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第5章 脱出の飛行艇は夜半に飛ぶ

 セバン基地のアレクは冬至祭の御馳走を用意するのに追われていた。

 ジー大将が直々にクジラグマの解体をし、エルマンディ艦長のイダ・タシュライまでがジーを手伝い、いつにもまして気が抜けない。ジーとイダはかつての狩猟仲間だ。ついでにオオベラ鹿を料理すると言い出して、兵站はますます忙しい。


「玄街の癖だ。いったん緩むとお祭りになる。あの2人には早めに訳ありアルコールで、羽目を外してもらおう」


 その裏手のメンテナンス通路では、打音検査の作業チームにハーリがいた。彼はハンマーを握る手の中に玄街コードの解除機器を忍ばせ、区画ごとにそれを使った。ガーランドのマギア・チームが工作員のために開発したものだ。発覚すれば命はなかったが、ハーリは黙々とやってのけた。


「電気ケーブルが切れるま400時間。冬至の朝7時にセバン基地の6割は混乱に陥るだろう。その頃にガーランド第1陣が奇襲をかける。僕の脱出ルートはアレク・クロボックにかかっている。彼と接触しておかないと5割の確率で死ぬな……」


 ハーリは捕虜の食事から戻る途中のアレクに短く声をかけた。

「冬至の唐辛子は足りてるか?」

即座に返事が来た。

「ああ。そっちは何が要る」

「たまには外に出たい。予定はあるかい」

「20日の夜か21日の夜明け前だ。23ゲート右端の機体だ」

「期限は21日6時だ。それを逃すと祭りだ」

「オーケー」


 2人はすっと別れた。そこからはカウントダウンだ。アレクとハーリは脱出準備に入った。

 天候はまずまずだった。19日に吹き荒れた吹雪は東に去り、あとは曇り空に少々雪が舞うくらいだ。薄暗い空に慣れ切ったセバン基地は冬至を祝いたくて仕方がなかった。

 20日の午後に戦闘機2個中隊がミルタから来たスピラー10機と数分交戦し撃退した。戻ったパイロットたちは「ありゃ何しに来たんだ」とバカにした。


 イダ・タシュライは指令を出した。

「用心を怠るな、ミルタ前線基地はしぶといからな。冬至祭が終わったら、反射砲で撃ってやる」


 グウィネスは基地内の弛緩した空気に正直いらだっていた。

「ガーランド母艦の情報が錯綜しているというのに、浮かれすぎている。母艦は反射砲で爆発した確証がないうえ、オハマ2の近くにいたと言う。一方、ミセンキッタと西の緩衝地帯での目撃情報もあるが、それは本物か空輸中のデコイなのか。情報室は報告を精査しているのか!」


 彼女はマリラがガーランドの圧力で、各領国が玄街の降伏勧告を撥ね付けさせたことも許せなかった。

「これほどアナザーアメリカを痛めつけても音を上げないなら、さらに悲惨になるだけと考えないのだな」

司令室に黒い魔女の声が響いた。

「イダも、お祭り男の役目は果たした。祭りは兵士たちに任せ、大佐以上を招集せよ!」


 午後8時、イダ・タシュライとジー大将が奇妙な酩酊で司令室に現れ、基地のあちこちで冬至を祝う音楽が始まった。各ゲート周辺の衛兵も番所を離れ、温かい兵舎で酒宴の輪に入った。アレクは4人の捕虜に雑用係の服を着せ、メンテナンス通路から通路へと23ゲートに向かった。目当ての飛行艇にロック解除のコードを唱え、隠しておいた予備の防寒服と食糧を積み込んだ。


「中に入って体を温めてくれ。あと1人合流する」


 21日午前1時、ハーリ・ソルゼニンがやって来た。彼は言った。

「真東に飛ぶんだ。味方から撃たれたくなければな」


宴もたけなわの夜空にアレク操縦の飛行艇は飛び立った。いつもより酔いが抜けないジー大将とイダは司令室脇の小部屋で惰眠を貪りつつ、かすかに飛行艇の上昇音を聞いたような気がした。


 グウィネスだけが疑った。

「定時の偵察飛行ではない、冬至祭に合わせた変更なのか?」

彼女は仮眠台を出て、スケジュール表を確認しようと参謀長に内線電話を使ったが、なしのつぶてだ。

「ふ……テロリストを正規軍に育てた甲斐がない! いったいどこで酔いつぶれているのだ!」


上着とマントを引っ掛け、参謀室に行く途中、突風の音がした。彼女は空の参謀室に入り、管制室に怒号を飛ばした。

「レーダーをチェックしろ! 今すぐだ!」

管制官はひどく酔っていて、飛び立った飛行艇を見失った。

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