としたら、全てのつじつまが合う。我々は騙された。ミナス・サレだけでない、南方の4拠点もいつの間にか我々の手から離れていた。ガーランドの欺瞞情報によってだ!」




