第5章 セバン高原戦・2
ガーランド地上軍による玄街兵舎制圧は半分ほど完了していた。投降した玄街兵士をひと部屋に詰め込だはいいが、空中戦のとばっちりを受けたくはない。ハイランド隊の隊長は決断した。
「装甲車を兵舎に突っ込んでくれ。隙をついて南方へ脱出するぞ」
雲の上で日が昇り、空は明るくなっていた。セバン基地からオレンジと紫の信号弾が上がり、すぐに黒い玉が三つ上空に浮かんだ。玄街戦闘機がメジェドリンの後方に下がっていく。
キリアンは叫んだ。
「スピラーも戦艦も全部下がれ! 反射砲が稼働してるぞ!」
数分後、轟音がこだました。禍々しいビームは遥か西南西に飛んでいく。
エーリフはガーランド母艦の荷電粒子砲がそれを追うのを確認した。マリラがすぐ近くで警戒していたのだ。
「あの反射砲はミナス・サレを狙ったものだ。グウィネスは復讐するつもりだろうが、弱ったビームが大山嶺を越えられるか?」
ガーランドのビームが反射砲のビームに届いた。干渉しあう二つのエネルギー塊は激しい爆発と閃光をまき散らし、わずかに残った細い反射砲ビームが大山嶺に消えた。マリラはトペンプーラを振り返った。
「ミナス・サレに連絡は?」
「しましたが、女王、間に合いませんヨ。ヒロ・マギアの推測では黄鉄回廊を通る角度です。したがってミナス・サレ本城を狙うのは無理デス。もっともビームがトンネルを貫通したら市民たちは肝を冷やすでしょう」
カレナードが緊急連絡を受けた直後、黄鉄回廊からオレンジの閃光が塩湖の向こうに飛んだ。光の矢はバリバリと空気中のサージ粒子を焼き、本城の前を横切り、天蓋の一つに大穴を開けた。サージ・ウォールに当たったビームは行き場を失い、激しく火花を散らし続けた。
ダユイの口元が曲がった。
「これはバレたな。グウィネスがミナス・サレに仕返しするために撃ったに違いない」
シドは考え込んでいるカレナードを見た。
「ここの仕事は終わったか……おい、紋章人?」
「まだオハマやジーマは使えます。引き続き、運用を考えましょう。ただ、ミナス・サレも戦場になる可能性は捨てきれません。私はジュノアさまに会ってきます、ガーランドから通信があれば本城に繋いで下さい」
カレナードは冬作戦の推移を知りたかった。が、今はジュノアと共に備えを強化しなくてはならない。それが自分の任務だからだ。
セバンの戦場では、がら空きになった平原を装甲車と戦車が突っ走っていた。ハイランド地上部隊が捕虜をすし詰めにして脱出しているのだ。それめがけて玄街軍が戦闘機で掃射に戻ってきた。ガーランド側は即座に応戦し、地上軍が捕虜を大型飛行艇に収容している間も流れ弾が飛んだ。
雪原に黒い焦げ跡と血だまりの赤が点々と増えていく。アヤイ・ハンザのスピラーは最後の爆弾を投下した。
「なんてしぶといんだ! 反射砲を直接やるしかないのか?」
彼はスピラー脚部から短槍を取り出し、アガートの甲板ごと反射砲を突く体勢になった。集中砲火を浴びるのは分かっていた。コクピットに衝撃が来るほどだが、彼はそばにキリアン機がいるのを知っていた。
「隊長! 援護を頼みます!」
キリアン機の代わりに、スピラーよりひと回り大きい機体が来た。
「アヤイ、無茶しやがる! 俺さまより目立つだろ!」
「ピード・パスリ!」
「トール・スピリッツ見参、雑魚は任せとけ!」
ピードの駆るトール5番機は次々と玄街戦闘機を薙いだ。
アヤイの眼は反射砲の砲身だけを見ていた。スピラーの剣は煤けた砲身を貫き、甲板に刺さった。小さな爆発をあとにし、2機はそのまま乱戦から離脱した。
「アヤイ、ロリアン艦で武器を出してもらえ。丸腰は話にならん。他のスピラーも補給が要るころだ。しばらくはトールと飛行艇に花を持たせてくれ」
「了解、ロリアンに向かう。オンヴォーグ!」
ピードはレーダーをチェックした。
「向こうの戦艦が上がってくる。メジェドリンの反射砲は要注意だな」
僚機が横についた。
「ピード、反射砲を早めに潰せとトペンプーラから命令だ」
「早速か。あれを至近距離で撃たれるのは勘弁だからな。よし、3機編隊を組むぞ。ボルタはいるか?」
「向こうの戦闘艇はまだ動きがいい。ここは4機で組もう。ホーン・ブロイスガーにしんがりを任すぞ。ホーン機、出られるか」
間もなくガーランド母艦から4機がメジェドリンに向かった。
午前9時、太陽が出た。戦闘はセバン高原全域に広がっていた。玄街軍は兵士を奪われていたが、底力を見せるのはこれからだ。グウィネスは司令室で戦況をじっくり観察していた。
「イダ・タシュライ、メジェドリンの反射砲を有効に使え。アガートの後ろ甲板に小型の反射砲を乗せるまでに、ガーランド戦艦の一つや二つ、落としてやれ。工兵をアガートに集中させよ」
ジー大将はガーランド地上軍が再び攻勢に出ると予測した。
「いまだに基地本体に爆撃しない訳があるのでしょうな。それが何か、お分かりか、首領殿」




