セバン高原戦・1
セバン高原はうっすらと夜明けを迎えた。午前6時半、上空にガーランド艦隊が完璧な布陣を敷いていた。朝の輝きはなかった。
セバン基地は分厚い雲の下だが、うす暗いのは雲のせいだけではない。降下したガーランド戦艦と戦闘飛行艇から展開した地上軍は戦車と装甲車両を押し立て、一斉に20ヶ所の兵舎を襲った。
ほぼ同時に司令室周辺と戦艦ドック、兵站局以外の電気ケーブルが切れた。非常警報はほとんど作動しなかった。兵舎にいた玄街の兵士たちは突然の襲撃に慌て、なんとか抜け出した者は指揮所に走るしかない。方々で混乱が広がっていた。
司令部左翼のジー大将の斥候隊が怒鳴っている。
「ガーランド艦隊だ。基地南面の戦闘飛行艇から戦車が出ているぞ、上空に大型輸送艦確認! 大将、各兵舎と連絡取れず!」
ジーは素早かった。
「伝令! 各部隊は即時戦闘態勢だ。斥候隊1班は兵舎を回れ。2班は管制に代わって周辺を崖上から目視確認。3班、兵站に電源確保を要請しろ。仮設ケーブルがあればもっと良い。それにしてもガーランドはなぜ爆撃してこない。地上から攻めるより空爆すると早いぞ。儂ならそうする」
グウィネスが乾いたパンと祭りの名残りの鹿肉シチューを差し出した。
「近くに奴らの戦艦がいるはずだ。最低数の乗員が揃いしだい発艦できるようにせよ。空爆しないにはわけがあるはずだ」
彼女は知らなかった。マリラは彼女を生きたまま捕縛し、ウーヴァの前に放り出すつもりだと。
メジェドリン艦橋から連絡が来た。
「こちらイダ・タシュライ。発艦まで20分。当艦の戦闘機は7分後に9機が準備完了だ」
ジーは落ち着いていた。
「待ってろ。すぐに命令を出してやる」
残るマンダリン、アガート、セレンディも同様だった。崖上の斥候から無線が入った。
「西方2キロメートルにガーランド戦艦が勢ぞろいしている。戦艦周辺に戦闘機と見たことのない戦闘艇が多数。白と他色のツートンカラーだが、型は我々のものとほぼ同じだ」
この瞬間、グウィネスは悟った。ミナス・サレのダユイは裏切者で、ツートンカラーはミナス・サレの新造戦闘艇だ。
「斥候2班、ガーランド母艦が近くにいるはずだ、探せ」
「いや、それより主に兵舎が襲撃されている。格納ドックはまだ何も、うっ!」
南方からスピラーの群れが飛来した。
「ジー大将! スピラー30機だ。3隊編成に見える」
「よし、メジェドリンとアガート艦の戦闘機は迎撃だ。マンダリンとセレンディ艦の戦闘機はガーランド地上軍を狙え。兵舎に侵入した敵を挟撃せよ」
キリアン・レーは前の攻撃でアガートの位置を確認していた。
「スピラー1小隊、玄街戦闘機を近づけるな。第2小隊は対空砲火を潰せ。第3小隊、アガート艦までまっすぐ行くぞ!」
地上戦に加えて、空中戦の始まりだった。ドックから上がってきた玄街戦闘機と戦闘艇は猛攻し、戦艦と基地を守った。それをすり抜けたのがアヤイ・ハンザのスピラー11番機だ。
「戦艦アガート上に反射砲を一基確認! もう一基が見当たらない。11番機、アガートに仕掛ける!」
イダ・タシュライはメジェドリンの残りの戦闘機を発艦させた。
「スピラーか。厄介な動きをするが、我らの戦闘機を見くびるなよ。くそ、頭痛止めをくれ、すぐ効くヤツを!」
アヤイはうるさい戦闘機をかいくぐりながら爆撃した。アガートの甲板に黒煙が上がるが、的中を確認できない。
「レー隊長、もう一度行きます」
キリアンはメジェドリンの甲板上に反射砲を認めた。それは発光していた。
「反射砲警報信号弾発射! 全軍、反射砲に気をつけろ、アヤイはどこだ!」
ワレル・エーリフはキリアンの信号弾に眉を上げた。
「呆れたな。反射砲で近場の獲物を狙う気か、それとも遠方を撃つのか。よろしい、おびき出して戦力を削いでやる。
トール・スピリッツ発進! バルトとビスケーは南へ出て、基地から見えるようにしろ。カラとロリアンはアドリアンの左後方で斜め戦列を組め。対艦隊戦用意。
ルビン・タシュライ殿、後方からいつでも出られるように編隊を組むぞ!」




