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第5章 反撃へのカウントダウン・1

 『オハマ2』からセバンに来て、ハーリは大胆に基地を探索した。冬至祭に基地内のインフラを破壊するためだ。それには雑役要員の仕事がぴったりだった。そして、情報室の監視網を2日で見抜いた。


 ハーリは身代わりを用意した。一緒に『オハマ2』から来た女だ。女は自分の利益が最大の関心事で、裏であること無いことを喋るのだ。数日後、その女は監視網にかかった。ハーリは黙々と仕事をこなしていた。


 それから間もなく2基の反射砲がガーランド艦隊を襲った。マリラは艦隊の南下を1日早め、ほとんどの船は空域を離れていた。しんがりを務めるガーランド母艦が直撃を受けた。2束の収束ビームが激しく母艦周辺のデコイを焼いた。トペンプーラはバリアが限界に達するのを待った。


「ガーランド母艦、急速上昇! 高度2900まで一気に行け!」

ビームの轟音のあとは、凄まじい重力が襲ってきたが、乗組員は作戦は順調に進行中とかまえていた。管制室のミシコ・カレントも余裕だ。

「ヤルヴィのセリフじゃないが、屁の河童だ」


 ガーランドのデコイが爆発を繰り返して炎上する遥か上空、ガーランド母艦は小枝のようだ。小枝は素早く雲の影に隠れ、行方をくらませた。

 同時に南下する戦艦アドリアンはもう一つ、巨大なデコイを引っ張っていた。ガーランド母艦に似たシルエットだ。エーリフはそれを眺めて言った。

「ジーナ、お前がそこに乗ってないのが残念だよ」


 翌日の夜明けには玄街拠点『オハマ1』『オハマ2』『ジーマ』がガーランド艦隊とミナス・サレ軍に強襲され、その日のうちに制圧された。残る『ロゼ』はミナス・サレ軍だけで占領した。


 欺瞞作戦は続いていた。南方の拠点が失われたことをセバン基地に知られてはならなかった。ガーランド地上軍であるハイランド隊は真っ先にジャミング工作を施し、制圧後に通信設備を破壊した。代わりにミナス・サレに4台の通信器を用意しておき、それぞれの拠点が無事であると見せかけた。通信員はもちろん潜入していた情報部員たちだ。


 カレナードは難しい正念場を持ちこたえるため、綿密な打合せを続けた。ガーランド艦隊は次々と大山嶺を抜けた。ミナス・サレ城前の滑走路、北の谷、塩湖の畔に巡洋艦と戦闘飛行艇が整然と着陸し、5隻のアドリアン級戦艦が大山嶺の山襞に沿うように空中待機している。

 

 ルビン・タシュライはニヤリとした。

「私が計算した場所にぴたりと降りてくれた。腕前はさすがだ」


 ガーランド艦隊とミナス・サレ軍が足並みをそろえている間、ダユイとシドとカレナードは一つの言葉を禁句にしていた。

「勝利」

心中でいくら欲しても、言葉に出来ないほど3人は綱渡りの真っ最中だった。

 いつガーランド母艦を「オハマ2」で目撃させるか、いつ「ジーマ」がミナス・サレのスパイ拘束を報告するか、いつ「ロゼ」がハイランド隊の攻撃を受けるか。絶妙なタイミングを狙い、欺瞞情報を真実に替えていった。


 15日、カレナードは旗艦アドリアンの艦橋でエーリフから衣装一式を渡された。

「マリラ女王から預かってきた。我々が出陣する際、これを着て芳翆城の屋上でオンヴォーグを贈ってくれ。女王に代わって艦隊に大いなる加護を」


 衣装ケースの中にはマリラと同じ真珠色のマント、真っ白の冬の戦闘服、女王の紋章旗、そして白銀に輝く花の冠があった。エーリフは女王代理に依頼した。

「これから我々は血に染まりに行く。女王代理のオンヴォーグが我々にとってどれほど貴いか、あなたも分かるだろう」

カレナードはそっと紋章旗に触れた。

「ええ、私のあらんかぎりの力で、艦隊の皆さまにオンヴォーグを」


 エーリフの大きな手が久しぶりに紋章人の肩に乗った。

「では頼んだぞ。各艦の記録係が女王代理を写真に収めるゆえ、私はジーナのために1枚取っておくつもりだ」

「えっ、女官長さまにまた叱られます!」

「ジーナも今回ばかりは大目に見るさ。彼女はマリラさまと、今頃は迂回コース上にいる。高度2920だぞ、めったにみられない絶景を眺めているに違いない」


 エーリフはタシュライら、ミナス・サレ軍の幹部を呼び、作戦の最終チェックに入った。明らかになったセバン基地の詳細な図を前に、各部隊の侵攻計画を確認した。カレナードもその場にいた。新情報がワイズ・フールから得たものと推測したが、黙っていた。


 遠くミセンキッタ北東部の5つの大きな湖上空の雲間にガーランドは隠れていた。

 トペンプーラはガーランド母艦のデコイが「オハマ2」近辺にいて、玄街の生残りは即席の収容所で厳しい監視下にいると連絡を受けたところだ。

「さて、フールを処置しなくては。マリラさまのお手を煩わすのは気が引けますが……」

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